12
ベッドに繋がれたまま身動きがとれない。
このままだとわたしは、ここで死ぬ。
魂が救われることもなく、死霊となって、廃虚の中を永遠に彷徨い歩くんだ!
「なん……で…………」
涙を浮かべながら絶望する。
どうしてこんな事になってしまったのだろう?
いつもどおり──今朝は遅刻しかけたけど──学校へ向かっていたはずなのに。
嫌だ、死にたくない。
助けを呼んでも、誰も助けに来てはくれないってわかっていても、声が枯れるまで叫びたかった。命乞いをしたかった。
絶望があきらめに変わりかけた頃、人の気配を近くに感じた。
そして一人の足音が近づいてくる。
「誰……誰なの? いやっ……来ないで……」
手足を動かすたび、噛みつかれたような痛みを感じて冷たい金属音が廃墟の世界に虚しく木霊する。逃れられない恐怖が心臓を打ち鳴らし、胸が爆発しそうになっていた。
「加奈ちゃん、無事かい?」
唯織さんの声だ。
最悪な状況で唯織さんに見つかってしまった。
もうおしまいだ。
「いま助けるから、じっとしててね」
助ける?
聞き間違いかと思えたそれは、そうじゃなかった。
唯織さんはベッドに腰掛けると、錆びた針金を使って手錠の鍵を開けてくれた。
「……どうして助けてくれるんですか?」
赤紫色の
「さっきの話、嘘じゃないんだ。加奈ちゃんを
「でも、二人が生き残れば必然的にカップルが成立するんじゃないんですか? 犯人が認めてくれるかはわかりませんけど、そこでゲームが終わるかもしれないじゃないですか」
「たしかに、それも一理ある。けど、最初のゲームで成立させたカップルで生き残らなければダメかもしれないし、そっちの可能性のほうが高いんじゃない……かな……」
唯織さんが急に額を押さえながら片手をベッドに着く。ミリアムに殴られた怪我が悪化したに違いない。
「唯織さん……!」
「フフッ、鉄パイプで殴られたからね……頭痛と吐き気が半端なくて……それでもミリアムの
ミリアムの名前で、ふと思い出す。
外から射し込む太陽の光は、だいぶと傾いていた。
日没は近い。犯人が誰か一人を殺す時間が迫っていた。
「もうすぐ暗くなっちゃいます。わたしたちは一緒にいるから、きっと殺されませんよね?」
「っ……それはどうかな? もしも一人ぼっちのミリアムが狙われるなら、それこそ……そこでゲームが終わる。犯人の目的さえわかれば、こちらもなにか策を練れるんだけど」
「犯人の……目的……あの、唯織さん、わたしヤスカちゃんを見たんですけど。見たって言うより、わたしがベッドで捕まっていたのも、ヤスカちゃんの仕業だと思うんです」
「…………そうか、そうだったのか。ボクは、大きな失敗をしたかもしれない」
唯織さんは辛そうな表情で顔を上げると、天井近くの鉄骨のそばにある監視カメラを見つめた。
「ヤスカちゃんは、死んだんじゃないんですか?」
「いや、ボクは殺してない。差し歯の時と同じで、芝居を打ったのさ。額だけを傷つけて、彼女を血まみれにしたんだ。犯人を騙すためにそうするから、死んだふりをしてくれってお願いしてね。だけど……」
それは間違いだった。
なぜなら、ヤスカちゃんは犯人の仲間だったから。
『ビックリしたよ、ほんとに。まさか全員が障害者を見殺しにするなんてさ、夢にも思わないでしょフツー』
突然聞こえてきたのは、加工された犯人の声じゃなくて、ヤスカちゃんのはつらつとした声だった。
『あの時はどうしようかと思ったけどさ、結局わたしの顔に傷がまた増えちゃったし。ったく、すぐにゲームを中止にしてくれればいいのに……だから男は嫌いなんだよッ!』
怒鳴り声の裏で破裂音が何発も聞こえる。もしかして、仲間割れをしてる?
『……あー、ちっともスッキリしねぇー。待ってろよ、おまえら。今からぶっ殺してやっから』
ハウリングと共に、音声はそこで途切れた。
「……だってさ」
「に……逃げましょう! ここにいたら、絶対に殺されちゃいますよ!」
「逃げる? どこへ? 逃げきれるなら、はじめからボクたちを自由にはしないだろう。ボクたちはずっと籠の中で暴れまわっていただけなんだよ」
「それじゃあ、おとなしく殺されるんですか!? わたし嫌です! わたしは生きて帰りたい! 死にたくない!」
「加奈ちゃん!」
呼び止める唯織さんを無視して、わたしは廃墟を飛び出した。
行き先なんてわからない。
生存本能だけで逃げていた。
必死にただ、ひたすら生きたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。