激動! ドキドキの魔法学園!? ルナ・カーディナルレッド編

第63話 魔法学園の入学式

 不自然なほど広い部屋。


 ノアは1人、下着姿で椅子に座っていた。


 呼吸は荒い。上半身は酷く前のめり、下半身は震えている。


 貴族令嬢とあるまじき、貧乏ゆすりだ。  


 一体何が……不意にノアが立ち上がり、くるくると椅子の周りを歩き始める。


 そうかと思えば、部屋の端に移動。壁を見つめていたかと思えば、1度、2度……と何かを確かめるように軽く拳で壁を叩く。


 納得したのか、再び椅子に座るも、また立ち上がり同じ行動を取り始める。


 まるで試合直前、極度の緊張状態のボクサーが行う行動だ。

 

 すると――――


 「お嬢様、時間です」とノアの従者であるメイドリーがドアを開く。


 「こちらへお着替えください」と手には服。


 「うん、これが新しい勝負服か……」


 「いいえ、ただの制服です」


 「わ、わかってるわよ。そんな事!」


 「まったく……最近のお嬢様は失礼ながら変ですよ」


 「変? 変ってどこが?」


 「たまに言動が思春期の少数派こそカッコいい人みたいに……神々よ、私に力を!とか……これが運命を司る神々が与えし定めとか……比類のない神々しいような瞬間!とか……」


 「いや、そんなこと言わないよ。あと、最後のはミステリ用語だからね」


 そんな反論をしながらも、自身の従者が緊張を紛ららわすために言ってくれている言葉だとノアは知っている。だから――――


 「ありがとう」と感謝を口にして、新しい制服に袖を通して部屋の外へ出る。


 ドアを抜けるとそこは通路。ただしバッドリッチ邸の通路ではない。


 魔法学園の貴族専用女性寮。そこの最上階。


 そう、ついにノア・バッドリッチは魔法学園の入学式を向かえるのだ。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 魔法学園。


 それは日本で例えるなら筑波などの学園都市のようなものだ。


 学園都市が大学や研究の発展を目的とした都市開発。あるいは逆に都市発展を目的に大学や研究施設を誘致する国家プロジェクトと同じ。


 ただ決定的な差異は、科学的ではなく、魔法的という手段アプローチだ。


 要するに魔法学園は国が魔法により発展する事を目的に作られた場所であり、


 教育機関でありながら、教員たちは研究者として実験を優先させる研究機関……学園と言いながら、あり方は一般的な日本の大学に近い。



 「だから、この学園に所属中は貴族も、騎士も、聖職者も、平民も同じ立場と見なされる……」


 入学式で学園長の長い長いありがたいお言葉を要約すると、そんな感じだ。


 ノアは寝不足で赤く血走った目を見開きながら、学園長の挨拶を聞いていた。


 「ね、眠い……」


 普段の彼女なら、式典的イベントなんて居眠りの対象なのだが(貴族令嬢なのにわんぱくに育ってしまった……)


 ここはノアに取って敵地と同じ。油断をすれば、運命的なフラグが立ってしかねない。


 そう……


 ノアの運命では、やがて……この世界の主人公やメインヒロインたちと敵対する。


 その肥大化した貴族の矜持はやがて邪悪に育ち、


 他者の命すら容易に刈り取らんとする悪役令嬢と成長を遂げた結果……


 ついには自業自得のように、貴族という立場を奪われ、あられもない性奴隷として落ちていく。


 その運命に抗うため、ノアは少々方向の間違った努力を、もとい鍛錬を続けているのだ。


 そんな時、不意にノアの耳に聞こえてきた呟きがあった。 


 「そんなの表向きな話……嘘ばかり」

 

 「え?」とノアは声の主を探した。 


 ほんの小さな呟きだ。左右の隣か、それとも前後の席か?


 視線を動かすと隣の人物に気づく。 すごく整った顔立ち……美人と言える少女。


 先ほどの呟き、おそらく彼女が発したもの。ノアは直感的に確信した。


 不意に少女と目がある。 少女は驚いたような表情を見せ、すぐに視線を外した。


 そんな少女の様子にノアは――――


 (この子、知ってる。でも……思い出せない)


 

 

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