「ボーダーライン」 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ


 上映時間は121分。


 2015年のカンヌ国際映画祭で、コンペティション部門に出品された、アクションスリラー作品です。


 原題は、スペイン語でを意味する「Sicarioシカリオ」。


 本作品は、アカデミー賞で、撮影賞と作曲賞、そして音響編集賞にノミネートされました。

 また、英国アカデミー賞では、助演男優賞と撮影賞、作曲賞にノミネートされています。

 確かに、驚きの連続が待ち受けるストーリーだけでなく、計算された構図や過酷な自然風景の美しさ。緊張感を増幅させる、重低音の響く音楽も、十分に堪能たんのうして頂きたいです。



 さて、物語の始まりは、アメリカはアリゾナ州。州都フェニックスの郊外にあるチャンドラーという都市の一軒家を、人質を救出するために、FBIの誘拐専門班が急襲きゅうしゅうします。

 アリゾナ州は、西はカリフォルニア州とネバダ州、南をメキシコ国境ボーダーラインと接していて。

 彼らが駆け付けた一軒家というのは、ソノラカルテル麻薬組織のアジトでした。


 ソノラカルテルというのは、元メキシコ連邦警察の特務機関員エージェントであり、1980年代に、メキシコにおける全ての違法薬物の取引、またメキシコ —アメリカ間の国境ボーダーラインを横切る道路を管理していた、ミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルドを含めた4人によって設立されました。

 というのも、世界最大の麻薬消費国であるアメリカに、当時コカインを密輸していたのは、麻薬王パブロ・エスコバルようするメデジンカルテル。

 つまり、メキシコは、アメリカに麻薬を運ぶための中継地だったわけです。


 エミリー・ブラント演じる、ケイト・メイサー捜査官ひきいる誘拐専門班は、カルテルのアジト内で、容疑者1人を射殺しますが、数十人もの誘拐被害者たちは、家屋の壁の中から遺体となって発見されてしまいます。

 加えて、裏庭の物置には罠が仕掛けられており、爆弾によって捜査官2人が犠牲に。


 上司の推薦により、ケイトは国防総省の統合機動部隊に加わることに。

 部隊の仲間は、主に対テロ作戦を遂行すいこうする、アメリカ陸軍の特殊部隊デルタフォースに、連邦保安官など猛者もさばかり。

 そんな部隊を指揮するのは、CIA中央情報局職員のマット・グレイヴァーと所属不詳のアレハンドロ・ギリックという男。

 作戦会議中、場違いな感覚をぬぐえないケイトですが、担当した誘拐事件の主犯である麻薬カルテルのボス、マニュエル・ディアスを叩くために、腹をくくります。


 ケイトを演じる、主演のエミリー・ブラントは、ロンドン出身。

 2006年公開の「プラダを着た悪魔」で、アン・ハサウェイ演じる新人編集者に意地悪な先輩役で、一躍いちやく有名になりました。

 主演を務めた2018年のホラー映画、「クワイエット・プレイス」をごらんになった方もいらっしゃるかもしれません。


 さて、デルタフォースと共に、国境ボーダーラインを越えてメキシコに入った部隊ですが。

 同名の犬種でお馴染みの、チワワ州は最大都市シウダー・フアレス市の高架こうか下には、裸で逆さ吊りにされた複数の遺体がお出迎え。

 こんなに治安の悪いシウダー・フアレス市ですが、実はアメリカのテキサス州エルパソと、車でたった30分弱の距離。

 今回の部隊の目的は、ソノラカルテルの幹部であり、マニュエル・ディアスの弟であるギレルモを、地元警察から引き取ること。


 引き取りを済ませ、アメリカ国境に近づいた高速道路で、まさかの渋滞が発生します。部隊の車の周囲には、カルテルの構成員が乗る車が、ちらほらと。

 ギレルモを取り返しに来たんですね。

 だとしたら、この渋滞も仕組まれたものなのか。

 デルタフォースの判断により、他に多くの車が周囲に停まっているにも関わらず、銃撃戦になってしまいます。

 事態についていけないケイトは、後部座席で周囲の様子をうかがっていましたが、自身に向けられた銃口に気付き、相手を射殺。

 ケイトが殺したのは、カルテルに買収された地元警官でした。



 2014年の9月に、メキシコのイグアラ市で、43人の男子大学生が集団失踪した事件は、日本のニュース番組にも取り上げられました。

 というのも、抗議デモを行っていた師範学校の学生たちをうとましく思い、警察に襲撃しゅうげきを命じたのが、当時のイグアラ市市長だったからです。

 事件当日の深夜、43人の学生は警察車両に乗せられて、イグアラ市の隣町コクラ警察署に拘留こうりゅうされます。その後、コクラ警察署の副署長の手によって、彼らは地元カルテルに引き渡され。

 カルテルは学生たちをゴミ集積所に運び、焼き殺した後に、灰を袋詰めにして川に遺棄いきしたそうです。


 もうね、治安が悪いどころの話じゃない。



 さてさて、部隊はエルパソに帰還し、ケイトは部隊のとった違法な手段について抗議します。

 そんな中、アレハンドロ・ギリックは、ギレルモを拷問にかけて、ソノラカルテルがアメリカに密輸する際に、アリゾナ州ノガレス市にあるトンネルを使っていることを聞き出して。


 そのトンネルでの作戦において、ケイトはどうも頼りない。捜査機関員としては優秀なのですが、兵士としては新人で、あまりにもどんくさい。

 アフガニスタンで戦った猛者たちと肩を並べるには、経験が、圧倒的に足りないんですね。

 トンネル内で迷ったケイトは、ある広い空間に辿たどり着きます。

 そこで真正面から銃撃を受けるのですが、防弾チョッキを着ているために、一命を取り留める。

 その一発の銃撃によって、ケイトは作戦中の自分の役割、そして部隊の本当の目的について知ることになります。


 獣を倒すには、自らも獣にならなければならない。

 果たして、ケイトは獣になれるのか。

 マニュエル・ディアスを、捕らえることが出来るのか。



 メキシコのカルテルについて調べると、目を覆うような事件が山ほど出てきますが。

 個人的にショックを受けたのは、世界的に需要の伸びているアボカドの生産農家が、自営の防衛組織を編成して銃を所持し、分け前を要求する麻薬カルテルと対抗していること。

 メキシコのミスコン優勝者の多くが、カルテルの幹部の妻や愛人、恋人にさせられること。ですかね。



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