どんでん返しのミステリ好きが、二度観必死の映画を勧めてみる

「月に囚われた男」 監督：ダンカン・ジョーンズ

　上映時間：97分。

　イギリス製作のSFスリラー作品ですが、主人公にとっては、正直いってホラーかと。

　「囚われたって、そういうことかー！」と、SF作品を観るのが怖くなりました。

　初上映は、2009年のサンダンス映画祭。毎年1月にアメリカのユタ州で開催される、世界最大級のインディーズ映画祭です。

　インディーズ（独立系）といっても、欧米の場合、ハリウッドのソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントやウォルト・ディズニー・スタジオ（20世紀スタジオ）、ワーナー・ブラザーズ、ユニバーサル・スタジオ、パラマウント映画といった大手５社の傘下に属さない独立資本、及びアートハウス系のスタジオなどをいうため、少額の予算で作られた映画が多く、上映される映画館も限られています。

　とはいうものの、本作品の製作費は、アメリカドルで5百万ドル。

　日本とは規模が違います。

　それでも、よくこの金額でSF映画が作れたなぁと。アイディアの勝利ですね。

　原題は「Moon」

　本作品で監督デビューを果たしたダンカン・ジョーンズは、イギリス人歌手デヴィッド・ボウイと最初の妻メアリー・アンジェラ・バーネットの一人息子。

　1956年に設立されたイギリスで最も古い映画学校、ロンドン・フィルム・スクールを、2001年に卒業しています。

　映画「月に囚（とらわ）われた男」は、2009年の英国インディペンデント映画賞で、7つの賞にノミネートされ、作品賞と新人監督賞を授賞しました。

　また英国アカデミー賞でも、新人監督賞を授賞し、作品賞にもノミネートされています。

　英国アカデミー賞といえば、翌年の作品賞に選ばれたのが、アメリカの本家アカデミー賞でも、作品賞を含む４部門を授賞した「英国王のスピーチ」です。

　さて、映画の内容ですが、舞台は近未来の月。

　石油危機後、ルーナー（月）・インダストリーズ（産業）という会社が、地球から見て月の裏側に、サラン基地と呼ばれるある施設を建設しました。

　今や石油に取って代わったエネルギー資源、ヘリウム３を、月の大地から採掘（さいくつ）するために。

　その任務（にんむ）を、たった１人で請（う）け負（お）っているのが、主人公の宇宙飛行士サム・ベルです。彼はあと３ヶ月で契約を終えて、地球に帰れる身（み）。

　真面目な彼は、地球にいる上司らとの通信で、信頼されているのが見てとれます。

　施設はほぼオートメーション化されているため、ヘリウム３を採掘してから地球へ送るまでの作業を、１人でこなせるのです。

　代わり映（ば）えのない毎日を送る彼には、地球に残してきた妻のテスと、3才の娘イヴがいるのですが。まだサムが地球にいた頃には、イヴは妻のお腹の中にいました。

　孤独なサムのコミュニケーション相手になってくれるのは、仕事の手伝いもしてくれる人工知能のガーティーだけ。なぜなら、地球とのライブ通信に問題が生じたからです。

　地球に帰還する２週間前、サムは施設内で、ありえないものを目にします。

　それは10代の少女と、髭（ひげ）の生えた小汚い男の姿でした。

　自分以外に、ここに人間がいるはずがないのに。

　彼らは一体何者なのか。

　ただの幻覚なのか。

　そんな考え事をしながら船外任務を行っていたサムに、悲劇が起こります。

　彼の乗る月面探査車が、採掘機に衝突する事故を起こしたのです。

　探査車内の空気が急速に失われたことで、サムは意識を失います。

　果たして、彼はどうなってしまうのか。

　「月に囚われた男」とは、どういう意味なのか。

　たとえ科学技術が進歩したとしても、こんなことは起こらないで欲しいです。

　サム・ベルを演じているサム・ロックウェルは、リドリー・スコット監督の「マッチスティック・メン」で、ニコラス・ケイジ演じる詐欺師（さぎし）ロイの相棒、フランク役を演じています。

　「グリーン・マイル」では、ワイルド・ビルと呼ばれる殺人犯の役を。

　初主演を飾ったのは、2002年に上映された、ジョージ・クルーニーの監督デビュー作「コンフェッション」。著名なテレビプロデューサーの伝記を基（もと）にした作品で、CIAの秘密工作員になるという話。この作品でサムは、ベルリン国際映画祭主演男優賞を授賞しました。

　アカデミー賞で７つのノミネートを受けた「スリー・ビルボード」では、同賞の助演男優賞を受賞。

　ディック・チェイニー元副大統領を描いた「バイス」で、ジョージ・Ｗ・ブッシュを演じたことにより、２年連続で同賞にノミネートされました。

　「月に囚われた男」は、殆（ほとん）どがサム・ベルの一人芝居で話が進みます。

　それでも圧倒的な面白さ、画面内の緊張感を持続させるのは、彼の演技力のなせる業（わざ）だと言わざるを得ません。