第36話 異世界相撲の打撃とは
観客たちの疑問が飛んで来る。
「なぜ、あの投げを受けて無事なんだ? ダメージらしいダメージが見えないぞ!」
確かに砂煙で見えなかったとは言え、どのような行為を行ったとしてもアノ投げを受けて無事でいられる道理は――――
そんな疑問を吹き飛ばすようにウィリアムは再び、ノアの体を掴んだ。
掴むと同時に体を捻る。 その投げは、まるで球技の投球モーション。
片手でノアの体を
だが――――
ノアは小さな体を、さらに小さく丸める。 そして壁へ激突した瞬間に異常な光景が皆の目に飛び込んできた。
回転。 前転……いや、前回り? あるいは後転? とにかく、小学校と体育で行うマット運動のアレだ!
ノアは、自身の肉体を高速で回転させたのだ。
その回転力は壁にぶつかり、地面へ落ちてこない!
むしろ逆。 壁をゆっくりと上へ登るほどの超回転。
まるでSEGAを代表する青いハリネズミのキャラクターのようだった。
やがて、回転を解いたノアがゆっくりと地面に着地する。
「やはり、地面に叩きつけられた瞬間、体を丸めて回転。それで投げの衝撃を逃がしたのか」とウィリアム。
だが、流石の彼も人間技を超えたノアの受け身に若干の引き気味であった。
「うん、うちの師匠たちは打撃系よりも組み技系が多かったから……ほら、練習中にまともな受け身だけなら死んじゃうわけさ」
「そうやって最初の投げもやり過ごしたか? あまつさえ、回転しながら俺の手足を掴もうとしていたな」
「アンタのバカに強烈な投げを回転力に変えて、回転力をそのまま投げに変換しようとしていたんだけどね……まさか、視界の効かない砂煙の中で10を超える投げを避けられるとは思わなかったよ」
「ん? いや、確か9回の投げだったと思ったが……」
「ちぇ、きっちり数えていたんだ。さばを読んだわけじゃないよ、四捨五入ってやつさ」
「なるほど」とウィリアムは笑った。それから――――
「次に投げるのは、そちらの体力を削りきって回転できない体になってからだな」
ウィリアムの構えが変わる。 いや、見た目ではわからないが、重心が後ろへ下がった。
(投げを狙う重心ではない。打撃か? それにしても……)
相撲の打撃を思い浮かべる。 例え異世界相撲――――まるで別物の格闘技とは言え、投げ主体の格闘家の打撃として大きく変わるものではない……はず。
突っ張りや張り手。 いや、相撲には、肘打ちや頭突きもある。
だが、それらも重心が前にして放つ技だ。 なら――――
ノアは下半身に痛みを覚えた。
(蹴り! ローキック? いや、相撲でいう蹴手繰り? それにしては威力が高い!)
相撲の蹴り技。
確かに蹴手繰りは強烈な蹴り技であるが、相手を土俵へ倒す事を目的とするため、格闘技全般でいう蹴り技とは毛色が違う。
しかし、しかし――――だ。 相撲において蹴り技は親和性が高いと言わざる得ない。
例えば、日本書紀で書かれる当麻蹴速対野見宿禰。現存する記録では日本最古の格闘技と言われる(武御雷対健御名方神の戦いは除く)両者のぶつかり合い。
この時、両者が使用した蹴り技。一説によると名を――――
腿撃法
中国から伝わる武術の蹴りだったのではないかと言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます