「縞模様のパジャマの少年」 監督:マーク・ハーマン


 上映時間94分。

 2008年にイギリスで上映されました。


 製作は、アメリカとイギリスの合作です。


 監督と脚本をつとめたマーク・ハーマンは、1996年に製作された映画「ブラス」で有名です。

 炭鉱夫で構成されたブラスバンドは、全英ブラスバンド選手権にそねえて練習しなければならないのですが、炭鉱閉鎖の噂を耳にします。失業の不安を抱えながらも、彼らは自分たちの実力を発揮はっきできるのか。

 主演の1人に、ユアン・マクレガーが名を連ねています。


 「縞模様しまもようのパジャマの少年」ですが、原作は、2006年に出版された、アイルランド人作家ジョン・ボインの手による、同名歴史小説。

 

 歴史小説で、縞模様しまもようとくれば、ピンとくる方もいらっしゃるでしょう。

 縞模様しまもようの囚人服。

 そう、ホロコーストの話です。


 ただし、視点人物は、ユダヤ人ではありません。

 収容所の所長の息子、ブルーノ。まだ9才の少年です。


 第二次世界大戦中、少年ブルーノの父親が昇進し、一家は首都ベルリンから占領地のポーランドへ移住します。

 しかし、引っ越し先は町から離れていて、隣家もなく、友達ができないため、ブルーノは退屈で仕方ありません。


 ある日、彼は家族や使用人、それに父親の部下たちに見つからないよう、そっと家を抜け出して、少し遠出をします。そこで、農場のような広い施設を見つけるのです。

 施設の周囲には、有刺鉄線ゆうしてっせんが張り巡らされている。


 その鉄線のすぐ向こう側に、自分と同じ年くらいの少年の姿が。

 友達になりたくて、ブルーノが話しかけると、彼はシュムエルと名乗ります。

 シュムエルは、縦縞たてじまのパジャマのような服を着ていて、ブルーノが辺りを見渡す限り、他の人たちもそこでは同じ模様の服を着ている。

 髪は、みんな丸坊主。


 それから頻繁ひんぱんに、ブルーノは、シュムエルに会いに行くようになります。

 食料をやチェスを持参して。


 この作品は、子供の純真さゆえの残酷さも描かれています。

 ブルーノの自宅の台所で、やせ細った老人パヴェルが、うずくまってジャガイモの皮をいている。使用人の一人です。

 彼も縞模様しまもようの囚人服を着ているのですが、その姿を見たブルーノは、パヴェルに「お前は大人なのに、ジャガイモの皮をくことしか出来ないのか?」と暴言を吐きます。

 うっすらと涙を浮かべるパヴェル。

 実は彼は、収容所に運ばれるまでは医者でした。


 作中、ブルーノが具合を悪くしたとき、パヴェルのとっさの判断で救われます。

 ブルーノの母親はお礼を述べますが、その勇気と善良さは、並大抵のものではありません。

 なぜなら、夫の部下たちだけでなく、子供の家庭教師に娘までも、ユダヤ人は下等かとうだと信じているからです。


 果たして、ブルーノとシュムエルの友情の行方は。

 上手くいって欲しいと思う反面、私達は、どう戦争が終わったかを知っています。



 ドイツとイスラエルの製作で、2011年に公開された「ヒトラーの子供たち(Hitler's Children)」というドキュメンタリー映画があります。

 出演者たちはみな、ナチス高官の子孫や親戚。


 アウシュビッツ収容所の所長だった、ルドルフ・ヘスの孫ライナー・ヘスは、アウシュビッツを訪れて、見学していたイスラエルの子供たちから質問を受けます。

 「今ここで、おじいさんと再会したらどうしますか?」と問われたライナーは、「私がこの手で殺します」と答えました。


 実はライナーは、子供のころ、社会科見学でアウシュビッツを訪れる際に、教師からと言われた経験を持ちます。


 クラクフ・プワシュフ強制収容所の所長だった、アーモン・ゲートの娘は、戦後バーテンダーに恋します。しかし、そのポーランド出身の彼は、子供時代をプワシュフ強制収容所で過ごしていた。

 住んでいた場所が同じだと知り、彼女は浮かれた気持ちで父親の名を出します。

 その途端、バーテンダーは激高し、ゲートを口汚くののしり始める。

 「あのくそ野郎」「人殺し」

 彼女の恋は、そこで終わりました。


 かと思えば、何も気にしないと言ってくれた、ユダヤ人男性と結婚した、元高官の親戚もいます。


 強制収容所の所長たちは、比較的職場の近くにきょを構えていたため、自宅の庭から、収容者の遺体を焼く煙が見えたそうです。

 家族は、酷いにおいだと思いながらも、お菓子を焼きいたり、ピアノを弾いたり、特権階級の家族としての幸せを、享受きょうじゅしていた。

 家族にとっては、優しい夫であり、父親であった場合もあるそうです。



 「縞模様しまもようのパジャマの少年」は、いわゆる戦争ものですが、現代に置きえるなら、殺人者の家族の話とも言えます。

 大量殺人鬼の父親に、その事実を知ってしまった妻。息子はこそこそと、今日も被害者の息子の元へ遊びに行く。

 しかし、息子の幸せなひと時も、長くは続きませんよね?






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