第十四話 それから
ガウェインと良い雰囲気になっていてすっかり忘れていたが、ジェシカの状態を思い出したアンリエットは、急にオロオロしだした。
「どうしましょう……。姉様が大変なことに……」
そう言うアンリエットにガウェインは、繕うことも忘れて、デレデレとした蕩けた表情で言った。
「アンリエットは、本当に優しいな」
ガウェインにそう言われたアンリエットは、照れながらも幼い頃のジェシカのことを語った。
「姉様はとても太りやすい体質だったんです。少し食べても直ぐに太ってしまい……。だからといって、食事を抜くと、次に何かを食べた時、食べた以上に太ってしまったんです。姉様は、色々努力をして痩せたと思っていたのですが……。でも、このままでは、姉様がお肉に潰されて死んでしまいますわ!!」
悲しそうにそう言う、アンリエットを安心させるために、ガウェインはある提案をした。
「そうだな、肉に潰されて死んでしまっては、アンリエットが悲しむな……。よし、彼女のダイエットに協力しよう。王国軍に一時的に身を置いてもらうことになるが、人並みの体型に戻せるように全軍で彼女を鍛え上げよう!」
そう言ったガウェインは、部下に目配せをした。
目配せされた部下は、引きつったようななんとも言えない表情をしていたが、何も言わずに、肉の塊となったジェシカを三人がかりで連れて行った。
その後、ガウェインは国王に婚約式は後日とだけ言ってその場を後にしていた。
もちろん、大切なアンリエットをその腕に抱いてだ。
それから、ガウェインに頼まれたエゼクは、ジェシカのダイエット監視官になっていた。
精鋭に囲まれ、日々トレーニングに明け暮れるジェシカは、気がつけば……。
そう、気がつけば筋肉令嬢として名を馳せることになるがこれはまた別の話だったりするようなしないような?
アンリエットは、筋肉盛り盛りで元気になった姉を見て複雑な思いをしていた。
なにせ、昔はナイフとフォークよりも重いものは持てないと言っていたジェシカが、今では素手でクマを倒せるほどの猛者に成長してしまったのだから。
姉が、嬉々として素手で仕留めた獲物をお裾分けに来るたびに、アンリエットはガウェインに言ったのだった。
「姉様のダイエットには感謝しております。ですが……。ですが、社交界の白百合と言われていた姉様……。あんまりです……」
涙目で下から見上げてくる視線に、ドキドキしながらガウェインは、素っ頓狂なことを言った。
「俺も最初は、ジェシカ嬢の根性を入れ直すように訓練を組んだが、いつの間にかジェシカ嬢自ら、筋肉増強トレーニングを望むなど想定外だったんだ。だが、ジェシカ嬢と彼女の筋肉はとても悦んでいるみたいだぞ?」
「もう!!」
そう言って、頬をぷくっと膨らませるアンリエットだったが、確かに、今の姉は前に比べて生き生きとしていると思う節もあった。
生き生きと言うか、野性味が増したと言うか……。
そこまで考えて、これ以上は考えてはいけないような気がしたアンリエットは、自分で振った話題だったが、話を逸らすように別の話題を振った。
「ガウェイン様……。わたし、以前ガウェイン様がお手紙に書いてくださった、温泉に行ってみたいですわ」
アンリエットがそう言うと、ガウェインは何かを考えるように言った。
「ふむ。それなら、手紙に書いた鳥の丸焼きの食べられる地方も近いからそこにも行ってみようか?」
「まぁ!嬉しいです。早く、新婚旅行に行きたいですわね」
「ああ。悪いな、後もう少しで仕事が片付くから。そうしたら、ゆっくり国を周ろう」
あの惨劇の婚約式の日の後、ガウェインは、婚約をすっ飛ばして結婚式を行うことを決めたのだ。
国王も伯爵夫妻にも文句を言わせないように、ガウェインは一人で式の手配をしていたのだ。
ガウェインは、少しでも離れていたくないと、アンリエットを自身の屋敷に呼び、甘々な日々を過ごしていた。
アンリエットも、ガウェインの妻に早くなりたいと式の準備に協力していた。
その甲斐あって、式の準備はあっという間に終わっていた。
身内だけの小規模な式だったため、アンリエットの家族と、エゼクだけが参加するだけだったが、式のことを知った、ガウェインの部下や民衆が、教会に押しかけてそれを祝ったのだった。
結婚後、以前は冷酷と言われた将軍の姿は鳴りを潜め、民衆からは妻を愛する愛妻家の将軍として親しまれるようになったのだった。
『デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~』 おわり
デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~ バナナマヨネーズ @BananaMayonezu
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