第4話 『雪の聖女』を……。

 夕方、俺は課題を終えてキッチンでまったりとソシャゲーをしてると。シャワー上がりのリアが近くを通る。


 いい香りだな……。


 親父と二人で暮らしていた時には考えられない気持ちである。


「黒タイツをはいてくれないか?」


 リアの反応を見ると、俺は何かを間違えているらしい。ナース服の間違いなのか……?違う!清楚な『雪の聖女』にコスプレ衣装を求めるのは間違いだ。シンプルなワンピースのリアはこのままでいいのだ。しかし、かおる匂いにチアガールなどもいいなと妄想するのである。


「ドッカ!」


 ホント足癖の悪い『雪の聖女』だ。リアは冷蔵庫を蹴ったのである。健康な高校生に性的な妄想を取り上げたら何も残らないのに……。渋々、シャワーでも浴びる事にした。


 シャワーを浴び始めると、リアの入った後だと認識して妄想が加速する。イヤ、ここは冷静になるのが正しい。適当に体を洗いシャワーから出ると。


 大切な事を思い出す。今日の夕食当番は俺である。ハンバーグでも作るか……。キッチンで作業を始めるとマヤがニタニタしている。


「我の為にハンバーグはありがたいですね」


 この猫はホントに料理してやろうかと思うのである。夕日が斜めに部屋に入り暑さが増す。仕方ない、扇風機をつけよう。ついでに目障りなマヤに煮干しを与えて追い払う。


 うん?ひき肉の鮮度が悪い……。今日中に食べてしまって正解だった。野菜はキャベツの千切りでいいか。いつの間にか、リアがご飯をよそって座って待っている。食欲は人並み以上だなと思うのであった。


 リアが授業中なのにいないのである。俺は心配になり、探す事にした。自販機の前、裏の木陰、一階の空き教室……。最後にたどり着いたのは立入禁止の屋上であった。


「リア、こんな場所で何をしているのだ?」

「わたしの使命は姫様を探す事です。ありきたりな日常を過ごすのではありません」


 確かに平凡な日常は必要ないもかもしれない。俺は何を言えば良いか迷った。『雪の聖女』と言っても俺には普通の女子である。正確には気になる女子であった。


「手伝うよ、そのうちに空から降ってきたりして」


 そう、言えなかった『姫様なんて関係ない、俺の彼女になってくれ』とだ。


 俺は好きになる人を間違えたのかとふさぎ込む。リアはそんな俺を見て何かを語りかけてきた。しかし、屋上の風が邪魔をして聞こえなかった。もう一度、聞こうしたら、リアは屋上の階段に向かい降りて行く。何故、この距離で聞こえなかったのか不思議になりながら、俺も屋上を後にする。


 それは手品に使うマジックボックスを見ていた気分だ。頭をかきながら階段を下りると次の数学の授業に遅れそうな事に気付く。


 急いで教室に戻るとリアは椅子に座っていた。黒板には数学の問題が書かれていて。俺はバツとしていきなり黒板の問題を解く事になった。公式を暗記していれば簡単な問題だが、俺にとっては難題であった。


 先生は渋々解き始める。


 黒板から自分の席に戻る時の気まずさは辛いものがあった。


 うん?リアのスカートがめくれていて、もう少しで見えそうな事に気づく。俺は窓の空いた教室でまた風が吹かないかと思いながら席に着くと……。リアがめくれたスカートに気がつき、恥ずかしそうに直すのであった。


 風は吹かずか……。


 俺の日常にリアはもう欠かせない人になっていた。

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