「おみおくりの作法」 監督:ウベルト・パゾリーニ


 上映時間91分。

 製作国は、イギリスとイタリアです。


 パゾリーニ監督は、1942年に「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で映画監督デビューを果たした、イタリアの貴族ルキノ・ヴィスコンティのおいですが。

 1984年のアカデミー賞で3部門を授賞した、カンボジア内戦のドラマ「キリング・フィールド」や、1986年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを授賞した歴史ドラマ「ミッション」などで、ロケハン(屋外のロケ地を捜すこと)にたずさわりました。「ミッション」では、助監督の1人にもなっています。


 1997年に大ヒットを飛ばしたコメディ「フル・モンティ」で、プロデューサー

として活躍し、世界に名を知られるようになりました。


 さて、本作「おみおくりの作法」の原題は、「Still Lifeスティル ライフ」。

 通常、STILL LIFEとは、静止した自然物や人工物がえがかれたの意味ですが。ここでのSTILLは、という意味でしょう。

  2013年のヴェネツィア国際映画祭で、オリゾンティ部門の最高賞を授賞し、各国の映画祭でも賞を獲得しています。

 ちなみに日本の作品では、2011年に塚本晋也監督の「KOTOKO」が、オリゾンティ部門の最高賞を授賞されています。主演は、シンガーソングライターのCocco。


 「おみおくりの作法」の主演は、エディ・マーサンというイギリス人の俳優なのですが。日本では、あまり知られていないかと。

 マーティン・スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」やイニャリトゥ監督の「21グラム」、トム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル3」にも出演してはいるのですが、どれも主演とは言いがたく。

 本作品で、ようやく主演がまわってきたという感じでしょうか。



 「おみおくりの作法」の舞台は、イギリスの首都ロンドンのケニントン地区。

 有名な時計台ビッグベンから、車でテムズ川にかかるヴォクソール橋を渡り、南東に6分の距離。

 エディ・マーサン演じる、主人公のジョン・メイは、ケニントン地区の民生係みんせいがかりを勤める44歳の独身男。公務員です。

 彼の仕事は、区内で孤独死した人たちの葬儀をおこなうこと。

 

 生真面目きまじめな彼は、1人1人の死と向き合い、丁寧に仕事をこなします。

 亡くなった方々の部屋や、人柄までも調べる姿は、まるで刑事のようで。

 1人1人に合った音楽を、葬儀で流し。

 牧師による弔辞ちょうじも、彼が書いたもの。

 そう、丁寧すぎるんです。

 

 ある日、ジョンの担当する案件が、彼の暮らす共同住宅の真向かいに住む男、ビリー・ストークの葬儀だと判明しますが。

 ジョンは、上司に解雇を告げられます。

 なぜなら、仕事が丁寧すぎるがゆえに、数をこなせていないから。

 ビリーの件は担当できることになったものの、後任の女性の仕事ぶりに愕然がくぜんとするジョン。

 上司に仕事ぶりを気に入られている彼女は、あろうことか、何人もの遺灰を同じ場所に捨てていたんです。

 まるで缶に入ったゴミを捨てるように。


 何も言えず、意気消沈すると同時に、怒りを覚えるジョン。

 彼はビリーの過去を辿たどり、ビリーが望んだであろう葬儀にしようと奔走ほんそうします。


 この作品は、どんでん返しの衝撃が待ち受けているというよりも、不意をかれるという表現の方が正しく思えます。

 ビリーのような仕事を丁寧にこなす描写といえば、2009年にアカデミー賞外国語映画賞を授賞した、滝田洋二郎監督の作品「おくりびと」を思い出す方もいらっしゃるでしょう。

 ですが「おくりびと」とは違い、「おみおくりの作法」で葬儀の場にいるのは、亡くなられた方をのぞいて、牧師とジョンだけなんです。

 



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