クズ、使い道が決まる

「どんな具合だった、我らが勇者殿は?」

アルバーノは執務室に入ってきたフェルディナンドに尋ねる。


「初めはどうしようかと思ったが、腐っても勇者だな。まだ見習いではあるが、これが今日の訓練後のステータスだ」


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 フルヤ ツヨシ

 転移者

 人間


 職業:勇者見習い


 LV:1 → 4

 HP:20 → 120

 MP:0


 体力:5 → 25

 知力:1

 精神力:1 → 2

 耐久力:2 → 15

 俊敏性:2 → 10

 幸運:0


 スキル:

 言語理解

 剣術LV1 → LV3

 身体強化LV2

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「ほう、伸び率がすごいな」

「ああ、そこはさすがというべきなんだろうな。初期値が低すぎたから今はこの程度だが、

 訓練を続ければ化ける可能性があるな」


「魔法は使えないのか?」

「今のところ使える兆候は見えないな。もともと物理特化なのか頭が悪すぎるかのどちらかだろうと思う。

 もう少し訓練を続ければ見えてくるだろうと思うよ。

 問題はあれが真面目に訓練するかどうかだけどな」


「ふふ、フェルはよっぽど彼のことが嫌いなんだな」

「そこは諦めてくれ、あんな周りの見えない頭の悪いガキってだけでも無理なうえに、あれにこの国の未来を掛けざるを得ないんだ

 ちょっとは苦労してもらわないとな」


「魔法の資質については、娘に確認させようか」

「フィアーナ公女には奴は合わせたくないな、碌な事をしないと思うぞ。

 それで傷つくのは公女の方だ、確認させるなら遠目で奴に気付かれないようにやるべきだ」


「そうだな、フィアにあんな低俗な奴は近づけたくないのは同感だ。

 "公国の魔女"と呼ばれていても、まだ10代の娘にすぎんからな。

 万が一あの勇者に好意を持ったりしたら大問題だ。」

「あの顔を見れば百年の恋も冷めると思うが、父親としては当然の心配だろうな」


「訓練はしばらく続けるんだろう? そのうち機会を見て確認させるようにしておくよ」

「それで問題ないだろう、成長したといっても幼児から一般人程度、それもまだまだだからな。

 少なくとも2カ月は訓練を続ける必要があるだろう」


「最短で2か月か、それに合わせて反撃の準備も進めておかないとな」

「ああ、さっさと終らせて奴の顔を見なくていいようにしたいな」


「ふふふ、フェルの精神衛生上からも急ぐとしようか」

「ああ、頼むよ」



~~~~~~~~~~


そしてようやくフェルなんとかが言った、2カ月が経過した。


控えめにいって最悪の毎日だったよ。ジャンとかいう奴は頭がおかしいんじゃないかってぐらい過酷な訓練を強いてくる。体力が無いと言われ無駄に荷物を担いで延々と走らされたりもした。

拒否して逃げ出そうとすれば、殺されるかと思うぐらいの罰を受けさせられるので、いやいやでも走るしかなかった。


戦闘訓練は初めは一対一の模擬戦だったのが、日に日に人数が増えて最後には真剣を使った20人を相手の真剣勝負。治療する奴らが総動員で僕が怪我をするたびに治していくから休むことも出来ない。憂さ晴らしに相手を切り殺してやろうとしても多勢に無勢、周りから邪魔をされ相手にかすり傷程度しかあたえられない。


さらに、楽しみにしていた魔法は今日まで一度も発動できなかった。

フェルなんとかが言うには、知力が低すぎるのが原因らしいが、遠回しに頭が悪いと言われているのだろう。でも勇者である僕が魔法を使えないわけがないのに、教え方が下手なのを棚に上げて僕のせいにするなんて、そっちこそ頭がおかしいとしか思えない。


毎日疲れ切った体を休めるだけに部屋に戻り、眠るだけの毎日が続く。一度イライラが限界にきて通りすがりにたまたま出会ったメイドを押し倒してやった。久しぶりの女の匂いに理性なんかあっという間に吹っ飛び、泣き叫ぶメイドの服を剥いて楽しんでいた時に激痛に襲われたんだ。全身の皮膚がはがされるような痛み、あまりの痛みに気を失い折角のメイドを取り逃がしたのは心残りだった。


だが、それだけで事は収まらなかった。翌日フェルなんとかに呼び出され隷属について説明された。結論から言えば、今回みたいにメイドを襲うのはダメらしい。折角勇者になったのに女に不自由するなんて考えられないが、隷属により犯罪を犯せば激痛に襲われるようになっているそうだ。あの痛みは二度と経験したくないので、しぶしぶあきらめざるを得なかった。女に興味を持ってからこんなに長い間触れることすらできないなんて元の世界では考えられなかったことだ。ママに言えば使い捨てても問題ない女は直ぐに用意してくれたからな。


召喚されたときに容易に契約を結んだ自分を殴りたい思いだ。折角の勇者が全く意味をなさない。ただ厳しい訓練をこなすだけで、女も犯せないし苛めることすらできないなんて、なんの楽しみもないんだからな。



それでもなんとか2カ月間の訓練を終えることが出来た。これでジャンとかいう奴の顔を見ることもないと思うと、非常に気分がいい。後は言いなりになる女を数人用意してくれればいいんだが、奴隷扱いできるような者は居ないらしく、そっけなく断られた。


しかし、訓練期間中にひとつ良い発見があった。名前は忘れたがこの国のトップのおっさんに娘がいるらしい。そしてその娘を訓練中に見かけることが出来たんだ。年は少し上ぐらいの美女と美少女の中間ぐらいで、スタイルも良くいい声で鳴きそうな上玉だ。訓練中たまたまと呼ばれたその女を見たときに、絶対にこいつをボロボロになるまで犯しつくしてやると心に決めたんだ。


いきなり召喚しておいて奴隷のように人を扱いやがるこの国に絶対に復讐してやる。そのついでに公女も無茶苦茶にしてやるつもりだ。そのためにもとっととこの厄介な隷属ってやつを解除しなきゃな。


~~~~~~~~~~



「それでジャンバッティスタ少将、我らが勇者殿の仕上がりはどんな具合だ?」

ここはアルバーノの執務室、テーブルを囲むようにフェルディナンドはアルバーノの横に座り、その向かいにジャンバッティスタが腰を掛ける。


「正直な感想としては、思ったより伸びたというところか。ただ伝承の勇者としては話にならんな。それに性格が全く矯正されていない、相変わらず反抗的で訓練の効率は最悪だ。あと、女を見ればそちらに神経が向いて模擬戦中ですらよそ見をする始末だな」

ジャンバッティスタは表情を変えることなく、勇者ツヨシの訓練の成果について語る。


「はあ、結局どの程度まで成長したんだ?」

ジャンバッティスタの抽象的な回答にアルバーノはフェルディナンドに問いなおす。


「ああ、これが今日のやつの鑑定結果だ」


 ----------

 フルヤ ツヨシ

 転移者

 人間


 職業:勇者見習い


 LV:4 → 42

 HP:120 → 23520

 MP:0


 体力:25 → 1255

 知力:1

 精神力:2 → 263

 耐久力:15 → 640

 俊敏性:10 → 425

 幸運:0


 スキル:

 言語理解

 剣術LV3 → LV5

 身体強化LV2 → LV3

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「ほう、レベルはそれなりに上がったのだな。だが魔法は使えないのか…」

ステータスの内容に目を通しながら、アルバーノはため息交じりに呟く。


「色々試したが、何をやっても魔法の発動の気配すら感じられなかった。奴には魔法は無理だ」

ジャンバッティスタがそのつぶやきに対して答える。

「そもそも知力の値があり得ないぐらい低いうえに、一切成長していない。奴は所詮勇者ってことだな」

フェルディナンドは嫌悪感を隠そうともせず、吐き捨てるように吐き捨てる。


「そうか、それではフィアに確認させるまでもないな。それに、この程度のステータスであれば一対一なら負けることは、ほぼないかもしれないが、複数相手だと簡単に負けるだろう」

アルバーノの不安は、この勇者が帝国相手に使えるかどうかの一点に尽きる。そしてこの程度のステータスでは検討にも値しないということだ。



「それは否定はしない。しかしひとりの騎士としてなら十分モノにはなったと思う」

ジャンバッティスタはただ依頼された仕事をこなしただけという態度で淡々と答える。


「この程度の実力では単独での帝国相手は死にに行かせるのと同じことだ。訓練を継続するか、戦略を見直すか、判断をどうするかだな」

フェルディナンドはそう言うと、アルバーノを見つめる。


すでに公国は戦線を維持する物資が底をつき、帝国軍の補給をゲリラ戦法で強奪し戦線を膠着させるという最後の手段にまで出ている。これ以上戦争が長引けばそのゲリラ戦すらおぼつかなくなるのが見えてきている。


「しかたがないな、これ以上は戦線の維持すら困難だ。帝国側も補給への警戒を高め強奪どころか近寄ることも難しくなってきている。補給線を再確保されたらすぐにでも体制を整えて進軍してくるのは間違いないだろうからな」

アルバーノは自国の命運が消えつつあるのを冷静に判断し口にする。


「となれば、何らかの手を打つ必要があるが肝心の勇者があの程度じゃ話にならんからな。そもそも百万の敵を倒すといわれる勇者の戦力をあてにした戦略だ、根本的に見直す時間も無いとすればあれを使って時間稼ぎでもするか?」

「そうだな百万どころか百人ですら倒せるかどうかの勇者など、戦略の要になど出来るはずもない。ジャン、何かやつの良い使い道はないか?」


「そうだな、規律を守ったり隊列を維持するような行動には致命的に向いていないからな、単独での行動しか無理だろう。戦力的には新米騎士一個小隊程度はあるだろうが、その程度で戦局に影響を及ぼすなどあり得ない。現在の補給線への介入を奴ひとりにやらせて経験を積ませるというのが現実的なところか」

アルバーノからの問いにジャンバッティスタは、考え込みながらも回答する。


「奴には莫大なコストがかかっている。使い捨てにするのは割に合わなすぎるからな、その方針が落としどころになるか…」

フェルディナンドも消去法ではあるが、ジャンバッティスタの案に同意する。


「ではツヨシ君には補給部隊への介入を引き継いでもらうとするか。方針としては第一に生きて帰る事を優先とする、物資の強奪や破壊は二の次にして実戦経験を積むようにしてもらう」

ふたりの意見を受け、アルバーノは最終決定を下す。こうして勇者見習いの2カ月にわたる訓練は正式に完了が決まり、即日戦場への移動が確定したのだった。

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