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叫び声が聞こえた。
驚いて目を覚まし、コンクリートの床から飛び起きる。
パンツスーツ姿の眼鏡をかけた女性が、広い部屋の壁際でヒステリックにわめき散らかしながら、右へ左へ歩いて騒いでいた。そんな彼女をなだめようと努めていた二人も女性だったけど、服装はカジュアルだった。
「とりあえず落ち着きましょう、ね? 犯人に聞かれでもしたら、それこそ
いちばん背の高い、アシメの前髪で左目を隠すツーブロックのショートヘアがカッコいいお姉さんが、穏やかな口調で笑いかけながら
「そっ、そうだそうだ! 我々にも危害が及ぶではないかぁ……ううっ……やめろぉ……頼むからやめでぐれぇぇぇぇ!」
いちばん背の低い、けれども、いちばん髪が長くて腰まで伸びている女性が、けっこうな大声と血走った目玉の鬼気迫る表情で懇願した。
「こんな状況で落ち着けるワケないでしょ!? あなたたちこそ、頭がどうかしているんじゃないの!?」
こんな状況──その言葉に、わたしはふと考える。
きょうは新学期の初日。
朝食のベーコンエッグは焦げがひどかったけど全部食べた。
いつもより十分以上も家を出るのが遅れていたから、ショートカットをして信号機がない道を進んで駅へ向かって走っていたはず。
……あれ? それなのにどうしてわたしは、こんな
「あたしはね、午後に大切なプレゼンがあるのよ! こんな悪ふざけに付き合ってられるほど暇人じゃないの!」
眼鏡の女性がさらに声を荒らげて、自身の予定を親切に教えてくれた。そして、カッコいいお姉さんの胸を、ほんの少しだけ軽く突き飛ばす。
記憶の糸を丁寧にたぐりよせて答えを見つけたかったけれど、この騒ぎを止めるほうが先決みたいだ。
わたしもあの二人に加勢するべきか迷っていると、部屋の中にもう一人、女の子がすわっていることに気がついた。
その子の装いは、かなり派手だった。
服装の色は地味なモノトーンではあるけれど、着ている服がいわゆるロリータファッションで──プラチナブロンドと銀髪の中間みたいな明るくて透明感のある美しい髪が、猫耳とツインテールの形に可愛らしくまとめられている──三人の様子をじっと横ずわりの姿勢でうかがっていた。
彼女がわたしの視線に気づく。
と、天使のような笑顔をこちらに見せてくれた。
そんな彼女に、わたしも思わず微笑を返す。
んー……どうしよう。
よくよく部屋を見わたせば、白い壁に囲まれているだけでドアや窓がひとつも見あたらない。まさに、密室状態だ。
いろいろともう、なにがなんだか全然わからなくなってきた。お願いだから、誰かにこの状況を説明してほしいよ……
すると、急に騒ぎが収まり、三人がぞろぞろと部屋の中央に集まってくる。
この部屋って、広い割りには光源が天井のシーリングライトひとつだけしかない。
「まったく……社運を賭けた新規参入の一大事業なのに……どれだけの労力と犠牲を捧げたと思ってるのよ……」
「こればっかりは仕方がないですって。犯罪に巻き込まれたんです、優先的に考えるべきことは、ここから脱出する方法だと思いますよ」
「犯罪!?」
思わず声を上げたわたしに、三人の顔がいっせいに向けられる。
「あっ……そのう、えーっと……犯罪って、なんですか?」
問い掛けてみても、誰からも返事はなかった。
その代わり、耳鳴りのような音が一瞬聞こえたかと思うと、天井から変声機で加工された声が部屋中に響きわたる。
『ようこそ、籠の中へ』
なにこれ?
もしかして……テレビ番組?
「ぬぉぉぉ……もしやこれは〝神の声〟というヤツなのでは!? ついに……ついに吾輩にも、待望の異世界転移エクストラミッションがキタァァァァァァァッ!!」
「いや、ボクにも聞こえているから、多分違うと思う。この声は神様じゃなくて、おそらく犯人のモノ……」
「ちょっと、あんた誰なのよ!? 早くここから出しなさいよ!」
『これからキミたちに、このゲームのルールを説明させてもらう』
「ルールですって?! ふざけないでよ! ゲームなんて参加した覚えはないし、午後から大切なプレゼンテーションがあるんだってば!」
「静かに! 犯人はまだ、なにか言うはずです!」
『ご覧のとおり、ここは完全に密閉された空間だ。通風孔すら無い。なにも手をくださなくとも、やがて五人全員が窒息死する。だが、我々は皆殺しが目的ではない。ただし、全員を生かすこともしない。この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること。つまり、二組のカップルが生きてこの部屋から出れる』
恋人同士?
五人とも全員同性なのに?
二組のカップルが部屋から出れるって……やっぱりこれって、テレビ番組の企画……だよね?
カップルになれなかった一人に罰ゲームが科されてから、収録が終わってお
『あふれた一人を残して、四人の命が助かる……これは絶対に揺るがない、このゲームのルールだ』
え?
命が助かる──つまりそれって、裏を返せば、死ぬこともあるって意味じゃない!
カップルになれなければ、誰かが死ぬ。
記憶にはまったく無いけれど、そんなデスゲームに、どうやらわたしは参加しているみたいだ。
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