第65話 食堂にて
この世界――――
『どきどき純愛凌辱シリーズ 魔法学園のエッチな私たち」
この世界において、ノア・バッドリッチは悪役であり、主人公 ギア・ララド・トップスティンガーは明確な敵である。
しかし、敵はギアだけではない。 ゲームに登場する5人のメインヒロインたちは、どのルートを――――どの運命を選択しても命を賭して戦う定めになる。
最も物語の始まりは2年生の春……つまりは来年となる。
転校生や後輩である2人を除いて、学園には3人のメインヒロインが現存している事になる。
その中でもルナ・カーディナルレッドは枢機卿を父に持つ聖女。
枢機卿……教会の最高顧問。 国教の権力者という立場は、例え国王が相手でも苦言を呈す事を認められている。
当然、国に忠誠を誓う将軍であるノアの父親とは猿犬の仲――――と称する事すら生ぬるい。
当然、娘同士も険悪の仲である。
・・・
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「それで、どうして貴方が私と同じ席に座って食事を取ろうとしているのかしら?」
「え? だって、他に席が空いてなし」
そうノアは言うが、事実ではない。 新入生で飛びぬけた知名度を有す2人の周囲の席に座ろうとする豪の者はいなかった。
強いて言えば、ノアに付きそうためにメイドリーがいるだけだ。
「いけもしゃあしゃと嘘を言えますね」
「まぁまぁ、ところで貴方のおろしハンバーグと私のチキン南蛮を交換しない?」
「メインディッシュをまるまる交換しようと提案する貴方の倒錯具合がよくでてますね」
それから、ルナは「ふぅ……」とため息を1つ。 落ち着きを取り戻す。
「もう一度聞きますよ。どうして同じ席で食事を取ろうとしているのですか?」
「ん? ほら、ルナちゃん……私と同じで友達がいなそうだから!」
その言葉にルナは異常な反応を見せた。 驚いた表情を見せた後、何かに耐えるようで――――
「貴方と一緒にしないで! 私は貴方と違って誰かを――――」
「知ってるさ」
「――――ッ!」とルナ。 まるで目の前の人物が別の存在と入れ替わったような感覚に陥る。
「俺は知ってる。 アンタが手を差し伸べようとする人まで拒絶する理由を」
「貴方は……一体、誰…なの?」
「ん? 私はノア・バッドリッチでしかないよ」
いつの間にか食事を済ませていたノアは食器の返却へ席を立った。
ルナから離れた直後、背後から声がした。
「お嬢様、浮気でしょうか?」
それはメイドリーの声だった。
「え? いや、メイドちゃん! 別に浮気じゃない……ん? いや、浮気?」
「いえ、従者が口出しする事ではありませんでした」
「ん~ 何か怒ってる?」
「はい、愛すべき主人が、今日会ったばかりの女に熱を上げているのに怒り心頭でございます」
「それはちょっと、愛が重いです。はい……」
「失礼、冗談です。ただ……」
「ただ?」
「やはり、御父上と敵対されている枢機卿の親族と交流を交わるのは……いささかお控えくださる方がよろしいかと」
「そうだよね。頭じゃわかるけど、ここがね」とノアは自分の心臓を叩いた。
「胸ですか? 胸が疼くのでしたら不肖メイドリーがその疼きをお納めいたしましょう。さぁさぁ、寝室へお戻りを!」
「今日のメイドちゃん、全力の下ネタで怖いです!」
そんなこんなで、ノアは午後の授業のために教室へ戻る。
ノアが、ルナ・カーディナルレッドを気にかけているのには理由がある。
それは、彼女が運命のを左右する特異点の1つだと推測しているからだ。
ノアが知る彼女と今の彼女は別人のように思える。
主人公に対して、年上ながらお姉さんぽく振る舞う明るい彼女。
ならば、本編開始の2年の春。この1年間で本編では明かされない裏設定的な事件が起きるはず……
それをノアが関与する事で、ルナと敵対する宿命を回避できるのではないか?
そう打算的な考えが1つ。 もう1つは――――
「やぁ、お久しぶりですね。覚えていますか?」
不意打ち気味にイケメンボイスを放たれた。
その人物は――――
「あー もしかして忘れています? 貴方の大ファンであるギア・ララド・トップスティンガーです」
運命が立っていた。
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