OL、退屈する

「どういうことだ? なんでいまさらプリシラ様が使者をよこす?」

 スペンサーは公爵領へ進軍中、士気は低くのろのろとした足取りでしかなかったが、に突然現れた皇帝からの使者に驚いた。だが帝国貴族と名乗っている以上は皇帝の命は絶対、その意に反する選択など取れるはずもない。だが内心を隠したまま出迎えた使者が告げたのは、公爵家への援軍の命令だった。


 スペンサーがステファンに対して軍を進めているのは隠すつもりもない事実である。スペンサーにすれば自分を切り捨てたプリシラを再び傀儡にして、今度こそは帝国での地位を盤石にするつもりなのだ。そのために邪魔なステファンを討ち倒そうと軍を動かしたにもかかわらず、その敵ともいえるステファンへの援軍を依頼されたのだから、スペンサーが混乱したのも仕方がないと言える。



 しかし、皇帝の名で届いた命令を無視するということは皇帝の意に逆らう事、つまり反逆と見なされても仕方がないという事である。つまりスペンサーには命令を受けるという選択しかないという事なのだ。


 それでも少し落ち着いて考えれば使者の告げた内容は悪いものでは無いことに気付く。プリシラからの直接の指示であるということは、それなりの待遇は約束されたようなもの。再び権力に近づくことが出来るという事なのだ。

 そしてプリシラ自らこちらに出向くというのは以前の謝罪の意味が含まれているとも考えられる。つまりプリシラにとってやはりスペンサーは必要な人材と考え直してのかもしれない。


 余りにも都合の良すぎる展開と思えなくもないが、あくまでもスペンサーの想像でしかないことも事実である。




「何かの罠なのか? しかし、皇帝自ら足を運ぶと言っている以上こちらに手出しは出来まい。ステファンめ、連合軍によほど手を焼いているのかもしれんな」


 使者が帰った後で、スペンサーはひとりほくそ笑むのだった。




~~~~~~





「ねえセルジオさん、なんか面白いことない?」


 暇つぶしに出歩いていたミヤビはセルジオを見つけると声をかける。相変わらずのミヤビの突然のフリに、セルジオは焦ることもなく答える。


「ミヤビ様はどういったことをお望みですか?」



「それなのよね。美味しいものもいいんだけどそれだけだとつまんないし。かといって他に何をするっていうのがないのよね」

「つまり、退屈な時間を有効に使いたいという事でしょうか」


「まあそういうことなのかな? ダンジョンも簡単すぎてつまんないし、戦争とか厄介なだけでしょ。ステファンを揶揄うのもそんなにネタがあるわけじゃないし」

「戦争とお坊ちゃまを揶揄うのを同列に扱うとは、さすがミヤビ様ですな。しかしそうなると困りましたな、すぐに思いつく娯楽といえば社交か趣味ぐらいですからね」


「社交って貴族が飲んだり踊ったりしながら、腹の探り合いみたいなやつでしょ。そんなの嫌よ」

「となると、趣味ですか。ミヤビ様は料理以外に何か興味のあるものはございませんか?」


「前は何してたかな? 基本仕事ばっかりだった気がするけど、たまの休みは食べ歩きか映画か読書ってとこかな」

「エイガ? とは存じ上げませんが、本であれば屋敷の書庫にそれなりの数は揃っておりますよ」


「それって実用書ばっかりじゃないの? 物語みたいなのもある?」

「それは無さそうですね、仕事に関連するものばかりだったはずですな」


「じゃあいいや、今更仕事するのもやだし。それにしても仕事をしないでいい生活に憧れてたけど、いざそうなると退屈よね」

「ぜいたくな悩みですな。私のような者には想像もつきませんよ」


「はあ、結構強くなったと思うけど退屈に殺されそうだわ」

「なるほど、無敵のミヤビ様も退屈には勝てないという事ですな。なにか気が付くことがあればお伝えします、私も何か考えてみますよ」


「うん、ありがとね。とりあえずステファンでもからかってくるわ」


 そう言ってミヤビはステファンが働く屋敷に向けて歩いて行った。その後ろ姿を見るセルジオの表情はひどく難しいものに見えたが、ミヤビが気付くことは無かった。




(ミヤビ様の退屈を紛らわすことが出来なければ、この国、いやこの世界はどうなってしまうのだろう。暇つぶしに魔法を使われただけでも、考えたくないほどの被害が出る。その上あのようなドラゴンまで従魔にしているのだから…)


 セルジオの不安は、とてつもなく深いものであった。





~~~~~




 真っ白な空間…。


「現状を報告します。神の器の復旧はいったん完了しました、現状は最大値のの31%で安定しています」


「ずいぶん減っちゃたわね。まあ元の容量がとんでもないから、すぐには問題は無いでしょうけどばれたら厄介なことになりそうよね。もうちょっとなんとかできない?」



「応募者に配分されたエネルギーを回収するしかありません。そもそも不足分は全て応募者に注がれたものですから」


「えっ? それって7割も応募者ひとりに注がれてるって事? 失われたんじゃなかったの?」



「いえ、神の器の性質上エネルギーがロストすることはあり得ません。先日のトラブルも調整器の故障が原因でしたし。ただ応募者の保有するエネルギー量は、初期設定の配分量や対となる者の適性不足が影響したものと想定されます」


「ああ、全振りしちゃったっけ確か。結局あのが最後まで足をひっぱってくれたってことかぁ」



「はい。こちらの推奨した者を対に選択していれば、このような事態は発生しなかったと予想されます」


「それって、私のせいって言いたいの?」



「今回の事態の原因を調査すると、最初の選択誤りが根本原因と結果が出ております」


「つまり私が悪いってことなのね」



「はい。結果からの推論では最も高い値を示していますので」


「はあ、まあばれたらどうせ怒られるしまあいいわ。その時は一緒に怒られるのよ」



「こちらは指示通りに行動しただけですが、その指示も了解しました」


「暗い話はこれぐらいにして。今後はどうなるの?」



「現状維持となります。応募者がいずれ死亡した際には応募者の肉体の変質に利用された分を除くエネルギーの回収が可能です」


「それってどれぐらいなの?」



「詳細な数値は予測となりますが、およそ40%が失われることとなる見込みです」


「そんなにっ!」



「今回の応募者の変質は神に至るためのものです。既に応募者の肉体は人のものよりも神に近いものに変質済みです」


「なら仕方ないの? まさか実際に神に至るものが現れるなんて想定してなかったし、その上に今回のトラブルが重なった結果だもんね。じゃあもうこれ以上はどうしようもないって事?」



「応募者が元の世界への帰還を希望する場合、肉体の変換がこちらで全て制御可能となりますからその際にすべてのエネルギーを回収することも可能です」


「つまり応募者が元の世界に戻るって希望しないと40%は消えちゃうって事ね」



「その理解であっています」


「結局、私たちにできるのは神頼みしかないって事ね…」


 何とも言えない空気がこの空間を満たすが、その空気を無視して話は続く。




「私たちの仕事は神の器の運用と、応募者達の観察。つまりはこの世界の可能性の調査なのよね?」


「はい、その内容で指示を受けています」



「つまり、応募者が神に至る可能性を示したってことは、いい結果じゃない?」


「これまでの応募者とは明らかに異なった状況であることは否定できません。これまでは神の器の力を私利私欲のために使っていただけですから」



「そうよね。この結果を報告すれば褒められるんじゃない!?」


「このまま隠蔽し、神の器の出力が低下したことがいずれ判明することと比較すれば、よい評価は得られるかと思います」



「だよね! つまり、今回の件はお咎めなし! 応募者が元の世界に戻ればさらに神の器も完全復旧するし問題無しって事ね!」


「問題ないというのはかなり無理がありますが、報告を上げるという点には賛成します」



「じゃあ、それでよろしく! いやぁー、これで怒られないとなると安心よね」


「その点は保証しかねますが、了解しました」






~~~~~




「はあ、やっぱり退屈だわ…」


 ステファンを揶揄いに戻ってはみたが、しょせんその場限りの楽しみでしかない。ステファンに用意してもらった部屋に落ち着くと、ミヤビはため息交じりに横になる。


(自由にしていいって言われても、何にもする事が無いのよね。美味しいものもいいけど毎日じゃ飽きるし…、ほんと娯楽が少ないのよね。街に出たら馬鹿ばっかりだし、やっつけるっていっても瞬殺だもんね)



 正直なところミヤビはこの世界に飽きていた。初めのうちは魔法も楽しかったし、見知らぬ世界に興奮することもあった。だが、それも初めのうちだけ。戦闘となればミヤビの相手になる者もおらず、一方的な虐殺といわれても仕方のない結果。ダンジョンも散歩の延長程度でしかない。


 いい男でも探せればとも思ったが、力の差が大きすぎてやる気にならない。もはや何を楽しみに生きていけばいいのかすら想像できないのだ。金も死ぬまで豪遊しても使いきれないほど持っているため、仕事に生きるという選択肢もあり得ない。



「あぁっ! もうっ、つまんないよ!」


 聖女などという望まぬものに祭り上げられ、教会のためにと頑張ろうかとも思ったが、そもそも宗教などミヤビの趣味に合わない。魔物も大量に従魔にしたが、過剰戦力なのは疑いようもなく使い道にも困るのだ。


 戦争の抑止力としての役割も、楽しいかといわれれば答えはNoである。平和であればいいとは思うが、そのために犠牲になって働くつもりもない。つまりは教会のための動きも楽しくは無いのだ。



「本当どうしよう? いくら力があっても楽しくなければ意味ないよね」


 力に任せて世界征服など面倒以外の何物でもない。そもそもミヤビは権力に執着など無いのだから。やりたいことは自分でやってこそ、人を使ってやらせたところで楽しいとは思えない。もはや八方ふさがりといっていい状況である。



 そんなミヤビが退屈に塗れていた時だった。姿もなく、ミヤビに直接伝わる声が聞こえたのは。




『そんなに退屈ならば、全て無かったことにして元の世界に戻らぬか?』

 








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 次回最終回! 


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