「ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ」 


 上映時間は122分。


 2018年にアメリカで公開されました。

 原題は「Sicario: Day of the Soldado」。

 Soldadoソルダードは、英語にするとSoldierソルジャー。軍人です。

 

 監督のステファノ・ソリマは、イタリアのローマに生まれ。

 父親のセルジオ・ソリマは、セルジオ・レオーネ、セルジオ・コルブッチと肩を並べるほどの、マカロニ・ウェスタンでは代表的な監督。


 ステファノ自身は、テレビ局で働いた後に、1991年のトリノ映画祭で短編の「Thanks」が上映されて、20代なかばで映画監督デビューしました。

 その後も短編を撮り続け、カンヌ国際映画祭やヴェネチア国際映画祭でも評価を受けます。

 2012年の長編デビュー作「ACABAll Cops Are Bastards(直訳すると、「総ての警官はろくでなし」というタイトル)」は、イタリア映画アカデミーが毎年主催する、イタリア映画最高の名誉、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の新人監督賞にノミネートされました。


 本作の脚本を務めたのは、前作と同様テイラー・シェリダン。

 彼は脚本家であると同時に、2017年に公開されたスリラー映画「ウインド・リバー」では、監督もつとめめています。

 2004年から2007年まで放送された、青春ミステリードラマの「ヴェロニカ・マーズ」や、2008年から2014年にかけて放送されたアクションクライムドラマ「サン・オブ・アナーキー」にも出演している、俳優としての側面も。



 さて、「ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ」ですが、前作の主役だった エミリー・ブラント演じるケイト・メイサー捜査官は、1秒たりとも出演していません。

 本作の主演は、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロ・ギリックに、ジョシュ・ブローリン演じるCIA捜査官マット・グレイヴァー。

 もうね、アレハンドロ・ギリックが格好良すぎて。

 執念と冷酷さを持ち合わせた、まさに戦士です。


 プエルトリコ出身のベニチオ・デル・トロは、1995年の「ユージュアル・サスペクト」で評価され、2000年の「トラフィック」では、アカデミー賞助演男優賞を始め、ベルリン国際映画祭男優賞、ゴールデングローブ賞と英国アカデミー賞でも、助演男優賞を授賞しています。

 チェ・ゲバラの半生を描いた2部作、2008年の「チェ 28歳の革命」と「チェ 39歳 別れの手紙」では、製作もねていて。


 本作の冒頭、黒い背景に白字で、以下のメッセージが表示されます。


『毎年 何千人もが手数料を払い、

 メキシコ国境を越え、アメリカに密入国する。

 国境は、メキシコの麻薬組織カルテルが仕切っている』


 次のシーンは、テキサス州にあるメキシコとの国境ボーダーラインで、夜間に警備するヘリコプターが、上空から不法移民の動きを、赤外線で熱感知する様子。

 荷物を持って逃れようとする、中南米各国からの密入国者たち。

 地上では、警察車両のサイレンが鳴り響き。

 武器を所持する国境警備隊や警官に、彼らはしたがほかありません。

 1人の男をのぞいいては。


 集団から離れた場所で、複数の国境警備隊に囲まれて、背を向けたままひざまく男。

 男の口から出たのは、小さな祈りの言葉でした。

 「両手をあげろ」と命令されても、従わない彼の片手には、手榴弾しゅりゅうだんらしきものが。

 それは爆発し、国境警備隊は負傷します。

 夜が明けて、警察が現場を確認すると、祈りのための絨毯じゅうたんが、3枚地べたに敷かれていました。


 メキシコとの国境を接するアメリカの州は、以下の4つ。

 西からカリフォルニア州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、そしてテキサス州。

 国境の全長は、3,145キロメートル。

 長さ3000キロメートルと言われる日本列島は、すっぽりとおさまります。

 両国の国境は、世界で最も頻繁に横断されて、毎年合法的に横断する人の数だけでも、約3億5000万人。


 国境での事件後の、とある夜。

 アメリカ中部のカンザス州カンザスシティにある、食料雑貨店の駐車場に停められた車から出てきたのは、4人の男たち。

 まだそう遅くない時間でしょうか。店内には子供の姿もあります。

 男たちが入店した直後、その内1人の男が自爆し、あとの者も続きます。

 民間人15人の犠牲者の内、2人は子供で。


 アメリカ政府はすぐに動きます。

 テロの実行犯は、飛行機で入国してはいない。

 だとすると、何者かが麻薬カルテルに金を払い、メキシコとの国境を抜けさせたのだと仮定します。

 なぜなら、20年前なら麻薬をアメリカに入れれば金になりましたが、今は不法移民を密入国させる方が、カルテルにとっては楽だから。栽培する費用や手間がかからず、失敗したところで、また何度でも不法移民は金を払う。

 貧困や暴力から逃げた先に、良い生活を夢見ているから。


 超法規的な作戦を許可されて、カルテルの殲滅せんめつを命じられたのは、CIA捜査官のマット・グレイヴァー。

 グレイヴァーと国防総省は、主要なカルテル同士を戦わせる。つまり抗争を引き起こすことが最善だと結論付けます。

 そのために、グレイヴァーはアレハンドロ・ギリックを雇用するために、わざわざ彼のいるコロンビアへ。

 他にも猛者たちを雇い、必要な兵器も準備するグレイヴァー。


 作戦が始まり、アレハンドロは、メキシコ最古の犯罪組織マタモラス・カルテルの顧問弁護士を、首都メキシコシティで白昼堂々射殺します。

 射殺事件が報道された後、グレイヴァーと彼のチームは、マタモラス・カルテルと対立するカルテルのボスの娘イサベルを誘拐。生き残ったカルテルの構成員に、反目はんもくする組織の犯行だと見せかけて。

 その後、16才のイサベルは、テキサスにある、カルテルの隠れ家をよそおった場所へ連れて行かれ。

 グレイヴァー達は、そこで一芝居ひとしばいうちます。


 隠れ家を急襲したDEA麻薬取締局が、彼女を対立組織マタモラス・カルテルから、救出したのだと。

 DEAのジャケットを着て、イサベルをなだめるアレハンドロ。

 チームは一旦、彼女をアメリカ軍基地へ連れて行き、そこで作戦を立てますが。

 その作戦というのが、またとんでもない。

 カルテル間の抗争を引き起こすため、わざわざマタモラス・カルテルの支配地域でイサベルを置き去りにしようというのです。


 装甲車に乗り、国境を越えたチームとイサベル。

 彼らの車列の前後には、メキシコ警察による護衛が。

 しかし前作同様、メキシコ警察は、グレイヴァー達に攻撃を仕掛けます。

 舗装ほそうされていない道に入り、スピードを上げる警察車両。

 砂埃すなぼこりまぎれての銃撃。加えて、チームの乗る装甲車は右手からも攻撃を受ける始末。

 100メートルほど離れた場所で、男が構えているのは、ロケットランチャーでしょうか。


 本作の見どころは、爆発シーンでもあります。

 自爆に爆撃。

 ああ、これは本当に戦争なんだなと。

 

 あまりの惨状さんじょうおびえたイサベルは、アレハンドロ達への不信もあり、こっそりと車外へ出て、砂漠に足を踏み入れます。

 砂漠と言っても、アリゾナ州とカリフォルニア州、そしてメキシコのソノラ州にかけて広がるソノラ砂漠には、背の高いサボテンが生えていて、緑がないわけではありません。

 それでも、危険なことに変わりはない。


 戦闘が終わり、イサベルがいないことに気付いたチーム。

 グレイヴァー達チームがアメリカへ戻る間に、アレハンドロが気の強いイサベルを捜すことになりますが。

 果たして、無事に見つけられるのか。

 見つけたとして、作戦を遂行させることは出来るのか。


 前作を越えた傑作です。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る