「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」

 上映時間は130分。


 監督は、ナタウット・プーンピリヤ。

 2017年にタイで公開されて、同国の興行収入ランキングで、2週連続1位を獲得した、犯罪スリラー作品です。

 多くの媒体ばいたいで、学生版「オーシャンズ11」としょうされました。


 ジーニアスGENIUSとは、の意味。

 つまり、というタイトルなわけで。

 犯罪といっても、世界をまたにかけた、スケールの大きなカンニングの話なのですが。

 これがまさかの事実という。中国で、実際に起きた事件をもとにしているそうです。


 正直、よくこんなことを考えて、実行する気になったなあと。

 ここまでするかと。


 プーンピリヤ監督に関してですが、2012年にタイで公開された「カウントダウン」という映画が、長編初監督作品です。

 同作品は、アカデミー賞外国語映画賞の、タイ代表作品に選ばれました。


 注目して頂きたいのは、主演女優のチュティモン・ジョンジャルーンスックジン。

 1996年生まれの身長176センチ。モデルとして、15才でキャリアをスタートさせています。タイ人モデルとして初めて、世界最古の女性向けファッション雑誌「ハーパーズ・バザー」のUKイギリス版にりました。

 作中での、彼女の存在感たるや。

 モデルと知り、納得のスタイルです。

 現在は、タイの最高学府の1つ、国立チュラーロンコーン大学で、純粋美術と応用美術の学部に在籍しています。


 「バッド・ジーニアス」は、タイのアカデミー賞といえるスパナホン映画祭で、作品賞、監督賞、脚色賞、それに主演男優賞と主演女優賞を含めた、史上最多の12部門で授賞しました。

 授賞数もさることながら、ノミネーション数でも最多記録を出しています。

 各国の映画祭でも評価されて、ニューヨーク・アジアン映画祭では、名誉あるオープニング作品に選ばれるとともに、審査員賞とチュティモンがライジング・スター賞を授賞しました。


 ニューヨーク・アジアン映画祭で上映される作品は、東アジアか東南アジアの作品です。多くの作品は、この映画祭で初めて、もしくは唯一、アメリカ国内で上映されることになります。

 日本の作品ですと、「カメラを止めるな」に「三度目の殺人」、「孤狼の血」や「いぬやしき」、「翔んで埼玉」、「永い言い訳」など、多くの人気作が上映されています。

 

 「バッド・ジーニアス」は、アカデミー賞外国語映画賞の、タイ代表作品には選出されませんでしたが、最終的な4作品のうちに選ばれています。

 その年のタイ代表作品は、「By the Time暗くなる It Gets Dark時間まで」という1976年に起きたを舞台に描かれた作品です。

 とは、バンコク市内にあるタンマサート大学構内で起きた学生決起のクーデターのことで、とも呼ばれています。


 

 チュティモン演じるリンは、教師である父親と2人で暮らす女子中学生。

 成績がトップクラスのため、奨学金を得て、名門高校に入学することになりました。ただ、とうのリンは、あまり喜んでいる風には見えません。

 面接をした校長は、成績優秀な子は大歓迎。

 決して裕福とは言えないため、父親は、娘が手にしたチャンスに、完全に舞い上がっているように見えます。


 入学後、リンは学校でいつも1人。なんだかつまらなそうです。

 そんな時、彼女に話しかけてきたのが、グレースというクラスメイトの女の子。

 天真爛漫てんしんらんまんなお金持ち。ただし、成績は良いとは言えず、考え方が幼い。

 そんな彼女のある秘密を、リンは知ってしまいます。


 リンは、グレースに勉強を教えることになるのですが。試験中、すぐ後ろの席にいるグレースの様子を、見るに見かねて、ある方法で答えを教えてしまう。

 この方法は、まあじょの口というか。 


 グレースによって、リンがカンニングを手伝ったことが、グレースの交際相手であるパットにも知られます。大金持ちのパットは、報酬ほうしゅうと引き換えに、リンに、自分と友人にも答えを教えるよう提案する。

 このパットが、かなりの曲者くせもので。

 金と権力さえあれば、何をしても許されると思っている。

 そう、何をしても。


 リンはリンで、身近な大人たちの汚い部分を見るにつれて、なかば投げやりになっている部分もあるのか。

 パットたちのカンニングを、手伝うことにします。


 そのやり方が、実に斬新ざんしん

 リンは、とっさの機転もくんですね。

 彼女のカンニングに、報酬ほうしゅうを払う生徒は増えるばかり。

 とはいえ、試験中のシーンは、ツッコミたくなることけ合いです。


 カンニングは、長くは続きません。

 リンと同様に、成績がトップクラスで、奨学金を受けている男子生徒バンクが密告みっこくするからです。

 リンは父親に、「カンニングで報酬をもらうような真似をするなら、こんな高校に行かせなければ良かった」とまで言われてしまいます。

 学校は学校で、彼女の奨学金を取り消すだけでなく、大学の国際奨学金に出願する機会まで奪ってしまう。つまり、夢だった留学の機会を奪われたわけです。

 学校の評判を気にする校長の、手のひら返しと言ったらもう。


 理不尽なことに、グレースにパット、それに彼らの友人たちはおとがめなし。

 彼らは彼らで、両親の期待などの重圧を感じているわけですが。

 それにしても、世の中の不公平を突き付けられて、胸にせまる場面が多々たたあります。

 お金が総てではありませんが、お金で解決できることは山ほどある。

 留学を、当然のこととして受け入れる層と、高望みだとして考えもしない層の断絶。


 リンは、パットをかばうグレースと、一旦いったんは距離を置こうとしますが。グレースには、どこか憎めない魅力がある。

 彼女の両親に会ったリンは、大金とともに、アメリカ留学の機会を再び手にすることが出来ると知ります。一緒にアメリカの大学に通おうと、グレースに誘われるんです。

 そのためには、自身の奨学金が取り消される原因となった、クラスメイトたちを手伝うことになる。

 STICと呼ばれる、国際標準の大学入試テストで、カンニングをしようというのです。


 実際には、STICという英語能力をはかるテストはありません。

 中国の事件で不正が行われたのは、SAT大学進学適性試験(Scholastic Assessment Test)という試験です。


 リンは、STICのカンニングについて、グレースとパットに条件を出します。

 真面目で正義感の強い、バンクが参加するならやると。

 要するに、リンは乗り気じゃなかったんですね。

 それを聞いたパットの行動が、卑劣極まりない。クラスメイトに対して、ここまでやるかと。

 金で人を思い通りにさせるとは、こういうことなのだと思い知りました。


 追い詰められたバンクは、パットたちのカンニングを、手伝わなければならない状況に追い込まれます。

 いくら優秀で、努力する才能もあり、真面目でいても、貧しいというだけで、こんな目にわなきゃいけないのかと。強みさえも搾取さくしゅされてしまう。

 同じ境遇のリンとバンクは、次第に心を通わせるのですが。

 さとったような2人の表情が、実につらい。

 

 リンとバンクは、心身ともにすり減らしながら、とんでもない方法でカンニングを達成しようとします。


 果たして、彼らのカンニングは成功するのか。

 どんな方法で、成し遂げようとするのか。

 そもそも、カンニングする方法なんてあるのか。


 リンとバンクの今後の幸せを、願わずにはいられない作品です。

 



















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