OL、クズに出会う

「お前ら次はどこが近い?」

 この世界に勇者として召喚されたけど、悪意しかない奴らに召喚されてしまったため呪いに犯されつつも自由に生きて行こうと頑張るのが、僕こと、古家 剛志ふるや つよしだ。今日も僕を慕う仲間を引き連れて、愚かにも僕に歯向かう奴らに正義の鉄槌を落とすために帝国内を進んでいる。悪意ある呪いで醜く姿を変えられたこんな僕を慕ってくれる奴らには、いい思いをさせてやりたい。それに帝国というのは、あちこちに戦争を仕掛ける碌でもない国らしいから僕が懲らしめてやるのだ。


 この間も小さな村に制裁を加えたけど、食料だけは大量にあったがそれも麦ばかりだったので、頭にきて火をかけてやったんだ。その後雨が降ってきたけどあの麦はもう使い物にならないだろう。愚かな帝国の食糧などは処分してやる方がいい。

 それに大した女もいなかった、ただ泣くだけで抵抗もせず悲鳴も上げず、人形を相手にしているようで全く興奮しなかったんだ。ほんとにつまらない。


 なのでもっと大きな街を目標にしたいと、僕の部下になった奴らに良い場所を確認する。僕は召喚された勇者だから、当然帝国の地理なんか知らないからね。部下たちが言うにはこんな旅もいいがどこか根城を作りたいと言い出したから、僕ももっときれいな場所を住処にしたいと思いその話にのることにしたんだ。


 最終的に東部にある大きな街を落として僕の根拠地にしようと話が決まった。ただ、かなり先にあるらしいのでそれまでは今まで通り、食料の補給がてら町や村で休憩しながら進むことにしたんだ。



~~~~~~~~~~



「団長! 盗賊団を発見したとの報告がありました! 合わせて増援を願うとあります」

 ミヤビが街を出て二日後、ノイルガウの騎士団の詰め所で帝国東部に警戒網を展開するために配置を検討していたアルベルトのもとに、盗賊団発見の報告が上がってきた。帝国南部の警戒に当たっていた部隊や、東部でも南方寄りの部隊が盗賊の追跡と討伐を目的にすでに動いており、ついに南部から侵入したと思われる盗賊たちの足取りを掴むことに成功したようだ。

 だが、先の緊急の伝令は南部で盗賊の討伐に動いている者については触れられていなかった。どうも帝国内の情報伝達の仕組みがまともに機能していない様子にアルベルトは眉を顰める。


「すぐに騎士団を集めろ! これ以上の蹂躙を盗賊どもに許すな!」

 それでもアルベルトは報告を受けるとすぐに招集を掛ける。盗賊を発見できた以上、警戒網の検討などもはや不要。早急に盗賊どもの討伐を行う事を優先するのは当然のことだった。


 すでに盗賊たちは南部を抜け東部地域に侵入しているらしい。これまでの報告からこの盗賊のボスとされるものが非常に強力で、過去に討伐に向かった部隊を悉く返り討ちにしたと聞いているため、今回は戦力を集中して一気に押し囲む作戦を立てている様だ。そのためノイルガウの騎士団にも包囲殲滅の一角に加わって欲しいとの増援依頼である。領主とも話を終え盗賊討伐に否やはないため、最低限のノイルガウの守備を残した後は、アルベルトは騎士団を連れて動き出すのだった。




 

 その少し前、ノイルガウへ伝令が届く数日前のこと。

 南部から盗賊たちの足取りを密かに追いつつ包囲を行っていく南部の討伐隊。そこに東部の討伐隊も加わり総数は500名を越えようとしている。無線や携帯電話などないこの世界では、リアルタイムの状況を確認する術は無い。そのため連携はあくまでも伝令といった騎馬によるもので、どうしても時間差が生まれてしまうのは仕方のないことである。ただ本来であれば各地には伝令用の施設が常時設置され、速やかな情報伝達が行えるはずなのだが、予算が年々削られて今では形ばかりの仕組みが残るばかり。替え馬も無い伝令では本来の倍以上の日数がかかるため、ノイルガウに連絡が届き、さらにそこから増援が訪れるのがどれほど先になるのか予測が付きづらい状況である。


 そんな中、討伐隊を現在率いている南部の衛兵隊長であるジャービスは攻撃地点の選抜に頭を抱えていた。ノイルガウへ依頼した援軍を待つのが得策であることは理解しているが、いつ訪れるかわからない援軍の到着までに少なくともひとつ以上の村が襲われるのは間違いない。しかし盗賊のボスによりこれまで返り討ちにあったことから、数が揃うまでは攻撃を控えなければ各個撃破されるだけなのは目に見えている。


 確実に討伐を行う事を目的とすれば、いくつかの村を見捨てざるを得ないが、ジャービスにはその選択肢を選ぶことはできなかった。救えたかもしれない人々を見捨てるぐらいなら、そもそも衛兵になどならなかった。とはいえ人々を救うために討伐隊の面々に対して勝ち目のない戦いを強いることも出来ない。


 頭を抱えるジャービスだったが、部下たちの人々を救うためにこの仕事についたという言葉によって、ついに作成を確定させるのだった。




「おそらく奴らの次の目標はこのホルツハイム村で間違いないだろう。現在の敵の位置はここ、奴らが迂回する理由も無いだろうからこの道沿いに進行すると考えられる」

 ジャービスは各隊の長を集めて作戦を説明する。指揮官用に用意された広い天幕の中央のテーブルには近辺の地図が広げられ、そこを指差しながらジャービスは作戦を説明していく。


「攻撃地点はここだ。森の中を通過する街道の両側に弓兵を伏せたうえで、騎兵を先回りさせて奇襲する。ボス以外はただのゴロツキと変わらんから前方からの奇襲により後ろに下がるだろう。そのタイミングで弓兵による攻撃を開始、まずはボス以外を殲滅するのを優先する。生け捕りにする必要はない、捕まえたところで死罪以外ありえない奴らだからな」

 ジャービスは集まった各隊の長の顔を見つめつつ、作戦を説明する。


「ボス以外の殲滅が完了次第、一旦撤収する。ボスによる被害を最小限にするためだ。その後ボスの動きを監視し、改めて討伐を行う」

 結局ジャービスの考えた作戦は、村を救いつつこちらの被害も抑えるというものだった。消極的な作戦だったが、集まった面々は盗賊のボスの力を理解していたため反論はなかった。それどころか部下の命を無駄に消費することの無い作戦に安堵する者さえいた。



 グリフィスが悪しき気配に気が付いた日、それが作戦の決行日となる。





~~~~~~~~~~




「ねえ? まだその気配みたいなとこにつかないの?」

 グリフィスに跨ったまま問いかけるミヤビ。既にノイルガウを出て数時間が経過していたが、いまだに目的の気配の発生源につかないため、大分飽きてきたのだ。


『主よ、もう間もなくだ』

「さっきからずっと同じこと言ってない? 空を飛ぶのは楽しいけど、これだけ長いと飽きちゃうのよねぇ」


『すまない主。ただ気配が小さいので距離がつかみづらいのだ』

「はいはい、わかったからちゃっちゃと行きましょ」

 グリフィスは飽き始めたミヤビに対して申し訳なく思いつつ、目標に向かって急ぐのだった。







 クズ勇者ツヨシ率いる盗賊たちへの攻撃の配置は完了している。ダラダラと統制も無く歩く盗賊などよりも、討伐隊の動きが俊敏なのは当然の事であり先回りして部隊を伏せることなど造作もないことであった。そしてクズ勇者ツヨシ達が訪れるのを息をひそめて待ち構える兵たち。


 参加した兵たち、とくに南部から来たものの多くはその身内である家族や婚約者を盗賊たちに殺されたものが多く参加していた。友人まで範囲を広げれば兵の半数以上が盗賊をその仇として恨んでいるのだ。ようやくやって来た復讐の機会、その戦いは民を救うものでもあり士気は非常に高い。罠に誘い込まれに盗賊たちが来るのを今か今かと待っている。


 森に潜んだ弓兵たちは装備の手入れに余念がなく、射線を確保しつつも見つかりにくい場所を探し気配を殺して待機する。先に回った騎兵たちも森の陰に潜みつつ陣形を確保する。馬には銜を噛ませ静かに攻撃のタイミングに備えている。



 そしてついにクズ勇者ツヨシの率いる盗賊たちを視界に納める。大声でわめきつつダラダラと隊列も組まずにやってくる盗賊たち。斥候すら放たずに進むその様子は、完全に討伐隊をなめているとしか思えない。これまでも何度か討伐隊が差し向けられたが、その悉くを返り討ちにした実績からの自信なのだろうか。中には片手に酒瓶をぶら下げて、飲みながら歩いている者さえいるのだ。

 その姿を見た討伐部隊の思いはいかばかりのものだったのだろうか。復讐心に燃えて参加した兵たち、実際にその敵の姿を見れば完全に嘗め切った態度で警戒すらせずに歩みを進めているのだ。既に高まっている士気がさらに高まっていく。もはや戦闘では無く蹂躙するつもりで高ぶる気持ちを抑え込んで待機する兵たち。



 待ち構える討伐軍にとってとてつもなく長く感じる時間が過ぎ、ついに盗賊たちが森に挟まれた街道を進みだし、やがて伏せられた弓兵の前を通り過ぎる。後は合図とともに騎兵が襲い掛かるのを待つだけとなった時だった。




 それは突然現れたように見えた。黄金の羽に覆われた巨体と漆黒の四肢を持つ魔物、グリフォンの上位種と思われるその姿が、盗賊たちの目の前に突然出現したように見えたのだ。実際には高高度からの急降下、にもかかわらず静かに降り立つ巨体。それだけでこのグリフォンがただの魔物でないことが伺える。盗賊だけでなくクズ勇者ツヨシでさえも、突然のことに腰を抜かさんばかりに驚いている。


『主よ、あのトカゲのような姿をしたものがそうだ』

 グリフォンは目の前の盗賊たちなどまるで存在しないかのように、己の主に伝える。


 ようやくグリフォンの出現から立ち直りつつあった盗賊たちは、グリフォンが人語を話したことでさらに驚くことになる。そもそもただの魔物が人語を話すなどあり得ない、ごくごく一部の高位の魔物のみが人語を話すと言われているのだ。


 そしてようやくグリフォンの会話の相手の存在に盗賊たちは気が付く。黄金の巨体に跨るその姿は、一言でいえば女神。まるで本物のドレスのように輝くドレスアーマーを身にまとい、美しい黒髪をなびかせた美女。神々しいまでのその姿を見た盗賊たちは顎が外れたかのように口を開け、呆けたようにその姿にくぎ付けになるのだった。


「えー、あれがそうなの? キモイんだけど」

 しかしその美女から発せられた言葉は、その外見からは想像できないほど軽く辛辣なものだった。美しい眉を顰めてクズ勇者を眺める美女は、全身で拒否するかのようなそぶりで否定の言葉を口にする。


 その辛らつな言葉を聞いてようやく我に返ったクズ勇者ツヨシは、ただ目の前の美女を舐めるように頭の先から足先まで見まわし、舌なめずりをするのだった。

「きゃはは! いいぞやっと僕に見合うだけの女を見つけた! こいつは僕のモノだからな!」

 クズ勇者ツヨシは、満面の笑みを浮かべて美女を指差す。





 その行為が何を意味するかにも気づかぬまま…

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