OL、行先を決める

「あぁ、ギルマスに街を出て行けって言われたのよ」


「はぁっ! お前一体何したんだよ」

「別に、こないだみたいにやってきた冒険者をやっつけただけよ」


「あぁ…、あの神罰かってぐらいのえげつない魔法な…」

「あれぐらい大したことないでしょ、大分手加減したし」


「はぁ、まあミヤビだからな…。で、被害が大きいから出て行ってくれってことか?」

「うぅん、ちょっと違う感じかな?この街では私をもう匿えないみたいなこと言ってたし」


「なるほどな…、ギルマスにもいろいろ考えがあるんだろうよ」

「ちょっと、何ひとりで分かった気になってんのよ」

ミヤビがステファンと遣り合っているところに、街の冒険者が駆け込んできた。


「あ、姐さん! 大変っす!」

「どうしたの?そんなに慌てて」


「あの後、ギルマスと地図を見て確認したんですが、姐さんの魔法が放って置いたらカークブルの街に直撃しそうなんすよ」

「あら、それは大変かもね。ってか何処それ?」


「…かもねじゃなくて、大変なんです! あの町は教会が管理してるんで、下手すると教会を敵に回しかねないっすよ」

「教会? それって厄介なの?」


「はぁ、姐さんはもうちょっと常識を覚えた方がいいっすよ」

「失礼ね、教会なんて知らなくても困らないわよ」

「なあ、ミヤビは一体何をしたんだ?」


「大したことはしてないわよ。ちょっと試したくて魔法をそのまま放置しただけよ」

「おい、ちょっと待て。 ったく、術者がいなくても発動し続ける魔法ってなんだよ…、そうしたら今もその魔法は発動したままってことか?」


「多分ね。別に見張ってるわけじゃないけど2、3日はそのままじゃないかな?」

「それでその魔法の進行方向にカークブルがあるという事なんだな?」

「は、はい。ギルマスが確認したんで間違いないと思うっす」


「ったく、帝国だけじゃ飽き足らず、教会も敵に回すつもりなのか?」

「そんなわけないでしょ、私はつつましく静かに暮らしたいだけよ」

「…ちょっと何言ってるかわかんないっす」


「ああ、俺もだよ。これだけ派手にやらかしておいて、静かに暮らしたいって言われてもなぁ」

「私からちょっかい掛けたことは一度もないわよ。降りかかる火の粉を払っただけ…みたいな?」


「そこはちゃんと言い切れよ!」


「お坊ちゃま、あまり大声を出されるのはよろしくないかと」

そこにドラゴンのステーキを持ったセルジオが戻ってくる。


「あっ! ドラゴンステーキね。そんなどうでもいい話は置いといて先にいただきましょうか」

「教会はどうでもいい話っすか…」

「まあ、ミヤビだからな…」


「教会がいかがいたしました?」

「あぁ、ミヤビの魔法がカークブルに向かってるんだと、近いうちに魔法が直撃するらしい」


「それはまた、ミヤビ様らしいというか…」

「それで俺はギルマスに言われて慌てて姐さんに連絡に来たっす」

「まあ、その本人はもう俺達の声は聞こえてなさそうだけどな…」

ミヤビは満面の笑みでステーキを報張り、ビールを注文している。3人の話などまるで耳に入っていないようだ。


「はぁ、街を出て行くように言われたうえに、教会を敵に回しかけてるのに暢気なもんだよなぁ」

「ミヤビ様が街を出られるのですか? それでどちらに行かれるのでしょうか?」


「聞いたのがさっきみたいだから、多分何にも考えてないだろうよ」

「それでは、帝都にお連れしてはいかがでしょう?」


「なんでだ? そもそも帝国から手配されてるのに、のこのこと帝都に行けばトラブルが起こるのは目に見えてるだろ?」

「だからこそです。このまま帝国内にいるのであればいずれ見つけられ、またここと同様の事態が発生するでしょう。帝国から出たとしても、居場所が帝国に知れれば必ず引き渡しを要求するでしょう。つまり、帝国を放置したままでは、ミヤビ様は静かに暮らすことはできないという事です」


「つまり、帝都にミヤビを連れて行ってトラブルを起こすことで、帝国にこれ以上ミヤビに深入りさせないようにするってのか?」

「もちろんそう出来れば一番被害が小さいでしょう。最悪帝都をミヤビ様が滅ぼすという可能性も考慮しておくべきかと」


「セルジオ、おっかないことを考えるなぁ。それって、ミヤビを使って帝国を滅ぼすってのと変わりないぞ」

「帝国が滅ぶかどうかは、あくまでも結果論ですよ。ミヤビ様の今後の安全な暮らしの為に帝国の中枢に一度力を見せておく方が良いかと」


「なるほどな、セルジオの言う事にも一理ある。しかし、ミヤビがそれを了承するかは別の話だぞ」

そう言ってステファンは、幸せそうにステーキを頬張るミヤビの横顔を見る。


「ん? ステファンも欲しいの? 最後だし少しぐらい分けてあげようか?」

「はぁ。ったくミヤビは暢気だよなぁ」


「なによ? ドラゴンのお肉はいらないって言うのね」

「いや、それは欲しい! そうじゃなくてミヤビがこの街を出るって話だよ、街を出てからどうするつもりなんだ?」


「セルジオさんも食べるでしょ? 私のおかわりと一緒に頼んできてもらえる?」

「はい、ミヤビ様。ご相伴に与からせていただきますね」


「その様子だと何にも考えてなさそうだよな…」

「そりゃそうでしょ、他にどんな街があるかも知らないし。とりあえず清潔でご飯の美味しいところがいいかな?」


「ぶれないよなぁ…。まあその条件なら帝都がぴったりだが、ミヤビは帝国から手配がかかってるから無事で済むとは思えないよな」

「別に変なのが来たらやり返すだけよ、私から手を出したりしないわよ」


「そのやり返すって内容が、常識離れしてるのが問題なんだよ」

「そんなこと言われても、そもそも手を出してくる方が悪いんじゃないの」


「まあなぁ、ミヤビに手を出せばどうなるかわかってんなら自業自得だが、知らないやつにはやり過ぎだと思うぞ」

「なんでちょっかい掛けてきた奴に親切に説明する必要があるのよ、やり返される覚悟もないならおとなしくしてればいいじゃない」



「ミヤビ様、お待たせしました。おかわりをお持ちしました」

「ありがとね、セルジオさんも良かったら食べてね。ステファンも仕方ないから1枚食べていいよ」


「この扱いの差は変わらないんだな。まあそれでもやっと念願のドラゴンだ、ありがたく頂くよ」

「あ、そういえば気になったんだけど、この国って貴族を殺したら国を挙げて捕まえようとするけど、冒険者だとそう言うのはないの?」


「はい、帝国では貴族以上は国が守りますが、それ以外の冒険者や民衆などの命は非常に軽い扱いです。ミヤビ様のように先に手を出された場合は問題になることはほとんどありません」

「ふうん、なんか気に入らないわよね。貴族ってそこまで大事なものなの?」


「貴族とは皇帝が任命した者、つまり貴族に手を出すという事は皇帝に歯向かうと見なされるのですよ」

「皇帝ってめんどくさそうね」


「ミヤビ様、あまりその様な事は口に出さない方がよろしいかと。今の皇帝はそのような民衆の声に過敏で、簡単に反逆者として処刑するような者ですから」

「セルジオさんも結構言ってると思うよ。そっか、こないだ言ってたのってその皇帝が原因なのね?」


「ええ、このままでは皇帝の意に染まぬものはすべて処刑され、耳障りの良いことを言うものが皇帝の周りを占めることになります。そうなれば帝国も、もはや終わりでしょう」

「それを何とかしたいのね。じゃあ私に帝都でひと暴れして欲しいんじゃないの?」


「正直に言えば、そうして頂ければ非常に助かるのは間違いありません。しかし、ミヤビ様をその様な形で動かすようなこともしたくないというのも、私の素直な思いとしてあるのです」

「さすがセルジオさん、私のことを分かってくれてるわねぇ。まあ、別に行く当てもないから帝都に行くのはいいんだけど、行っても私は何したらいいかわかんないわよ」


「もちろん、ご協力いただけるのであれば全てこちらで準備はいたします。帝都が消滅するようなことがなければ、特にこちらから事細かな指示を出すようなことは致しません」

「それで、私が帝都に行けばこのめんどくさい冒険者がやってくるのを止められるってことで良いのよね」


「はい、それはもちろんです。冒険者ギルドに依頼を出したのが帝国であるというところまではわかっておりますので、その依頼を取り下げるだけで問題は解決すると思います」

「ふうん、そんなもんなんだ。みんなで仲良く暮らしてればいいのに、面倒なことするよね」


「そもそも帝国は周辺各国に戦争を仕掛けて領土を拡張させておりましたから、なかなか仲良くというのは難しいかと」

「うわぁ、そもそもから面倒な国だったのね。で、今も戦争してるの?」


「ええ、今は南方に隣接するコスタリオ公国と戦争中のはずです。先代が愚王で弱体化した公国に帝国が攻め込んだと聞いております」

「そんな戦争してるから、帝国の兵じゃなくて冒険者が来たのかもね」


「ふむ、なるほどその線は充分ありそうですな、さすがミヤビ様ですな。そうそう公国と言えばまだ噂ですが勇者を召喚したという話が少しづつ広まっております」

「勇者ってほんとにいるんだ。じゃあ、なんだっけ? 100万の軍を相手に戦えるとか言ってたぐらい強いってこと?」


「いえ、どうもその辺りはまだはっきりした情報は確認できておりませんが、強いことは間違いないですが、伝説に出てくるような勇者の力を振るうほどでは無いようです」

「じゃあ、その公国ってのが勇者をかたって帝国を押しとどめようとしてるの?」


「確かに勇者の名を聞けば、帝国軍と言えど責めるのにはためらうでしょうな。しかしそう何度も使える手ではないでしょうし、そもそも勇者らしい力を振るわなければその戦略は意味をなさないでしょうから、召喚自体は本当に成功したと思います」

「ふうん、じゃあ外れ勇者ってとこかもね」


「ふふふ、確かに。まだ成長途中で戦争に駆り出されたのかもしれませんが。私などから見ればミヤビ様の方が遥かに勇者としての力をお持ちのように見えますな」

「私なんてか弱い女子だから、勇者なんてとんでもないわよ」


「あはは、ではそういうことにしておきましょう」

「もうっ、セルジオさんまでそういうこと言うんだから!」



「ぷはぁ!美味かった!ドラゴンやばいなっ!」

「お坊ちゃま、静かかと思えば無心で食事をされておられたのですか…」

「あっ、セルジオさんも食べてね。冷めるともったいないわよ」


「で、結局ミヤビは次はどこに行くか決まったのか?」

「はぁ、ほんとに人の話も聞こえないぐらい集中してたのね…」


「いや、悪かったよ。でもドラゴンが旨すぎて、つい、な?」

「仕方ないわね、もういいわ。とりあえず帝都に行ってみようかってことになったわ」


「ほう、ミヤビが帝都にか。こりゃ色々と楽しみがありそうだな」

「人を娯楽みたいに言わないでくれる?」


「何事も無く帝都で過ごすミヤビってのは想像できないからなぁ。それに絶対にちょっかい掛けてくる馬鹿がいるぞ」

「だよね。こんな美人で可愛いんだから、仕方ないよね」


「あ、あぁ、そうだな…。そういうことにしておく」

「ちょっと、どういう意味かしら?」


「あー、それは置いといて。ミヤビが帝都に行くなら俺達も久しぶりに帝都に戻るか」

「そうでございますな、ミヤビ様が居なければこの街は寂しくなりますから」

「えー、セルジオさんはいいとして、ステファンも帝都に行くの?」


「なんでだよっ! セルジオは良くて俺はダメなのかよっ!」

「別にいいけど、一緒には行かないわよ」


「ん、なんでだ? 一緒に行った方が馬車も安く借りれるぞ?」

「私はグリフィスと飛んでいくから」


「…待て、帝都にグリフォンで乗り付けるってのか?」

「そうよ、首輪もつけたし騎獣で乗り付けても問題ないはずよね」


「…普通の騎獣ならな。グリフォンのさらに上位の変異種は普通じゃないからな」

「そんなの知らないわよ。そもそも帝都にはグリフォンで行っちゃダメみたいなルールがあるの?」


「いや、そんなの誰も想定してないから…。グリフォンで乗り付けたら帝都がパニックになるから…」

「えぇっ、それじゃあ何のための騎獣かわかんないじゃない。そうだっ、一度パニックでも起こせば次から大丈夫じゃない?」


「その最初のパニックで間違いなく手配されるぞ。あぁ、もう手配されてるからそういう意味では同じなのかもな」

「人を犯罪者みたいに言わないでよ、手配はされてるけど悪い事したとは思ってないからね。要らないちょっかい掛けてくる方が悪いのよ」


「ま、ミヤビの意見は置いといてだな。今回帝都に行くことになったのはその厄介な手配を何とかするってのが目的なんだろ?」

「そうね、どこに行っても付け回されるぐらいなら、いっそのこと大本を断てばいいんじゃないってセルジオさんが言ってるし」


「…セルジオ、わざと途中を端折ってないか?」

「何のことでしょう、お坊ちゃま? ミヤビ様が帝都に行けば間違いなく冒険者たちが集まってくるでしょう。そしてそれを我慢するミヤビ様ではありますまい」

「ん? どういうこと?」


「つまりセルジオは帝都でミヤビが暴れることで、結果的に手配が取り下げられることになるって言ってるんだよ」

「ふうん。でもさ、どこに行っても馬鹿な冒険者が寄ってくるのは一緒でしょ? それなら一回で済む方が助かるかな」


「そういう事ですお坊ちゃま。何度も繰り返して冒険者にまとわりつかれたミヤビ様が、いずれこれまで以上の大規模魔法を使うのは自明。それならばいっそ帝都でひと暴れして身の回りをすっきりされた方がよろしいかと」

「まあ、それでミヤビが納得してるならいいか」


「そういうことよ、だからグリフィスで乗り付けて、さっさと問題を起こすのが効率的でしょ?」

「確かに問題は起こるけどよぉ…、なんか帝都の連中がかわいそうになってきたわ…」


「それでは帝都行きは決定という事でよろしいでしょうか?」

「そうね、他に行きたいとこもないし、っていうか他の場所は知らないからね」


「あとはカークブルの件ですが、出来れば魔法を止めた方がよろしいかと思います」

「ああ、そういえばそんなこともあったわね。 まあセルジオさんが言うなら帝都に行く途中にでも寄って止めておくようにするわ」

「じゃあ、俺達も帝都に行く準備をするか」

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