「スリーパーズ」 監督:バリー・レヴィンソン

 上映時間147分。


 アメリカで公開されたのは、1996年。


 前年の1995年に出版された、同名の小説をもとに製作されています。

 原作者は、イタリア系アメリカ人のロレンツォ・カルカテラ。

 彼と同じ名前の登場人物が、作品に登場するため、出版時にはノンフィクション本として認知され、大変な話題を集めてベストセラーになりました。

 なぜなら、内容が衝撃的だから。


 しかし映画の本編終了後、ただのフィクションだと主張する側と、原作者の意見が、それぞれテロップで表示されます。


 果たして、真実はどこにあるのか。

 少年院で起きた、看守による児童虐待にまつわる話です。


 バリー・レヴィンソン監督は、本作で、監督と脚本だけでなく、製作にも名があります。

 彼は、ダスティン・ホフマンがサヴァン症候群の兄を演じ、アカデミー賞主演男優賞を授賞した「レインマン」の監督として有名です。

 「レインマン」は、アカデミー賞で8つのカテゴリーにノミネートされて、作品賞と主演男優賞、監督賞、それに脚本賞を授賞しました。

 ベルリン国際映画祭では金熊賞を、ゴールデングローブ賞でも作品賞を授賞しています。


 さて、「スリーパーズ」の舞台ですが、4人の少年たちが事件を起こすのが、1964年の夏。ニューヨークはマンハッタン、ヘルズキッチン地区。

 この時代には、かなり治安が悪かった所です。


 ヘルズキッチンは、ミッドタウン・ウエストとも呼ばれ、タイムズスクエアやエンパイア・ステート・ビルがあり、5番街が南北に走る、文化や商業の中心地ミッドタウンの西に位置します。

 東西には、マンハッタンの西を流れるハドソン川沿いの港湾こうわんから、8番街まで。南北には、34丁目から59丁目までの、25ブロックの地区です。


 マンハッタン周辺の地図を見ると、マンハッタンとうとは、ハドソン川の河口付近にある中洲であることが分かります。

 南はアッパーニューヨーク湾に、北はハーレムリバーに、西はハドソンリバーに、東はイーストリバーに囲まれた、南北に細長い島なんです。


 その島の中心にあるのが、広大なセントラルパーク。

 セントラルパークのすぐ南を、東西に走る通りが59丁目です。ちなみに何丁目というのは、マンハッタンでは、北に行くほど数字が大きくなります。


 ヘルズキッチン出身の有名人は、ロバート・デ・ニーロやシルベスター・スタローン。

 歌手のアリシア・キーズは、ここで幼少期を過ごし、俳優のブルース・ウィルスも大学中退後に移り住みました。


 映画「スリーパーズ」でナレーター役をつとめ、原作者のロレンツォ・カルカテラの成人後を演じるのは、ジェイソン・パトリック。

 彼は、キャメロン・ディアスの夫役を演じた、「私の中のあなた」という作品で知られているでしょうか。

 この作品は、急性骨髄性白血病を患う娘のために、受精卵を遺伝子操作して、輸血や骨髄移植などを行うために産み出された次女が、13歳になり両親を相手取って訴訟を起こす話です。腎臓は、姉にあげたくないと。


 「スリーパーズ」で、ロレンツォ(通称シェイクス)の悪友の1人、マイケル・サリヴァンの成人後の姿を、ブラット・ピットが演じています。

 少年院から出所後、ロレンツォは新聞記者の見習いに、マイケルは地方検事補になりました。2人は子供の頃、4人の中ではリーダー格。

 しかし同じ罪を犯した、あとの2人ジョン・ライリーとトーマス・マルカノ(通称トミー)は、出所後同じギャング団に入ると、酒浸りで薬物依存症の凶悪な犯罪者になっていました。


 4人が犯した罪というのは、路上脇にあるホットドッグのスタンドを、遊び半分で力任せに盗み、地下鉄の駅へ繋がる階段に落としたこと。

 提案したのはマイケルです。

 運悪く、階段の下に人がいて、重傷を負わせてしまいます。


 これは子供とはいえ、決して許されることではありませんが、後に出てくる看守たちの方が、酷い酷い。

 暴力に性的虐待。

 少年たちは、怯えて耐えるしかありません。

 なぜなら、下手をすれば殺されてしまうから。


 年に一度、この少年院では、看守と被収容者が対戦するアメフトの試合があります。

 試合中は、関係者以外の目もあるため、看守は少年たちに手を出せない。

 そこでマイケルは、院内の少年たちのリーダー格、リゾというギャングの息子を説得し、看守に一泡吹ひとあわふかせようとたくらみます。

 要するに、少々ラフプレーしたり、この試合に勝って、少しでも対抗できることを示そうとするのです。


 その結果が、リゾの死。

 それも、全身打撲の暴行死です。


 ロレンツォ、マイケル、ジョン、トーマスも、看守たちに暴行された上、それぞれ独房行きとなります。



 時が経ち、1981年。

 ヘルズキッチンにあるパブに、もはや常習犯となった、チンピラ風情ふぜいのジョンとトーマスが来店します。そこにいた客の中に、かつて自分たちを虐待した看守のリーダー格、ノークスの姿が。

  少年の頃の面影を失った2人に、ノークスは気づきません。しかも、かつて少年院で世話になったと明かした2人に、彼はびるどころか暴言を浴びせる。

 感情的になったジョンとトーマスは、目撃者がいるにも関わらず、その場でノークスを射殺してしまいます。


 当然、2人は捕まり、裁判になる。

 その裁判を担当することになった、検察側の人物が、何とマイケル。

 つまり、被告人であるジョンとトーマスからすると、かつての友人マイケルは、ノークスを擁護ようごする敵側の人間にうつるわけです。


 許さねえ。

 どういうつもりだ。

 覚えとけよ。

 

 実際に、自由に身動き出来る人物を使い、マイケルを襲わせることまで考える2人。

 彼の行動が、仕事とはいえ、理解できないんですね。


 マイケルは、少年時代からリーダー格だった余裕からなのか、そんな2人を軽くいなします。

 心配するロレンツォ。


 果たして、裁判の行方はどうなるのか。



 看守役のノークスは、「フットルース」や「ミスティック・リバー」で主演を務めたケヴィン・ベーコンが演じています。


 4人の少年の行く末を案じ、彼らが大人になっても関係してくる、ヘルズキッチンにある教会の神父ボビー役に、ロバート・デ・ニーロが。


 役者陣が豪華な作品です。



 もしかしたら、東野圭吾さんの「容疑者Xの献身」や殊能将之さんの「ハサミ男」をお好きな方には、気に入って頂けるかもしれません。


 ちなみにタイトルの「スリーパーズ」とは、俗語スラングという意味だそうです。



 


















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