第45話 ゲッツとノアの喧嘩

 「どけ、審判ども。喧嘩が始まるぞ」


 もはや、止めるすべもない。 審判たちも下がった。


 「さぁ、またせたな。構えろや、ノア」

 

 試合とは違うピリピリと張りつめた空気。


 これがノアには、たまらなく気持ちがいい。


 ゴットフリード・フォン・ベルリヒンゲンに勝つ。 それは試合で正々堂々と戦って勝つ事ではない。


 喧嘩ノールールというステージにこそ本領を発揮するタイプ。


 だから、誘った。 彼が全力で戦える舞台へ。


 「いいのかしら?」


 「あん?」


 「その腕、鉄腕を審判に取られたままで戦っても?」


 「チッ」と舌打ちを1つ。 それから――――


 「構わねぇよ。すぐに戻ってくる」


 「ん?」と疑問符を浮かべていると、黒い塊がふわふわと飛んでるのが見えた。


 「何、それ?」


 「あんだ? 何って俺の義手に決まってるんだろ?」


 ゲッツは、そのまま「ヨシヨシ」とまるで生き物のように扱う。


 いや、まるで生き物? いや事実、「モキュモキュ」と奇妙な鳴き声を上げているではないか。


 「……生きてるの? その義手?」


 「見たらわかるだろよ……コイツはスライムだぜ」


 手首に装着されるゲッツの義手。 飛んだり、鳴き声を出さなければ、ただ鉄でできた義手にしか見えない。


 「コイツは鉄を好んで食す種類のスライムだ。 魚でもいるだろ? 鉄分を摂取して体が金属化してるやつ」


 「知らないわよ、そんなの……」


 「そうか、まぁいい。とにかく、試合じゃバレないように使っていたが……最初から全力でいくぜ!」


 ゲッツの腕が奇妙に変化する。 まるで3本の鞭が自動で動いているようにうねり始める。


 「うわぁ、気持ち悪い。 まるで寄生獣のあれだ」


 「あん? 寄生獣? なんだそりゃ……まぁいい。ぼ、防御を頼むミギー」


 「知ってるじゃねぇか!」とツッコミを入れるノア。だが、すぐにそんな余裕もなくなる。


 不規則な攻撃。 ゲッツ自身は、攻撃の初動作モーションらしい動きもない。


 辛うじて避ける。 


 宙を切った攻撃。地面に接触すると爆発でも起こしたように表面を抉っていた。


 「ひぇぇ! これ受けたら、体の肉も抉れちゃう?」


 「ははっ、そいつはおもしれぇな。試してみろや、ノア!」


 「それじゃお言葉に甘えて……」と本当に足を止めるノア。


 「馬鹿が、じゃ食らえよ!」


 パンッと鞭の音によく似た炸裂音。 体に受け、ノアが身に着けていた服の破片が破れ、舞い散る。


 だが、体にダメージを受け、赤く線が浮き上がってなおもゲッツの攻撃を掴んでいた。


 「どうだ?」と言わんばかりの得意顔のノア。


 それに対してゲッツはあきれ顔だった。


 「やっぱり馬鹿だぞ? お前」


 ゲッツが、そのまま前へ出る。――――いや、よく見れば、義手部分が外れている。


 接近戦。 ノアが八極拳の一撃を――――


 それよりも速く――――打撃の間合いになるよりも早く。


 ゲッツの義手に仕込まれていた魔力が放出される。


 小柄なノアとはいえ、軽々と吹き飛ばさるほどの威力。 会場の壁にぶつかり、そのまま崩れ落ちていく。


 「立てよ? 俺を挑発して、これで終わりじゃないだろ?」


 「……無論だ。もちろん、俺の本気はここからだ」


 ノアの雰囲気が変わった。より、好戦的に――――ギラギラとした目へ変化している。 


 


 

 


 

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