第67話 魔法戦闘学の授業

「魔法学園の授業ってハリ―ポッターのイメージだったんだけどな」とノアは誰が聞いても反応できない独り言を呟いた。


(なんとなく、生前の世界で大学に行ってた過去を思い出させるなぁ)


 魔法学園は、日本の高校や中学の授業形態とは大きく違い、大学の授業カリキュラムに近い。


 要するに必須科目と言われる授業の試験合格。それに選択科目の試験合格数の合計が一定数なら2年生に進学できるシステムだ。


 教室も大学の講義室に似ている。 


 教室の左右と中央には階段。その階段、一段一段に沿って机と椅子が用意されている。

 

 半円……まるでバームクーヘンを真ん中で切り分けたような教室。


 前の席にいくら大柄の人物が座っても先生の授業を見えるように作られた段差。


(機能的とも言えるが、空間デザイナーと言われる職人に大金を払ってオシャレに作ってもらったんだろうなぁ……)


 ノアはそんな感想を抱いた。


 一応、クラス分けは必須科目の時の授業で使われるそうだ。


 そんな事を考えていたら、授業開始の合図と共に先生らしき人物が入ってきた。


 近代的な教室に似合わず、多くの人間が連想する魔法使いのイメージ、そのままの恰好の人物だった。


 黒いローブを頭から被り、木製の杖をついて歩いている。


 しかし、ローブから見え隠れする顔は、若い。


「さて、私の名前は×××だ。今日から、君たちに魔法戦闘学を教える事になる」


 その言葉に教室はざわついた。 誰も教師の名前を聞き取れなかったからだ。


「うむ、今の私の名前を聞き取れた者はどれほどいるかな? いたら手を上げて」


(何を言っているんだ? この先生は?)

 

 ノアだけではなく、多くの生徒がそう思う中……


「はい」と手を上げる者がいた。 4人……いや5人ほどだろうか?


 ×××と名乗る教師は「うむ」と無表情に頷くと、


「何人かは、基礎ができてる者がいるね。では、君……名前は?」 


「はい、ルナ・カーディナルレッドです」  


「ほう、君があの……では、なぜ私が名前を隠すと思う?」


「名前を知るという事は魔法、特に呪詛については相手の魂の一部を捕らえるという意味が強いからです」


「うむ、正解だ。座ってよろしい。魔法戦闘に置いて、相手の情報を得る事は大きなアドバンテージとなる。だが、この学校の生徒の多くは貴族だ。名前を隠し通す事は不可能だろう。だから、私は名前を暴き合いと言った小技よりも、より実戦的な秘術を好む」


 教師の言葉に、何人かの生徒がニヤリと笑った。


 好戦的な笑い。おそらく武闘派と言われる分類に位置する生徒だろう。


「まぁ、それはそれ。基礎を怠って、いきなり実戦なんてしないから勘違いしないように」


「……ッ。食えねぇ先生だな」と誰かが口にした。


 教師も聞こえているはずだが、「ふっ」と鼻で笑って見せる。


「君たちがこの授業を終える頃には、全員が私の名前を当てれるようになっているように願っているよ」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 授業の終わりを伝える鐘がなる。


 ノアは……


「ぶしゅー」と頭から湯気を上げるように机に伏せている。


 ノアには魔法方面の才能が……あるとは言えないレベル。


 簡単な回復魔法が使える程度だが、それは武術の鍛錬に役立つから覚えたのであって、回復職ヒーラーと言われる専門職が見れば、おそらく怒られるか、嘆かれるほどの我流オリジナル


「ノアさま、大丈夫でしょうか?」とメイドリー。


 そんなノアの姿に、


「貴方、そんなに魔法が苦手なの?」とノアに距離を取ろうとするルナですら同情的だった。


 しかし、そんなノアに声をかける人物がいた。


「君がノア・バッドリッチくんかい?」


「え? あっ先生」


 ×××。魔法戦闘学の教師だ。


「君の父上にはお世話になったことがあってね。君が武道に陶酔したって話を聞いた時にがっかりしたもんだよ。私が魔法を望めば家庭教師を立候補していたくらいさ」


「そうだったのですか……それは、初耳でした」


「あぁ、将軍は忙しい人だからね。だからと言って真面目な学校生活を心がけないと私が将軍に苦言を手紙に書くことになるから気を付けるんだよ」


教師はローブを少し上げ、顔を見せる。


どうやら、冗談をわからせるためにウィンクを見せるためだったらしいが……


その整った顔に、心は男であるはずのノアですら若干、揺さぶられるものがあった。


「それじゃ、また次の授業で。また、授業でわからない事があったら私の部屋に来てもいいからね」


 そう言うと×××はヒラヒラと手を振りながら帰っていた。


 そのやり取りと見ていたルナは


 「やっぱり、貴方って人たらしね」  


 「な、なんでさ!」と抗議の声は聞き入られなかった。

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