第七話 褒美
ある日、ガウェインは国王に王宮に召喚されていた。
面倒だと内心思いつつも、行かない訳にはいかないと、仏頂面を隠そうともせずに王宮に向かった。
その日は、アンリエットからの返事が来ていなかったことで、ガウェインのテンションはダダ下がりだった。
そんな自身のダダ下がりのテンションを隠そうともせずに、王宮に現れたガウェインに国王は言ったのだ。
「お前に褒美をやろうと思ってな。ちなみに、俺の娘を嫁に欲しいって言ったら考えなくもないぞ?」
国王はフザケたようにそう言ったのだ。
しかし、その言葉はガウェインにとって天啓にさえ思えた。
ガウェインは、反射的に口に出していた。
「ロンドブル伯爵家のアンリエット嬢を妻にしたい」
「は?」
「ロンドブル伯爵家のアンリエット嬢を妻にしたい」
国王は、ガウェインの言葉が聞こえていなかったのか、素っ頓狂な声を出したので、もう一度、先程よりも語気を強めて同じことを言った。
国王は、頭の中で何かを考える素振りを見せた後に、大量の冷や汗を流しなから言った。
「は?待て!!ロンドブル伯爵家だと?!いや、お前にはもっといいところの令嬢が……」
「俺は彼女が良い。彼女以外の嫁などありえない。彼女以上の褒美など、この世のどこにも存在しない」
ガウェインは、そう言い切った。
国王は、記憶の中にある丸々と太ったアンリエットを思い浮かべて表情を引きつらせていたが、ガウェインの尖すぎる眼光に耐えられずに、力なく頷いていた。
「分かった。伯爵家に話は通しておく」
「分かりました。ですが、無理強いはしなくて結構です。彼女が、俺の妻になるのを嫌がった時は、身を引きます。くれぐれも彼女に無理強いはしないようにだけお願いします」
そう言って、謁見の間を後にしたガウェインだったが、内心は踊り出したいほど浮かれていた。
アンリエットと夫婦になれる可能性に舞い上がっていたのだ。
アンリエットが手紙の相手をエゼクだと思いこんでいることを一瞬忘れて、最近の手紙の内容から、「もしかして、アンリエット嬢は俺のこと……。うん。可能性大だな!!」なんて、ハッピーなことを考えていたのだ。
国王は、早速伯爵を王宮に呼び出した。
そして、アンリエットの父に気まずそうに言ったのだ。
「ガウェインが、そなたの娘を妻にしたいと……」
「それは本当ですか陛下!!なんてことだ!!ジェシカは、我が娘ながらとても美しく成長しました!!将軍閣下の妻にだなんて!!ジェシカも喜んでお受けするでしょう!!」
伯爵が喜色満面にそう言うと、国王は言いにくそうに言った。
「ああ……。その……、ガウェインは何故か、アンリエットの方を指名したんだ……」
「は?」
「だよなぁ……。ガウェインの勘違いだとそなたも思うよな?」
「ええ……。アンリエットは、アレですから……。ジェシカと勘違いしておられるのかと……」
「だよなぁ……。ガウェインは、無理強いはしないようにと言っていたが、ジェシカはこの婚約に頷くか?」
「はい。きっと喜びます」
こうして、ガウェインの思いとは別に、国王の変な気遣いのせいで、婚約者がジェシカになってしまったことをガウェインはまだ知らなかった。
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