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画面では、闇夜のネオンに妖しく照らされたホテルの外観がゆっくりと下がり、出入口が拡大して映しだされる。
(ここって、ラブホテル?)
先に流された三人の映像から内容をある程度
けれど、すぐに理由がわかった。
背広姿のお父さんと他校の学生服を着た少女が手をつないで出てきたからだ。
映像はたしかに、わたしと関係があった。わたしじゃなくって、お父さんのことだった。
ホテルを出た二人は横断歩道まで一緒に歩くと、そこでお互いの顔を見ずに手を離し、そのまま別の道へとそれぞれ歩いていった。
わたしのお父さんは、自分の娘と年齢が変わらない女の子と援助交際をしていた。
お父さんも大人の男だし、性欲があってもそれを理由に軽蔑するつもりはない。けれど、それが……セックスの対象が若すぎる。いったいどんな目でわたしのことを見ていたのだろう。胃液が逆流して、今朝のベーコンエッグが食道まで上がってくる。
場面はまたホテルの出入口に変わる。今度は別のホテルだ。
そして、さっきとは違う学生服の少女と自分の父親が出てきた。
それから繰り返し繰り返し、ラブホテルの出入口から少女たちと出てくる父親の映像を見せられた。
肉親の裏の顔を知ってしまった今、すべての思い出が嫌悪で黒く塗りつぶされていた。
異常だ、気持ち悪い、変態、最低の父親……握りしめた両手に力がうまく入らない。力が逃げて震えるばかりだった。
「ひーちゃん……ひーちゃんが危ない……」
もしも、最悪の場合、わたしが帰らなければ、あの
帰らなきゃ……絶対に帰らなきゃ! ひーちゃんを守れるのは、わたししかいない!
『恋人たちよ、相手のすべてを受け入れ愛する覚悟はあるか?』
廃工場に響きわたる犯人の声。
やっぱり部屋から出れても、まだゲームは終わってはいなかった。
「ちょっと、なによこの映像は!? あんたの目的はなんなのよ!? あたしたちにまだなにをさせるつもりなのよ!?」
監視カメラやスピーカーを探しているのか、榊さんは頭上を見まわしながら大声で問い質す。
『真実の愛とはなんなのか──残念ながら、わたしはソレを知らずに今も生きている。わたしは愛を知りたい。愛情を見せてくれ。死が二人を分かつまで、最後まで生き抜くことが今回のゲームとなる。そのルールは、愛した者、愛する者、これから愛するであろう者のすべての
「はぁ?
「榊さん、どうかお静かに。まだ話は続きそうですよ」
「ぐぬぬ……底辺クソザコDTが……吾輩が絶対にこの手で殺してやる」
すべてが難解で、犯人の独りよがりな言葉の数々が今回も理解できない。
ほかの三人も同じだとは思うけれど、あんな映像を見せられては、みんなの本心も性格もまったく読めなくなってしまった。とは言っても、わたしだけ一応は例外だけれど。
(唯織さん……わたしを本当に助けてくれるのかな……)
見つめる視線に気づいたはずなのに、素っ気なく目を逸らされてしまった。
『二組のカップルが成立しているが、勝利の条件は一組のカップル、あるいは一人でも生き残ればそれでいい。すべては愛のために……そう、愛だ。愛する者の秘密を守るため、殺し合え』
カップルになれとか一人でも勝利できるとか、犯人の要求が破綻してきている。やっぱり犯人は普通じゃない。きっと、なにかの妄想のなかで一人生きているんだ。
『この工場の敷地内に、わずかではあるが食料を隠してある。それにはキミたちの個人情報も添えさせてもらった。そして最後に、四人全員で生き残れると思わないことだ。日が沈むたび、わたしの仲間がキミたちの誰かを必ず殺す。愛する者を守りたければ、生きたければ、速やかに誰かを殺すことだ』
「そんな! 絶対に誰かが死ななければいけないルールだなんて、こんなのゲームなんかじゃない! ただの殺し合いよ! ふざけんなって! ねえ、みんなも──」
我慢の限界を超えて声を荒らげるわたしの手首を、唯織さんがものすごい力で掴む。間髪いれずに「走れ!」と叫ぶ。
彼女に引っ張られながら、わたしも自然と走りだす。それは、この場から一秒でも立ち去りたい気持ちも──家に帰りたい気持ちもあったからだろう。
廃工場をそのまま飛び出す。
わたしたちのあとを誰も追ってはこなかった。
「唯織さん、どうしたんですか急に!?」
「説明はあとでする! 今はとにかく、走れるだけ走るんだ!」
なんの意味もわからず、けれどもわたしの生存本能はその言葉に従って、ひたすら炎天下を走りつづけた。
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