「プリズナーズ」 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ


 上映時間153分の、スリラー作品です。

 2013年9月に、アメリカ西部コロラド州で開催される、テルライド映画祭で初上映されました。


 原題は「Prisonersプリズナーズ」。

 prisonerとはを意味します。

 刑務所のことを、prisonプリズンと言いますよね。

 タイトルに複数形のsが付いていますが、そこには驚愕きょうがくの真相が。


 アメリカCBSで放送されていた、FBI行動分析課メンバーの活躍を描くドラマ「クリミナルマインド」に馴染なじみのある方には、本作品の結末にも納得がいくかもしれません。


 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、カナダは東部のケベック州生まれ。

 ケベック州は、アメリカのメーン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、そしてニューヨーク州に接しています。


 短編映画からキャリアをスタートさせた、ヴィルヌーヴ監督。

 1991年に、24才でカナダ放送協会の若手映画のコンペで授賞します。

 カナダ放送協会は、カナダの公共放送です。


 初の長編作品「August 32nd on Earth地上での8月32日」では、脚本も手掛け、1998年のカンヌ国際映画祭の、ある視点部門で上映されました。

 授賞は逃したものの、アカデミー賞の外国語映画賞の、カナダ代表作品にも選ばれています。

 2010年の「灼熱の魂」では、アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。

 SF短編小説が原作の「メッセージ」では、2017年のアカデミー賞音響編集賞を授賞し、作品賞、監督賞、脚色賞、録音賞、撮影賞、編集賞、美術賞でノミネートされています。英国アカデミー賞でも音響賞を授賞。

 ちなみに、この年にアカデミー賞最多授賞を果たしたのは、デミアン・チャゼル監督のロマンティック・ミュージカル作品「ラ・ラ・ランド」です。

 

 さて、本作品「プリズナーズ」は、米国映画批評会議において、2013年の国内映画トップ10に選ばれ、アカデミー賞では撮影賞にノミネートされました。

 批評家の評価も高く、世界で122万アメリカドルの興行成績を叩き出しています。

 特にアメリカで成功を収めたのは、作品のテーマが身近な問題だからでしょう。

 が。


 アメリカでは、毎年およそ76万5000人の子供が行方不明になるそうです。

 つまり、40秒に1人の子供が。



 物語の舞台は、アメリカ北東部ペンシルベニア州。

 11月の第4木曜日、つまり感謝祭に、近所に住む仲の良い2家族ふたかぞくが、バーチ家でともにお祝いをします。

 ドーヴァー家のケラーと妻グレース、息子のラルフと6才の娘アンナ。

 バーチ家のフランクリンと妻ナンシー、2人娘のエリザと7才のジョイ。


 穏やかな祝日を楽しむ8人ですが、アンナがさがし、自宅へ戻りたいと言い出します。このが、後に重要な役割を果たします。

 大人たちが、家の中に、幼いアンナとジョイの姿が見当たらないと気づいたのは、夕食後。

 庭を横切り、通りに出ると、路肩に見慣れない1台のキャンピングカーが停まっていました。

 2人の姿はなく、警察に通報します。


 この事件を担当することになったのは、ジェイク・ギレンホール演じるデビッド・ロキ刑事。

 彼は、目撃されたキャンピングカーを捜し出し、乗っていたアレックス・ジョーンズという青年を、森のはずれで拘束こうそくします。

 肩の辺りまで伸びた髪の量は少なく、しまりのない顔つきに眼鏡をかけているアレックス。

 このえない風貌ふうぼうの青年には、誘拐を計画し、車に被害者の痕跡こんせきを残さないことが、不可能だと判明してしまう。

 彼の知能では無理だと。


 このアレックス、実は重大な秘密がありました。


 アレックスは、彼の伯母おばホリ―の元へ返されるのですが。

 警察署の外でつぶやいた一言によって、ケラーに暴行されてしまいます。

 「僕がいた時には、彼女たちは泣かなかった」

 ケラーにとって、これは自供じきょう以外の何ものでもない。

 しかしロキ刑事にとっては、そうではありませんでした。


 まともな証言が取れず、証拠もなく。

 絶望と怒りを抱えたケラーは、青年アレックスを誘拐します。

 自身が所有する廃屋内で、アレックスへの拷問を開始するケラー。


 我が子が酷い目に合わされて、復讐をする類似の物語といえば、東野圭吾さん原作の「さまよう刀」がありますが。

 「プリズナーズ」の場合は、まだ容疑者の段階です。

 

 ケラー・ドーヴァーを演じるのは、アメリカンコミック原作「X-Men」の主役ウルヴァリン役で有名な、ヒュー・ジャックマン。長く鋭い爪を持つ実写版ウルヴァリンを、CMなどで見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 2012年公開の「レ・ミゼラブル」では、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。

 メグ・ライアンと共演した「ニューヨークの恋人」、同郷人のニコール・キッドマンと共演した「オーストラリア」、クリストファー・ノーラン監督のサスペンス映画「プレステージ」でご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

 彼は、オーストラリアのシドニー出身なんですね。


 さて、アレックスが、アンナとジョイを誘拐した犯人なのか。

 真犯人がいるとしたら、ロキ刑事は捕まえられるのか。

 アレックスはなぜ、あんな一言をつぶやいたのか。

 そこに深い意味はあったのか。


 本作品のきもは、タイトルに複数形のsが付いていることです。

 プリズナーと。

 確かに、2人の少女でもsは付きますが。

 それ以上の意味を持つことが、次第に分かってきます。


 とらわわれているのは、誰なのか。

 これから誰が囚われるのか。


 赤いホイッスルが、ラストシーンの先に導いてくれます。








 


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