「エリート・スクワッド」 監督:ジョゼ・パジーリャ

 上映時間120分。


 2007年にブラジルで公開された、傑作中の傑作ミリタリーアクションです。

 10月12日に公開されたにも関わらず、わずか1月ひとつきで、その年のブラジル興行収入こうぎょうしゅうにゅう第1位に躍り出ました。


 翌年の2008年には、ベルリン国際映画祭で、最高賞である金熊賞を授賞しています。日本映画だと、2002年に「千と千尋の神隠し」が同賞を授賞しています。


 原作は、2006年に出版された「Elite da Tropa」というセミフィクション、つまり事実をもとに再構成された本です。

 TropaトローパTroopトゥループ、つまり軍隊という意味。

 Eliteは、そのままエリートです。

 英語のスクワッドも、軍の分隊であったり、警察の班や特捜班を意味します。


 原作者は、元BOPEボッピの隊員2名。

 アンドレ・バチスタとロドリゴ・ピメンテル。

 それに、社会学者であり人類学者でもある、ルイス・エドゥアルド・ソアレスも名を連ねています。


 BOPEボッピというのは、リオデジャネイロ州の軍警察に所属している特殊部隊Batalhão de Operações Policiais Especiaisの頭文字。

 彼らの職務は、ファベーラと呼ばれるスラム街で、犯罪を取り締まること。主に、麻薬絡みの犯罪です。


 映画「エリート・スクワッド」は、そんな彼らの活躍。

 というよりも、どんな手段を使ってでも、麻薬の密売人やギャングを追い詰める、非情な姿が描かれています。

 BOPEボッピの真っ黒な制服と帽子、それに使用する黒いバンには、彼らの紋章である笑う髑髏どくろが。赤い円の中にある髑髏の背後には、銃がクロスし、中央には上に刃を向けた剣があります。


 2010年に公開された、続編「エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPEボッピ」は、観客動員数1100万人を超えて、ラテンアメリカ史上最大のヒット作となりました。当時、世界興行収入第1位だった「アバター」も、中南米ではこの作品に抜かれています。


 えがかれる、議員や警察の汚職。

 麻薬売買の拠点となるのは、大学構内やNPO。

 警官がギャングに武器を密売していたり、ギャングのボスが議員と繋がっていたり。

 事実をもとにしているだけに、監督への脅迫は絶えなかったそうです。


 パジーリャ監督は、2015年にネットフリックスで配信が開始された「ナルコス」というドラマの製作総指揮、及び最初の2話では監督もつとめています。

 ちなみに「ナルコス」は、コロンビアの麻薬組織とアメリカから派遣された麻薬取締局(DEA)の捜査官たちの戦いを描いています。

 「ナルコス」で、コロンビアの麻薬王を演じているヴァグネル・モウラは、「エリート・スクワッド」では、泣く子も黙るBOPEボッピの大佐ナシメント役で出演しており、本作品のナレーターでもあります。


 映画の冒頭、ファベーラと呼ばれるスラム街にある広場で、歌に合わせて踊っている多くの若者たちの姿がうつります。

 中には、自動小銃や拳銃を手に、陽気に踊る男たちも。

 辺りは暗く、その広場の周辺だけが、祭りの会場のようにともされている。


 そこへ、1台のパトカーが近づきます。

 バイクに乗りファベーラにやってきた、2人の若い男たち。彼らは銃を手に、バイクを下りると高台へ駆けあがっていく。

 2人とも新人警官で、親友であり、ルームメートでもあった。

 眼鏡をかけているのが、アンドレ・マチアス。彼は冷静沈着で、法学部の学生でもあります。手伝っているNGOの活動で、近視の少年に出会い、その子に眼鏡をプレゼントする優しさも持ち合わせている。

 もう一方が、ネト・ゴベア。感情的ではありますが、根性はある。

 

 舞台となっているのは、1997年のリオデジャネイロ。

 「ナルコス」の主役である、麻薬王パブロ・エスコバルが亡くなったのが、1993年の12月です。


 広場を見下ろせる場所に着いた、マチアスとネト。

 群衆にいる誰かに向けて、ネトはスコープで銃の照準を合わせていますが、銃弾が発射される。

 その一発の銃弾によって、広場だけでなく、路地のあちこちで銃撃戦が始まってしまいます。


 そこへ駆けつけるのが、BOPEボッピの隊員たち。

 ナシメント大佐には、妊娠中の妻ロザンヌがいますが、自身は職務のストレスにより、フラッシュバックに悩まされたり、呼びかけに応じないときも。

 正直なところ、妻の心配もあり、辞められるものなら、すぐにでも今の仕事は辞めたいと思っています。


 だが、辞められない。

 何の気まぐれか、リオを訪れるローマ教皇ヨハネパウロ2世が、よりによってスラム街の近くにある大司教館を訪れたい。しかも、そこで一泊したいと。

 周囲の安全を確保するため、BOPEボッピには、武装した麻薬ディーラー達を根絶やしにせよという命令が下ります。

 もうね、勘弁してくれよと。

 しかも、後継者がいないんですね。


 というのも、一般の警察官からBOPEボッピの隊員になるためには、もちろん試験が必要なわけです。

 これが地獄。

 殴られ、られ、唾を吐きかけられ、銃を持ったまま走らされるのは、まだじょの口。

 講義の間に、手りゅう弾を持たされる志願者も。

 地面にかれた食事を食べさせられるは、太ももまで水につかかった状態で走らされるは。


 脱落者が出るたびに、簡素な墓が建てられるのですが、これがみるみる増えていく。

 だからこそ、BOPEボッピの隊員たちには、自分たちが精鋭である自負があり、過酷を極める職務に従事できるわけです。


 大学に通うマチアスには、友人も彼女も出来ますが、彼らはみんな気軽にドラックに手を出している。

 マチアス自身は、勧められても断りますが、彼らを注意することもない。

 NGOのメンバーである友人たちは、スラム街で孤児を支援していますが、そのNGOには、周囲を取り仕切る麻薬王も関わっている。

 

 一般の警察組織では、、降格されてしまう。


 そこで二人は、ある事件をきっかけに、BOPEボッピの隊員になる決意をします。

 死と隣り合わせの職務。

 子供に対しても、容赦なく拷問する隊員たち。


 果たして、ネトとマチアスはBOPEボッピに入隊できるのか。

 ナシメント大佐は生き残れるのか。



 警察小説や警察もののドラマが好きな方でも、この映画には度肝を抜かれると思います。

 個人的には、続編よりも最初の「エリート・スクワッド」の方が、純度が高くて私は好きです。


 なお続編をご覧になりたい方は、こちらの「エリート・スクワッド」を先に観られて下さい。でないと、分からないところが多々あると思います。









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