「クロニクル」 監督:ジョシュ・トランク


 出来ることなら、10代のうちに観て頂きたい傑作です。


 上映時間は83分。

 世界的に大ヒットした、Foundファウンド Footageフッテージのスーパーヒーローものです。


 ファウンド・フッテージとは、モキュメンタリーと呼ばれる演出方法の1つで。

 撮影者が行方不明などになり、埋もれていた映像。もしくは撮影者と無関係の人の手に渡り、そのまま公開されたという設定のことです。

 そのためホラー作品が多く。

 1999年アメリカ公開の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や2007年の「パラノーマル・アクティビティ」などが良い例です。


 「クロニクル」は、2012年の1月28日に、フランスで開催されるファンタジー・スリラー・ホラー専門の国際映画祭、ジェラルメ国際ファンタスティカ映画祭で、プレミア上映されました。

 この映画祭では、1995年にピーター・ジャクソン監督の「乙女おとめの祈り」、1999年にヴィンチェンゾ・ナタリ監督の「CUBE」、2003年には中田秀夫監督の「仄暗いほのぐ水の底から」、2009年にはトーマス・アルフレッドソン監督の「ぼくのエリ 200歳の少女」が、グランプリを授賞しています。


 覚えておられる方がいらっしゃるかもしれませんが、「クロニクル」は、2013年の9月下旬、日本の首都圏30館で2週間限定で公開されたところ、平日昼間も満席になるという大ヒットを記録。

 初週末の興行収入は、洋画で5位を記録しました。

 ちなみに邦画ですと、是枝裕和監督の「そして父になる」や宮崎駿監督の「風立ちぬ」、「劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」が上映されていた頃です。


 監督のジョシュ・トランクは、2007年にユーチューブで公開した、2分間のSFアクション短編映画「Stabbing at Leia's 22ndレイラの22才の誕生日に起きた Birthday殺傷事件」によって、一夜にして有名になりました。

 その後、テレビドラマ「キル・ポイント」の、スピン・オフ・エピソード本筋とは関係ないこぼれ話の脚本と監督を担当。

 インディーズ映画の編集をするなどして、2011年に長編初監督作品となったのが、「クロニクル」です。


 Chronicleクロニクルという英語は、動詞ではという意味があり、Recordレコードと同じですね。

 名詞だと、年代記や編年史、記録や物語。新聞なんて意味もあります。



 作品の舞台は、アメリカ西海岸のワシントン州シアトル。

 主人公の高校生アンドリュー・デトマーは、痩せていて内気。

 というのも、学校では他の生徒にさげすまれ、母親はがんを患っているのに、父親は失職していて、薬を買うお金にも困る有様ありさま

 加えて、アルコール依存症の父親は、アンドリューに暴力まで振るう。


 もう、10代にしてどんまりなわけです。

 明るい未来なんて、思い描けない。

 ふさぎこむのも無理はない。

 というよりも、人付き合いを諦めている。


 そんな彼が趣味にしているのは、ビデオ撮影。

 ネットに投稿していますが、面白い映像を撮ろうというのではなく、ただただ身の回りの日常風景を、淡々とうつすだけ。


 そんな彼を見かねて、同じ高校に通う年長の従兄いとこマット・ギャリティーが、あるパーティーに連れ出します。

 しかし、そこでも撮影を止めないアンドリュー。

 多くのパーティー参加者は、彼のことをうとましく思い、中には露骨に酷い態度をとる者まで現れる。

 パーティー会場の外で、みじめに泣くアンドリューに声をかけたのは、アメフト部のスター選手スティーブ・モンゴメリーでした。

 何でも、森の中で見つけた穴にあるものを、撮影して欲しいと。

 

 気が進まないながらも、スティーブとマットについて行くアンドリュー。

 人が歩いて進めるほどの大きさの、穴の中にあったのは、青白く光る結晶のようでした。

 3人が近づき、あることをしたことで、アンドリューの撮影していた映像が途切れます。


 再開した映像は、数週間後のものでした。

 アンドリューは新しいカメラを手に入れていて、彼自身とマット、それにスティーブの手に入れた超能力を、それぞれ披露ひろうしています。

 触れずにボールを自在にあやつったり、悪ふざけや趣味の悪いを重ねたり。

 店で見かけた若い男が、ガムを噛んでいるのに気づき、そのガムを口から出させたり。力加減が分からずに、その男性まで前に倒れてしまいます。

 ぬいぐるみ売り場では、テディーベアをちゅうに浮かせて、幼い少女が逃げまどう姿を笑って見ている。

 駐車場にまっている車を動かし、戻ってきた持ち主が必死にさがす様子を見て、ジョークを飛ばす。


 練習を重ねる3人の力は増すばかりで、空まで自由に飛べるようになる。

 これは絶対にあの結晶の力だと、3人とも確信します。


 秘密を共有することで、3人のきずなは深まりますが。

 あおり運転する後続車に苛立いらだったアンドリューが、超能力を使い、その車を道路脇の池に落としたことで、マットとスティーブは恐怖します。 

 この力は、簡単に人を傷つけ、殺すことも出来ると。

 雨の降る中、池に落ちた車から、男を救出するマットとスティーブ。

 そもそもこの2人は、アンドリューと違い、元から陽気で人望がある。

 特にスティーブは、親切で気さく。分けへだてなく人に接するからこそ、アンドリューとも接点が出来た。


 強大な未知の力を手に入れた万能感と同時に、アンドリューは2人に対する劣等感も抱きます。2人と仲良くなれて嬉しい反面、どうしても周囲の態度を比べてしまう。


 そんな彼に、スティーブが提案します。

 学校で行われるタレント・ショーに、出演しないかと。


 ステージに立つスティーブは、早速さっそくボールを落としてしまいどんくさい。

 観客が彼に向けるのは、あざけりの目やせせら笑い。

 以前のアンドリューなら、ここで逃げだし、泣き出してしまったかもしれません。

 しかし今回は、マットとスティーブにお膳立ぜんだてされたこともあり、アンドリューも一躍いちやく学校の人気者に。

 というのも、超能力を使ってのマジックを披露ひろうしたからです。

 このシーンは、観客の反応を含めて、何度観ても痛快つうかいきわまりない。


 調子に乗るアンドリューですが、急にすべてが上手くいくわけじゃありません。

 自己肯定感と劣等感が、巨大なシーソーのように訪れるのは、学校の生徒はアンドリューのえない長い期間を知っているから。

 精一杯に背伸びをしても、それで笑われることもある。


 そんなティーネージャーの行くすえは。

 3人の関係性は、どうなっていくのか。

 映画の結末後にも、思いをせたくなる作品です。





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