第75話 迷宮の悪魔崇拝者たち

 この世界には魔素と言うものがある。


 人間が魔法を使用するのに大気中に散布されている魔素を利用するのだ。


 この魔素は地上深くから湧き出されていると言われている。


 つまり、地下迷宮には濃い魔素が流れている。


 魔を極めたと言われる7人の魔導士は、この魔素の流れを読み取り、理外を超えた魔法の使用が可能になる……らしい。 


 彼等、もしくは彼女等が切り札として使用する魔法が秘中の秘であり、それを見た者は限りなくいない。


 話を戻そう。


 この魔素、厄介なのは生物を狂暴化させ、強化させる。


 つまり、地下迷宮ダンジョンに住み着く生物は、濃い魔素の影響を受けて、既存の生物とは大きく変化している。


 これを人は魔物モンスターと呼ぶ。


 ・・・


 ・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・


 黒い影が飛び出してきた。


 一見すると、それはただの蝙蝠に見える。


 だが、その大きさ――――鎧で武装した成人男性を持ち上げる事もある。


 魔素により、巨大化と狂暴化した立派な魔物だ。


 名前は悪魔蝙蝠デビルバット


 蝙蝠の特徴である超音波。それを、そのままに薄暗い通路を障害物に接触せず、自由に飛び回る。


 いや、障害物だけではなく名が通る冒険者の攻撃すら、用意に避ける。


 ――――そのはずだった。


「破ッ――――」とメイドリーのナイフが煌めく。


「まずは1匹。それから2匹目!」


 瞬時に接近して、1匹目を斬り落とす。


 そして2匹目は投擲によって排除。


「3……4……これで8匹です」  


 高速のナイフ捌き。それに相応しい体捌き。


 彼女が通過した後には悪魔蝙蝠の亡骸が列を成す。


「流石だね、メイドちゃん。この迷宮の適正冒険者レベルは銀級とかBクラスとか言われている高難易度なのにアッサリ進んで行くね」


「お嬢様……私1人に任せないでください。本当は、ここを1人で挑むつもりだったのでしょ?」


「まぁまぁ、そう言わず。ほら、投げたナイフは拾っておいたよ」


「……危ないので、投げて渡してこないでください。獲物を刺した直後で、血が飛んで汚いですよ」


「大丈夫だよ。魔物は強くなれば強くなるほど、体が成分が魔素が多くなっているから、このクラスだと倒すと魔素が抜けて血も肉も残らないはずだよ……あっ、そこ! あぶない!」


「え?」とメイドリーが動きを止め、警戒を強める。しかし、何も起きない。


「お嬢様?」と疑問符を浮かべるメイドリーにノアは、


「その先に罠があるんだよ。後2歩、3歩進むと鉄製のゴーレムが落下して襲ってくるの」


「鉄製のゴーレムだと相性が悪いですね。私のナイフで切断は難しいでしょう。お嬢様はどうです?」


それは、何かやり過ごす手立て、あるいは倒す方法を考えているのか? という意味の質問だったのだが、


「あはははっ……師匠じゃあるまいし、殴って鉄をぶち抜けるほど威力は出ないよ」


「……前から思っていましたが、お嬢様の感覚は常識から乖離しておられますね」


「え? そんなに褒めても、何も出ないよ!」


「誉めているわけでは……いえ、いいです」


 こうして、幼少期から護衛として訓練されているメイドリーの対暗殺者カウンターアサシンとしての能力。


 迷宮の要所を、生前の記憶で把握しているノア。


 この2つを持って、本来は高難易度迷宮とも言われる場所を踏破していく2人だった。


「……それで、お嬢様。聞きそびれていましたが、この先に何があるのですか?」


「ん~ メイドちゃんは悪魔崇拝って知ってる?」


「あ、悪魔崇拝ですか?」


 悪魔崇拝者。 悪魔教。


 それは宗教大国アメリカにある都市伝説のような物だ。


 夜な夜な怪しげな儀式を行い、生贄を求める集団。


 そういう集団が存在していると言われていたが、実際に悪魔崇拝者の集団によって行われた儀式的殺人事件は0件だと言われている。


 もっとも、悪魔教への憧れから殺人を行う10代。 あるいは逆説的に人を殺すのに悪魔を理由にする者は0人ではない。


 要するに、悪魔を妄信して殺人を行う者はいても、宗教的に悪魔を信じて殺人を行う集団はいないという事だ。


「けど、ここは異世界だから……神秘的で超常的な力はある。だから、悪魔的な力も実在する。少なくとも、本気でそう信じている集団がいる」

 

「それは……もしかして……」とメイドリーは言い淀む。


 繋がる。 もしも、悪魔を崇拝する者が、この地下迷宮で何らかの活動をしているのならば――――


「お嬢様が、狂気に飲まれる原因。 悪魔崇拝者が……いえ、悪魔教なら……」


「えぇ、彼等の真の目的は教会。それから枢機卿の娘であるルナ・カーディナルレッド」


この世界、エロげー『どきどき純愛凌辱シリーズ 魔法学園のエッチな私たち』において、ルナ・カーディナルレッドをヒロインとして選択した場合。


 主人公 ギアとルナは、学園の闇に根付く悪魔教と戦うことになるのだ。


「そんな敵が、その迷宮に潜んでいるとお嬢様は考えて……いえ、確信しておいでなのですね」

 

「うん、まぁね。ほら、その先だよ」とノアが指さす所には、何もなかった。


「ただの岩壁のようですが? もしかして隠し扉ですか?」


「うん、少し動かすよ。音を出さないように」と壁を押す。


「ほら、覗いてみてよ。メイドちゃん」


「うっ……これは!」


 メイドリーが覗く。


 中には男たちがいる。黒いフードを頭まで被り、まさに悪魔崇拝者らしい姿の男たちだ。


 皆、一心不乱に怪しげな呪文を唱えている。


「うん、儀式の最中だね。連中が拝んでいる邪神像……あっ!」


「ど、どうしました? お嬢様」


「うん、流石に設定資料集には書かれていなかったけど、アレはまずい。この場所と相性が悪すぎる」


「……なんです? あの邪神像は」


蠅の王ベルゼブブ


「この場所と相性が悪いと言うのは?」


「私がいた世界だと、子供たちの秩序崩壊を表現した作品が有名だから……」


「この場所、魔法学園が悪魔を強化すると?」


「うん、あるいは生徒たちによくない影響がでる……と思う。だからすぐに儀式を止めるよ!」

   

 言い終えると同時にノアは飛び込んだ。  

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