「鑑定士と顔のない依頼人」 ③他の登場人物

 美術鑑定士のヴァージルと依頼人クレア、加えて別荘の管理人フレッドの他に、重要な人物が3人出てきます。


 1人目は、ヴァージルの友人ビリー。

 彼は競売に参加して、ヴァージルの望む品を競り落とすという役目をにないます。

 またビリーは、ヴァージルが競売で出品する際は、その品の値上げに加担して、働きに応じて、ヴァージルから金をもらっています。つまり、買う気がないのに手を挙げることもあるんですね。

 

 2人は友人ですが、ビリーが唯一、ヴァージルに関して残念に思っていることが、自分の絵の才能を彼が認めてくれないこと。

 ヴァージルは、「君には内なる神秘性が欠けている」とビリーに告げます。


 2人目は、クレアの住む別荘の向かいにある、喫茶店の女性客。

 年齢は、見た感じだと、40~50代かと。

 彼女は小人症こびとしょうという低身長の病を患っていて、車椅子に乗っています。


 ヴァージルが、紅茶を飲まずにカフェから出て行ったとき、彼女は窓際で、向かいのヴィラを眺めていました。数字の羅列を暗唱しながら。

 その数字には、何らかの意味があるのか。

 ヴィラの門の鍵が変わっていた日、その車椅子の女性客が、数字に関して喋り続けることを、熱心に聞きながら、メモを取るスーツ姿の女性の姿が。


 3人目は、ロバートという若者です。

 彼は、ある小さな店で働いていて、つまらない鉄材から、奇妙で素晴らしいものを再現するのが得意。

 そのロバートに、ヴァージルは、ヴィラで見つけた歯車を見せに行きます。

 実はヴァージルは、ヴィラの地下で何度も小さな歯車を見つけていて、初めてそれを見つけたのは、クレアが熱が出たと言った日でした。

 

 最初に見つけた歯車は、湿った床の上に置かれていたのに、さびがあるのは上部だけ。その矛盾に、ヴァージルは興味を惹かれます。

 ロバートが言うには、「どれも同じ素材だし、仕組みも同じ。同じ機械のもの。18世紀のもの」だと。


 その後、見つかった歯車を磨いたところ、ヴォーカーソンの刻印が発見されます。

 ジャック・ヴォーカーソン。

 彼は、18世紀のオートマタ(機械人形)の製作者です。

 ヴァージルは、学生の頃にヴォーカーソンについて卒論を書いています。

 

 「部品が全部あれば、オートマタを完全に再現してみせる」と、ヴァージルに豪語するロバート。

 ロバートは更に、部品は必ず同じ場所にあるはず。

 部品の80%が揃えば、残りは作れるとも言いだします。


 ヴァージルは、歯車の組み合わせを渡すだけでなく、ロバートに、友人の話だと断りを入れた上で、クレアに関する相談をするように。

 ロバートはクレアのことを、インターネットの出会いと同じだと、ヴァージルに告げます。

 顔を見ていない。

 彼女は姿を現さない。

 だとすると、ヴァージルの作戦が下手だと。


 実は、携帯電話を買った際には、ヴァージルはロバートに使い方を教えて欲しいと頼んでいます。


 どうして次々に、ヴィラで歯車が見つかるのか。

 本当に、ヴォーカーソンのオートマタのものなのか。

 そうだとしたら、組み合わせると、ヴォーカーソンの代表作のように、口をきいたり、頭を動かしたり、お辞儀をしたりするのだろうか。





 「鑑定士と顔のない依頼人」というタイトルですが、私が最も注目して頂きたい登場人物は、カフェにいる車椅子の女性客です。


 鑑賞後には、この意味が分かると思います。


















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