「デザート・フラワー」 監督:シェリー・ホーマン
上映時間127分。
2009年にヴェネチア国際映画祭で初上映された、ドイツとオーストリア、それにフランス製作の映画です。
ホーマン監督は、日本ではあまり知られていませんが、実際に起きた『オーストリア少女監禁事件』の被害者ナターシャ・カンプッシュの
監督はニューヨークで生まれ、6才のときにドイツに移っています。
「デザート・フラワー」の原作は、ソマリア出身の世界的トップモデル、ワリス・ディリーの
一見、華やかなイメージの題名に
題名のデザートというのは、食後のお菓子や果物(dessert)ではなく、砂漠(desert)の方です。
砂漠の花は、ワリスという名前の意味なんです。
ワリスを演じるのは、エチオピア出身のトップモデル、リヤ・ケベデ。
彼女は、「鑑定士と顔のない依頼人」にも出演しています。
ワリスは1965年、ソマリア中部の内陸都市ガルカイヨで、遊牧民の子として
ソマリアという国は、東をインド洋とアデン湾に面していて、アフリカの
13才になったワリス。彼女は5頭のラクダと引き換えに、60代の男性と結婚させられそうになります。しかも、4番目の妻として。
彼女の意志なんて関係ない。
貧しい家に生まれ、弟は幼くして餓死している。
ですが、どうしても受け入れられなかったワリスは、家を出て、親戚のいる首都モガディシュを目指します。
そのためには、南に広がる砂漠を越えなければならない。
たった1人で。
ガルカイヨからモガディシュまでは、車でも14時間半はかかる距離。
命からがら、彼女は母の妹である、
しかし、長くはそこにいられない。
父親が、金づるである娘を必死に連れ戻そうと、
親戚のもとを、点々とするワリス。
最初の転機が訪れたのは、叔母の夫である駐英ソマリア大使が、母国に一時帰国したこと。それも、ロンドンの大使館で働いてくれる、メイドを探して。
ワリスは彼の目に
ただし、彼女に給料は支払われません。
4年後、大使である叔父の任期が切れ、同時にソマリアで内戦が
本来なら、ワリスも叔父と一緒に帰国せざるを得ません。
しかし、彼女は考える。
叔父の帰国当日になって、パスポートを紛失したと嘘をつくのです。
ロンドンに残ったワリス。
しかし、大使館を出た彼女に、行くあてなどありません。
路上暮らしが始まり、後にキリスト教青年会(YMCA)の世話になります。
マクドナルドの清掃係の職を得てからは、ようやく夜間に英語を学べるようになる。
マクドナルドで働き始めたことが、彼女の第2の転機となります。
イギリスで活躍する、ファッション写真家に見いだされ、モデルになるよう説得されるのです。
周囲の助けもあり、1987年にデビューした彼女は、あっという間にトップモデルに上り
シャネルやリーバイス、ロレアルやレブロンなどの、トップブランドの広告に
そんな彼女のキャリアが絶頂だった、1997年。
女性ファッション誌
FGM、つまりFemale Genital Mutilation。
女性器
割礼は、男子の性器の
女性器切除が、男子の割礼と違うのは、性感帯を失うことで、女性が性行為で快楽を得ないようにすれば、彼女たちは自発的に性行為をすることがなく、結婚まで処女を
だから現在でも、激減したとはいえ、アフリカで、それが結婚の条件とされているところがあるそうです。
特に、ワリスが生まれ育ったソマリアでは、切除後の
ロンドンで病院に行ったワリスが、産婦人科にかかり、男性医師2人に陰部を診察される場面があります。
その際、うち1人の医師が、運の悪いことにアフリカ出身者だった。ソマリアかどうかは描写されませんが、もう1人の医師が分からない言語で、彼はワリスに吐き捨てる。
「男に
性器の縫合が
それが、当然とされているからです。
男子の割礼と違い、女性器切除は体に負担が大きいため、長期に渡って苦しんだり、命を落とすこともあるそうです。
実際に、ワリスの姉は、FGM後に命を落としています。
麻酔や
止血には、泥や灰などが用いられることもあるそうです。
こんな風習が、赤道沿いのアフリカの広い地域で、2000年にも渡って行われてきたそうです。
だから、そう簡単に消えることがない。
映画には出てきませんが、2002年に、ワリスはデザートフラワー基金という、女性器切除廃絶の運動を始めます。
そんなワリスが、1999年に発表したデータによると、1日あたり5500人近く、年間では200万人の少女が、アフリカ各地で性器切除を受けている。
欧米にアフリカからの移民が増える中、各地で
性器切除を、傷害罪として、法律で規定する国が現れたからです。
イギリスでは、全面的に禁止になりました。
それでも、故郷の風習を、捨てられない人たちはいます。
映画「デザートフラワー」では、ワリスの恋や友情も描かれます。
自分にとって当たり前だったことが、ここでは違う。
雑誌のインタビューで、ワリスに質問していた女性編集者は、あまりのことに涙します。
最初は、砂漠越えで既に有名だったワリスに対し、その話をするようせがむのですが。
自分とは違う国、場所、文化、宗教。
そんなあらゆる違いを、主人公の身になって考えさせられ、感じることの出来る映画という
この作品の魅力は、そこにあると思います。
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