「灼熱の魂」 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 上映時間131分。


 2010年に公開された、カナダの作品です。

 レバノン出身で、カナダのケベック州に移住した、ワジディ・ムアウッド原作の戯曲をもとにしています。


 戯曲も映画も、原題は火事を意味する「Incendies」。

 この作品は、ヴェネチア国際映画祭やサンダンス国際映画祭でも公開されて、トロント国際映画祭では最優秀カナダ映画賞を受賞しました。

 アカデミー賞外国語映画賞では、最終候補の五作にまで残っています。


 「灼熱の魂」は、ナワルという1人の女性の人生を追う物語です。

 アラブ系カナダ人のナワル。

 亡くなった彼女には、ケベック州に住む2人の子供がいます。双子の姉であるジャンヌと弟のシモン。双子の年齢は、20代前半でしょうか。


 彼ら姉弟は、公証人から、母ナワルの遺言をたくされます。

 「あなた達の父親と兄を捜しなさい。さもなければ、私はちゃんとした墓石も棺桶もいらない」

 母の生前、2人の姉弟は、父親は亡くなっていると信じていましたし、兄がいるなんて知りませんでした。

 

 それでもジャンヌは父への手紙を、シモンは兄への手紙を託されて、母親の故郷である中東のある国へ向かいます。国名は名指しされていませんが、原作者の故郷レバノンを舞台にしたと思われます。


 キリスト教徒のナワルは、若いころ、ワハブという難民(おそらくパレスチナ難民)と恋に落ちた結果、子供をさずかりました。

 それが、ジャンヌとシモンの兄です。

 ですが、ナワルの家族にとって、そんなことは到底受け入れられません。

 彼らはワハブを殺害し、危うくナワルも射殺されそうになりますが、祖母に助けられます。


 いわゆる、名誉殺人ですね。

 結婚相手は家族が決める、婚前前の自由恋愛なんてもってのほか。さもなければ、顔に酸をかけられたりすることも。中にはレイプされた上、被害者が家族に殺されるという事件まであります。

 「生きながら火に焼かれて」という本を、ご存じでしょうか?

 婚姻前に、交際相手と性交渉をしたため、義理の兄に火あぶりにされた女性のノンフィクション作品です。


 祖母はナワルに、子供を産んだら村を離れて、ダレシュという街で新生活を送るよう約束させます。

 そして産まれた子供のかかとには、祖母の手で入れ墨が彫られて、孤児院へと送られる。です。この入れ墨を、どうか鑑賞中、常に頭に入れておいて下さい。


 ナワルがダレシュで大学に在学中、内戦が勃発します。

(レバノンでは1975年から1990年にかけて、断続的に、大多数のキリスト教徒と少数派のイスラム教徒の間で、内戦が起きています)

 当時、ナワルは人権活動グループに所属していました。

 ナワルの息子がいる孤児院は、ムスリムの戦闘員に破壊されてしまい、ナワルの息子は、ムスリムの少年兵に改宗させられてしまいます。


 果たして、ジャンヌとシモンは兄に会えるのか。

 二人は、彼らの父親を探し出せるのか。


 どんな気持ちで、ナワルは二通の手紙を書いたのか。

 鑑賞後、考えずにはいられません。


 1人の人生を追うという意味では、百田尚樹さんの「永遠の0」を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。どちらの作品も、戦争をテーマにしていますし、「灼熱の魂」にも、凄まじいまでの愛があります。


 



 





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