第34話 地下最強決定トーナメント 初戦!

 そして、ついに始まった地下最強決定トーナメント。


 一回戦、第一試合。 ノアは舞台に上がった。


 「気持ちがいい」と彼女は呟く。


 まだ、舞台は綺麗な石畳。 当然、流血や汗などの汚れは皆無。


 そこへ足を踏み入れると不思議と精神まで清められていく気すらしている。


 「前世では信じていなかったパワースポットとかいう存在をちょっぴり理解した気持ちになってくるぜ」


 今から始まるのは神聖なる戦い。 だから、この空気は神々しい。 


 だが、それに反して観客たちは殺伐をした雰囲気を身に纏っている。


 ピリピリとした感情の吹き溜まり。 それを発散させるようにノアは空に向かって――――


 「そりゃ!」と拳で天を突いてみせる。


 それに対して――――


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」


 観客たちの声援。それは溜まりに溜まった感情を打ち出すためにノアが誘ったもの。


 しかし、誘導して引き出された声援とは言え、それは確かな力。


 しっかりとノアの背中を後押ししてくれる。 


「……猛る。 気持ちが、精神が、心が猛り狂いそうになる」


すると―――― 


「へぇ? わかるのかい? ルーキーちゃん?」と声。


 その声の主こそ、一回戦の相手。 そして、500戦無敗の騎士。


 中世ヨーロッパにおけるトーナメントの絶対王者。


 ウィリアム・マーシャル   


 この大会の主催者がノア、初戦の相手だった。


「まずは……お招きありがとうございます」


 ノアは貴族令嬢らしく、両手でスカートを摘まみ、一礼してみせた。


 本物の貴族令嬢だけが魅せる事のできる優雅さ。


 その動作に観客たちも、ウィリアムですら心を奪われかける。


 「ほう……とても優雅でキュートな作法だ」


 だが――――ノアは優雅な構えから、地面を踏みつける震脚。


 一連の動作により、優雅さよりも雄々しさ。臨戦態勢の構えへと至った。


 「けれども、今日は勝ちを1つ。いただきにまいりました」


 「なるほどね! やはり、とても面白いお嬢さんだ」


 そう言うとウィリアムは構える。 


 ノアとウィリアム。その両者が並ぶと、大きく離れた体格差に驚くだろう。


 「本当に人間同士のサイズかよ?」とため息交じりの声が観客席から漏れ聞こえる。


 ノア(14才)の身長は150センチを満たない。 140後半と考えれば中学生どころか小学生の高学年ほどの身長。 ならば、体重も40キロを越えている怪しいところだ。


 一方のウィリアムの身長は190センチ近く。 体重は100を超えている。


 本来なら戦いが成立しないウェイト差。  まさに大人と子供の体格差。


 だが、ノアから動揺は感じさせない。それどころか歓喜の笑みすら浮かんで見える。


 ――――いや、歓喜の笑みはノアだけではない。 見ろ、ウィリアムも笑っているではないか。


 「こい!」とウィリアムは構えは、大きく腰を落とす。両足は前後に、両手は左右に広げている。


 明らかに打撃系ではなく組み技系の構え。


 トーナメントの絶対王者 ウィリアムの闘法とは? 


 ――――実は不明である。


 中世ヨーロッパの時代、どのような剣術、格闘技があったのか? 


 ――――実は不明である。


 長年、中世ヨーロッパでは剣術も格闘技もなく、力任せに攻撃していたと考えられていた。


 しかし、近代では、武道武術が存在していなかったのではなく、技の伝承が途絶え、後世に残らなかったのではないか? 


 そう考えが変わり、徐々に武術体系が判明さて行っている最中なのである!


 そのため――――


 ウィリアム・マーシャル その格闘術は未知であった。

 

 

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