OL、旅に出る
「じゃあ、出発しようか!」
ドルアーノの街の外、ミヤビは騎獣であるグリフィスを呼び出しまさに旅立たんとしていた。
「「「姐さん!お気をつけて!」」」
ミヤビの見送りに街の冒険者たちが勢ぞろいで集まってくれていた。その集団の中からギルマスが抜け出しミヤビに声をかける。
「嬢ちゃん、追い出すような真似をしてすまない。馬鹿貴族もいなくなりこの街はとても暮らしやすくなったのは、間違いなく嬢ちゃんのおかげだ。片が付いたらいつでも戻ってきてくれ、その時は街をあげて歓迎させてもらうよ」
「別にいいわよ、旅には出るつもりだったしね。それより戻って来た時に前みたいに不潔だったら承知しないからね!」
「ふふふ、わかった。馬鹿どもには嬢ちゃんからの命令としてきつく伝えておくよ」
「お願いね、いつになるかわかんないけど覚えてたらまた顔を出すわ」
「まあそのくらいが嬢ちゃんらしいな。嬢ちゃんなら大丈夫と思うが気を付けてな」
「ええ、ありがとう」
ギルマスとの挨拶も終わり、グリフィスに騎乗しようとしたときに別の人影が駆け寄ってくる。
「おい、ミヤビ! 行くなら行くで一声ぐらいかけてけよ。 帝都には俺達も向かうから向こうではまたよろしくな」
「ミヤビ様、カークブルの件お忘れなきようお願いします。教会は敵に回せば帝国以上に厄介ですから」
「ええ、ステファン、セルジオさん。 それじゃあ先に行ってるわね」
「お姉さん!」
ステファンたちの後ろから、豚貴族から助けた少女が顔を出す。
「ああ、見送りに来てくれたので。ありがと、元気でね」
「それより、カークブルに行かれるんですか?」
「ええ、ちょっと野暮用があってね」
「そのグリフォンで行くなら気を付けてください。カークブルは教会の街、魔物を見れば攻撃してくるかもしれませんから」
「そうなの? めんどくさい街ねぇ。まあ別に街に入るわけじゃないし大丈夫でしょ」
「気を付けてくださいね、お姉さんが怪我をするかもって思うと心配で…」
「ぷふっ、ミヤビに怪我させることが出来るって、どんなバケモンだよ」
「…ステファン? …どういうこと?」
「い、いや、ミヤビは強いから大丈夫ってことだ、うん、そういう事だよ」
「はあ、最期までこんな感じなのね。 えっと、サラだっけ?心配してくれてありがとね。
そこの自称Aランクの言う通り、多少のことなら大丈夫だから心配無用よ」
「はい! お姉さんが強いのは知ってますから。 どうかご無事で、またお会いできるのを楽しみにしてますね」
「うん、笑顔で見送ってくれた方がうれしいわ。 それじゃあみんな、行ってくるね!」
そう言うとミヤビはグリフィスにまたがり、あっという間に遥か上空に旅立っていった。
「おい、誰が自称Aランクだよ!ったく最後までミヤビはミヤビだよな」
「お坊ちゃま、我々も帝都に向かいましょう。 ミヤビ様の騎獣とはスピードが違い過ぎますから、なるべく急がないと何かあった時に間に合わないかも知れませんからな」
ステファンたちもミヤビの後を追うようにドルアーノの街を出る。
「はあ、なんかいきなり寂しくなっちまうよな…」
残ったギルマスのつぶやきは、その場にいた全員の思いを代弁するかのようであった。
~~~~~~~~~~
「とりあえず昨日の魔法の後かたずけをしないとね。グリフィス方向はわかる?」
『主よ…、地面がえぐれている方向に進めば間違いないと思うぞ…』
グリフィスの視線を追うと、まるで街道が走っているかのように等幅でえぐられた地面が真っ直ぐに続いていた。
「へぇ、結構奇麗にできたものね」
『主よ、魔法で地面を掘るなど、簡単な落とし穴程度しか普通の魔法では出来ないものなのだ。これだけの距離を、しかも術者が不在でも発動し続けるなどあり得んことなんだが…』
「でも目の前のは現実よ? グリフィスも現実から目を逸らしちゃだめよ」
「…主が非常識なのだが…」
魔法の跡に沿って上空をすべるように翔るグリフィス、馬車などは比較にならないスピードで先を急ぐ。
やがて魔法の跡の先頭部分と思われる土煙を舞わせつつ移動する点が見えてくる。
そしてその先には城壁に囲まれた街、カークブルも魔法の進路上に見えてきた。
「あらら、こんなきれいに街に向かうなんて、私って運がいいのかもね」
『主…、街の者からすれば災厄以外の何物でもないのだが…』
「まあ、今のところ無事みたいだし問題ないでしょ? じゃあちゃっちゃと魔法を止めに行きましょ!」
『了解した、主よ』
グリフィスは高度を落とし、突き進む魔法の先頭に向かいさらに速度を上げていく。
~~~~~~~~~~
少し時をさかのぼる。
カークブル、帝国の西部に位置する教会が支配する街である。通常であれば貴族による街の支配が行われるのだが、教会との関係を重視した帝国は一部の街を教会に寄進し友好な関係を保っている。つまりこの街にも領主としての貴族が居るのだが教会による支配の方が強く、貴族といえども教会には逆らえないという、歪な関係の上に成り立つ街である。
とはいえ、そこに暮らす民衆にとっては税を収める先が貴族か教会かという程度の違いしか感じられず、他の街と大きく暮らし向きが異なるという事は無かった。異なるのは街の中心に作られた大聖堂、教会のシンボルである巨大な建造物がそびえ立つ点だけであった。
その大聖堂の奥の部屋に自室を持つ司教のもとに、駆け込んでくるものがいた。
「司教様! 大変でございます。謎の現象が街に迫っているとのこと、急ぎ対応が必要かと!」
駆け込んできたのは教会騎士、帝国ではなく教会に忠誠を誓う騎士のひとりであった。
「何事だ、謎の現象と言われても何のことかさっぱりわからんではないか」
「申し訳ございません。ただ地面がえぐり取られるように掘り返されているのですが、それが真っ直ぐにこの町に向かって進んできているのです」
「どういうことだ? つまり道を作るかのように何者かがこの町に向かって地面を掘っているという事か?」
「現象としてはその通りです。ただ人影は見えずなぜそのような事が起こっているのかもわからず…。しかしこのままではこの街にぶつかるのは確実と思われます」
「さっぱりわからんな…。それでその道のようなモノはどの程度の規模なのだ?」
「はっ、幅は馬車が楽に通れる程度で、深さは大人の身長かそれ以上と報告が上がっております」
「かなりの大きさだな…。確かにこのまま街にぶつかるようなことがあればそれなりの被害は避けられんか…。それで街にぶつかるまであとどの程度時間がある?」
「今の速度であれば、半日程度かと」
「時間が無いな…、それで街の状況はどうなっておる」
「原因不明の事象の為、街の住人や教徒たちは神の怒りがこの街に向いたのではと恐れおののいております」
「混乱は発生していないのだな、それでは教会騎士をその謎の事象の対応にあてよ」
「はっ、しかしどのように対処すればよいか…」
「まずは魔法の使える者たちにより、魔法で相殺できないか試すのだ。できなければまた策は考えるしかない」
「はっ!直ちに騎士を集め対処いたします!」
そしてカークブルの街の外に数十人の教会騎士が騎乗して整列する。教会騎士の中でも魔法に優れたものが選抜され集められたのだ。
そして整列した隊列を維持しつつ騎士たちは未だ地面を掘り進む謎の事象に向かって馬を駆る。魔法の射程に捕らえると見事な動きで散開し、半包囲するように一斉に呪文を唱えだす。
中央に居た派手な飾りを付けた騎士の合図で、騎士たちから一斉に魔法が放たれる。炎・氷・礫・風刃などそれぞれの得意な魔法が謎の事象に向かって襲い掛かる。対人の戦闘であればこれだけで戦局をひっくり返すことが出来るほどの威力の魔法、しかし謎の事象は襲い掛かる魔法を意に介した様子もなく地面の土砂と同様に巻き込み何事もなかったように後方にまき散らすだけであった。
己の最高の魔法が全く効果が無いこと、魔力を限界まで振り絞ったことから、落馬こそしなかったが馬にもたれかかるように倒れ込む騎士たち。派手な飾りの騎士の号令によりかろうじてカークブルの街に退却していったのだった。
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