第35話 異世界相撲?

 ウィリアムの見せた構えに対して――――


「さしずめ異世界相撲というところか……」とノアは呟いた。


 相撲。 丸い土俵で力士同士がぶつかり合う競技を指す言葉――――とは限らない。


 相撲は組み技系格闘技全般を指す使い方もある。


 そう言うと違和感を覚える人もいるだろうが、例えば


 モンゴル相撲、トルコ相撲、コリアン相撲、セネガル相撲……等々。


 その定義に合わせればレスリングもギリシャ相撲となるのかもしれない。


 力のままにぶつかり合い、投げを狙う競技はどの国でも自然発生し易い。


 だから、当然あるだろう。 異世界にも相撲が!


 「こい!」と誘うウィリアム。 対してノアは一歩だけ前に――――


 その直後、ウィリアムの周辺、地面が爆ぜた。


 体当たりのようにウィリアムの巨体が迫ってくる。


 「狙われたか!」とノア。 一歩だけ前進。しかし、その動作からでもカウンターを取られた。


 体重40キロにも満たないノアの体が宙を舞い、そのまま舞台と観客席を隔てるフェンスすら易々と越えた。


「うあぁ!」と観客から、落下してくるノアへ悲鳴を上げる者もいた。


 決着。そう確信する観客がほとんどであった。


 だが……ノアは蠢いた。 


「まるでトラックにぶつかった時を思い出す威力だな」


前世の死因を思い出すように衝撃ダメージに自傷気味に笑うとノアは、ゆっくりと舞台へ戻っていく。


 それをウィリアムは動かずに待っている。その姿に対してノアは――――


 (き、効いた。 けど、ウィリアムは動けない。ダメージは互角って所か?)


 あの瞬間、ブチかましを受けるよりも速く、ノアは拳を振るっていた。


 3発の冲捶に加え、2発の頂心肘を叩きこんでいた。


 超がつくほどの軽量級(ボクシングですら最軽量級は40キロ代後半だ)のノアが放った高速連撃。


 彼女からしてみたら、倒れず立ったままのウィリアムの姿に驚きを隠せなかった。


 さらなる追撃を! とノアが前へ。 だが、ウィリアムも動く。


 ノアの細い腰を掴むように腕を――――弾かれた。


 迫りくる腕を手刀で叩き落すノア。 そのまま身長差を埋めるように飛び上がるとウィリアムの側頭部へ掌底を叩きこむ。


 手刀クチラーダからのガロパンチのコンビネーション。


 それは、前戦の相手 憤怒のノバスが使ったカポエラの技。


 風圧? 衝撃? とにかく、そういった物がウィリアムの耳を通り鼓膜を破壊。


 その奥にあるバランスを司る三半規管へダメージを与える。


 ――――そのはずだ。 だが、ウィリアムは倒れない。


 それはトーナメントの王者としての矜持がそうさせているのか?


 それどころか……


 「ふん!」


 再びノアの細腰を掴みに来るウィリアム。


 掴む。 しかし、勢いよく伸ばされた腕は強烈な掌底打ちのようなもの。


 「ぐっががあぁ」とノアは全身を衝撃に襲われた。


 腹部からバラバラに破壊されたような錯覚に陥る。


 さらに――――


 今度こそ腰を掴むと、片腕だけでノアの体を振り回すと――――


 そのまま地面へ叩きつける。


 まるで爆発。 地面に敷かれた土砂がウィリアムすら覆い隠すように舞い上がる。


 「死んだ! あれは確実!」と観客からの絶叫。


 大会の医療関係者もそう判断したのだろう。 舞台の端で備えて――――


 だが、別の観客が言う。 


 「見ろ! 立ってる……立ってるぞ! アイツ!」


 その言葉通り。 次第に砂煙が薄れて行き、両者の姿が明らかになる。


 ノアはウィリアムと対峙するように立っていた。



  


 


 

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