第3話 黒猫の居候

 朝、起きるとリアが庭で竹刀を振っていた。


「こんな、朝早くから稽古か?」

「義元、わたしは不甲斐ない、姫の手がかりすら見つけられない」


 リアは『雪の聖女』で氷の天界の姫を探しに地上に降りたのだった。


 うん?


 一瞬の曇り空に社の裏にある御神木に雷が落ちる。


「きっと、姉のマヤです」


 俺達二人は御神木の前に行くと。黒猫が倒れている。そっと、近づくと……。


「何ですか!この姿は!」


 猫が喋った。


「ひょっとして、マヤ姉さん?」

「そうよ、マヤです」


 喋る猫はマヤと名乗り『雪の聖女』の一人だと言います。どうやら、下界に降りる途中で不具合が発生したらしい。


「わたしのセクシーダイナマイトボディが……」


 黒猫が言っても説得力がないがリアが否定しないので本当の事らしい。そして、何故かリアは猫じゃらしを持っていいた。猫じゃらしをフリフリすると……。


「あ~体が勝手に反応する」


 喋りながら猫じゃらしを追っかける姿は微妙であった。


「リア、遊んでいないで姫は見つかったの?」

「いえ、まだです」


 更に猫じゃらしをフリフリすると。黒猫のマヤは追っかけるのであった。こうして、猫の姿のリアの姉が氷の天界から降りてきたのであった。


 それから。


 俺は黒猫のマヤを抱き上げて、親父の元へと連れていく。親父はキッチンで朝食を作っていた。


「新しい居候のマヤだ」

「こんちわ、リアの姉のマヤです」


 親父に紹介すると興味が無さそうにしている。


「親父、喋る猫だよ」

「生憎、キャットフードは無いぞ」


 そう言う問題ではなかろうと思うが、親父の言う事だ、気にするのは止そう。


「アジの塩焼きで十分です」


 しかし、贅沢な猫だなと思っていると。


「サンマの干物で我慢しろ」


 親父は冷蔵庫からサンマの干物を取り出して焼き始める。しばらくして、サンマの干物が焼きあがると四人分を皿に乗せる。床に置かれたマヤの分のサンマの干物は熱々である。猫舌かと思えばそうではなくガツガツと食べるのであった。


「で、この猫は何か芸は出来るのか?」

「『雪の聖女』なので多分……」

「その目線は止せ、この姿では何も出来ないぞ」


 ほう……。


「猫はさばいた事がないから……ペットで良いな」

「おのれ……この姿が元のままなら、氷漬けにしてやるところだ」


 悔しそうなマヤを見て、リアに氷漬けが出来るか聞いてみた。


「一通りの氷術は使えますが、人間で試した事がありません」


 リアの話だと長女だからと言って特別に強いのではないようです。


「セクシーなところは負けますが……」


 やはり、マヤはセクシーダイナマイトボディらしいです。

 

 ま、今の姿は猫だし……。


 俺はサンマの干物を食べ終わると、残りの骨をマヤに与える。


「我は『雪の聖女』なるぞ」


 猫のくせに生意気だと思うが、そこは妥協して代わりにかつお節ご飯を与える。ガツガツ食べ始めるマヤの姿は飼猫である。


「お腹いっぱいだ……」


 そう言うと、マヤは玄関の前で寝始める。


 猫と『雪の聖女』どっちかにしろよと思うが口には出さずに朝の支度を始めるのであった。

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