OL、追い出される
"最強"オーレッド、"賢者"セレスタンを含む冒険者ギルドからの、ミヤビの捕縛依頼のために構成されたレイドを蹂躙した後、ミヤビはグリフィスに乗りドルアーノの街に戻っていく。
『主よ、あの魔法は本当に放置しておくつもりなのか?』
「えっ?ああ、あの程度の魔法ならほっといても大丈夫でしょ?持続力はあるけど大したことはできないでしょうし」
『…いや、あの魔法が街にぶつかれば街は滅ぶぞ…』
「ほんとに?あれぐらいで滅ぶぐらいならその程度の街なんじゃないの?」
『我でもあの魔法は防げないだろう、主はもう少し自分の力の非常識さを知った方がが良いと思う…』
「非常識って、失礼ね。じゃあどうしよっか?ほっといても2,3日もすれば消えると思うけど」
『2日も持続するのか…あの威力で…、もはや先に何もないことを祈るしかないな…』
「まあ大丈夫でしょ、もし当たったら運が悪かったってことで、ね?」
『はぁ…、我は主に従うが、人の理はそれでよいのか?』
「別にいいんじゃない?そもそもが勝手に私を捕まえようときた奴らが悪いんだし。私はいっぱいの冒険者が襲ってきたから怖くて反撃したっていえば問題ないでしょ?」
『主が怖がるとか…、わかった主がそれでよいなら、これ以上言う事はない』
「まあグリフィスも一緒になってやってたんだから、今更気にしてもしょうがないわよ」
『いや…我はとんできた矢を吹き飛ばしただけなのだが…』
「細かいことは気にしないで良いの」
『あれだけの大惨事が細かいことなのか…』
~~~~~~~~~~
街に戻りグリフィスを返すと、散歩から帰ったかのように足取り軽くドルアーノの街に入るミヤビ。街の入り口にはギルドマスターや冒険者たちが集まっており、ミヤビを出迎える形になった。
「嬢ちゃん、また派手にやらかしたな…」
「「「姐さん!すごいっす!」」」
疲れた顔のギルマスと、憧憬のまなざしでミヤビを見る冒険者たち。
「あ、出迎えにに来てくれたんだ。ありがとね」
「出迎えというより、嬢ちゃんがまた無茶をしないか確認しに来たって方が正しいがな」
「ちゃんと街は無事だったでしょ?グリフィスもわざわざ街の外で呼び出したんだし」
「まあ、街には被害はなかったな、街には。あの派手な魔法の跡を無事っていうかどうかは別の話だがな…」
「別に街道でもないただの草原でしょ? ちょっとぐらい荒れても問題ないんじゃない?」
「あれをちょっとと言うのか…、ここからでも地面がえぐれて色が変わってるのがわかるんだがな。それに最後に何かやらかさなかったか、だいぶ遠くに何やら巻き上がって向こうに飛んでいったように見えたんだが?」
「ああ、あれね。ひとりだけ見逃してあげたんだけど、また来ないようにちょっと脅かしておいたんだ」
「何やったんだ?」
「風の魔法でちょっと地面をえぐっただけよ。ただまだしばらくはえぐりながら進んでると思うけど…」
「…おい、しばらくってどれくらいだ?」
「多分2,3日かな?」
「馬鹿野郎! 誰か至急地図を持ってこい!」
ギルマスはミヤビを怒鳴り付け、周りの冒険者をギルドまで走らせると、あらためてミヤビを見つめる。
「なあ、嬢ちゃんよ。その風の魔法が他の街を襲ったら、さすがに庇いきることはできん。おそらく悪気はないんだろうし、攻めてきた馬鹿どもが悪いってのも理解できる。だがな、これで他の街に被害が出たら嬢ちゃんは今度こそ犯罪者だ。今迄みたいに掛かってきたからやり返したって言うのとはわけが違う」
「で? 私を捕まえるの?」
「それこそ馬鹿のすることだろう? 嬢ちゃんを相手にしてこの街が無事に済むとはとても思えん」
「それじゃあ何が言いたいわけ?」
「はっきり言おう、この街を出て欲しい。この街には嬢ちゃんの力は強すぎるんだよ」
「つまり私がここにいるだけで迷惑ってことなのね」
「ああ、そういうことになるな。だが誤解しないでくれ、俺は個人的には嬢ちゃんを気に入っているんだ。しかしギルドマスターとしての俺には、この街を守る義務がある」
「わかったわ、出ていく。でもさすがに今すぐ出て行けとは言わないわよね」
「もちろんだ、それなりに準備もいるだろうしな」
ミヤビはもうギルマスに返事をすることもなく、街中に向かって歩き始める。その後姿は少し寂しそうに見えた。
「ギルマスよ、ちょっと姐さんにきつすぎねえか?」
「姐さんには俺達すげえ借りがあるんだ、ドラゴンの装備なんかも貰ったしな」
「別にここに居てもらってもいいんじゃないか? 何かあっても姐さんが対処してくれるだろうし」
ミヤビの去っていく姿を見た、周りに居た冒険者たちは口々にギルマスに文句を言い出す。
「俺だって追い出すような真似はしたくねえよ。だがな考えてみろ、嬢ちゃんは帝国に睨まれてるんだ。今回の件でおしまいってことはありえないだろうし、嬢ちゃんを捕まえるまでは様々な手でこの街に手を出してくるだろう。その時の嬢ちゃんがいればいいが、たまたま不在だったりしたらどうする? 街を守るために嬢ちゃんをここに縛り付けておくのか? それに正攻法で攻めて来るとも限らんし、帝国の威信を守るためならこんな辺鄙なとこにある街のひとつやふたつ滅ぼしても良いってなれば、いくら嬢ちゃんでも全ては守り切れねえだろ。そしてそうなったときに嬢ちゃんはきっと酷く傷つくだろうよ」
「ギルマス…」
ギルマスの言葉に冒険者たちも言葉を詰まらせるのだった。
~~~~~~~~~~
(はぁ、街を出るって言ったけど、どこに行けばいいのかなぁ?)
ミヤビは宿に戻る気にもなれず、ぼんやりと街中をさまよっていた。
「あっ!お姉さんだ!」
突然後ろから声をかけられると、そこにはひとりの少女がいた。
「んっ? 誰だっけ?」
「領主に捕まってたのを助けてもらったサラです。あの時はほんとにありがとうございました」
「あぁ…、そんなこともあった気がするわね…」
「ええっ!あんなすごいことだったのに、忘れちゃってたんですか?」
「別に大したことしてないわよ、うっとしく言い寄ってくる馬鹿をやっつけただけだし」
「うぅ…お姉さんにしたらそんなもんなんですね。でも私にとってはお姉さんは命の恩人だし、あのままだったら何されたかわからないし、ほんっとに感謝してるんですよ」
「そう?じゃあね」
「えっ、そんなあっさりと…。何かお礼が出来たらいいんですけど、なにか困ってることとか手伝えることはありませんか?」
「ないわね。それにもうこの街を出るつもりだから、貴方も私のことは気にしなくていいわよ」
「ええっ!なんで出て行っちゃうんですか?お礼もしたかったし、もっと仲良くなりたかったのに…」
「それは諦めて。それよりどこかいい街をしらない? 別の国でも構わないから」
「…そんな簡単に諦めてって…、でもお姉さんに迷惑はかけたくないから我慢します!それで良いところですよね…、帝都なんかどうですか?すっごく大きくていろんなものがあるらしいですよ。他の国はごめんなさい、良く知らないです…」
「帝都か…、確かに敵の頭をつぶせばこれ以上厄介ごとは無くなるかもね…」
「…なんか物騒なこと言いませんでしたか?」
「まあ、いいわ参考にしとくね」
「それより、なんで急にいなくなっちゃうんですか? もっとお姉さんと仲良くなりたかったのに…」
「豚領主を殺しちゃったからねぇ、なんか貴族は殺しちゃダメなんだって。あんな迷惑ばっかりかけてる豚でも貴族っていうだけで私が悪いんだって、それで帝国に狙われちゃったのよ。別に誰が来てもやっつけるからいいんだけど、ギルマスから迷惑だから出て行ってくれってね」
「そんな…、じゃあ私を助けてくれたのが原因なんですね…。でもお姉さんを追い出すなんてギルドの人は酷いです!」
「別にあなたを助けたのはついでみたいなもんだから、気にしなくていいよ。それに、私がここに居ると街に迷惑がかかるのはギルマスの言う通りだしね」
「それでも…やっぱり酷いです…。お姉さんはいい人なのに、追い出すなんて…」
「ありがとう、そこまで言ってもらえると嬉しいものね。まあそのうち旅にでも出ようって思ってたから、ある意味ちょうどいいのよ。だから気にしないで」
「はい…、でもお姉さんは強いから負けることはないいと思うけど、狙われたりするのは嫌だから、あんまり無茶はしないでくださいね」
「ふふ、なるべく頑張るわ」
「はい、約束ですよ!」
「はいはい、それじゃあね」
「お姉さんもお気をつけて、またこの街に戻ってくるのを楽しみにしてます!」
サラは、ミヤビの姿が見えなくなるまで手を振り見送っていた。本当はもっと話していたかったが、ミヤビの纏う雰囲気にこれ以上足止めするのは迷惑と考え、笑顔で見送る方を選んだのだった。
ミヤビはそんなサラの心遣いにも気づかず、また今後のことに思い悩む。
(どこに行ってもいいんだけど、帝国が諦めない限りは多分どこに行っても同じになるよね…)
(先に帝国をどうにかした方が後々楽なのかしら…)
(うーん…、困ったときはセルジオさんよね。ちょっと相談してみよ)
宿に行き先を決めると、面倒ごとはセルジオに丸投げする気になったミヤビは足取りも軽く歩き出すのだった。
~~~~~~~~~~
そのころ、まだ街の門に居たギルマスと冒険者たちは、持ってこさせた地図を見ながら頭を抱えていた。
「まずいな、嬢ちゃんの魔法が消えないと隣街にぶつかるかもしれん…」
「隣街って…ひょっとしてカークブルですか?」
「ああ、あの教会が管理する街カークブルだ」
「まずいっすよ、帝国に追われるだけでも面倒なのに、教会にまで目を付けられたら姐さんやばいじゃないですか」
「教会は、ある意味帝国より厄介だからな…」
「そうっすよ、帝国から出ても教会は世界中にあるから狙われたら安全な場所なんてないっすよ」
「魔法を嬢ちゃんが止められるならそれに越したことはないが、めんどくさがってやらねえだろうな…」
「まあ、姐さんっすからね」
「ここで悩んでても仕方ねえ、誰か嬢ちゃんに教会の件も含めてひとっ走りしてくれるか」
「わかったっす! おい、みんなで姐さんを探すぞ!」
そう言って冒険者たちはミヤビを探しに街中に散らばっていったのだった。
「嬢ちゃんなら、教会を敵に回しても何とかなりそうなんだがな…」
ギルマスはそう呟くとギルドに戻っていった。
~~~~~~~~~~
ギルマスたちが心配していることも知らず、ミヤビは宿に戻ると風呂に入って汚れを落とし、ラフな格好に着替えると食堂に降りて行った。
夕方というのに食堂ではステファンがひとりでフライをあてに飲んでいた。
「はあ、こんな時間から飲んでるなんてダメ人間よねぇ」
「最初の一言がそれかよ、俺だってたまにはのんびり酒を飲むこともあるさ」
「たまには?」
「うっ…、まあたまにはじゃなくちょくちょくかもな…」
「ふん、正直でよろしい」
「で、ミヤビはどうしたんだ?こんな時間に食堂に来るなんて珍しくないか?」
「また冒険者たちがやってきたのよね。そのあとぶらぶらしてたらこんな時間ってとこ」
「ってことは、さっきのすげえ音はやっぱりミヤビの仕業だったんだな」
「仕業って、酷い言われようね。私はただ寄ってくる馬鹿をやっつけただけよ」
「まあいっか、じゃあ腹減ってるだろうし付き合わないか?」
「そうね、じゃあちょっと何か作ってもらって来るわ」
「おう、待ってるぜ」
「ミヤビ様、注文でしたら私が行ってまいりましょう」
「あら、セルジオさんいつの間に?」
「ミヤビ様に必要とされる時には、いつでもお傍におりますよ」
「ふふ、さすがセルジオさんね。じゃあ、久しぶりにドラゴンのステーキでも頼もうかな」
そう言って収納の指輪からドラゴンの肉の固まるを取り出し、セルジオに手渡す。
「よかったら、セルジオさんもどうぞ」
「それはありがたいですな、ご相伴にあずかりますかな」
「おい、ミヤビ! 俺にも頼む!」
「セルジオさんは私の為に注文に行ってくれるって言うからお礼にあげるの。ステファンは別に何もないでしょ? それにそのフライもいっぱい残ってるじゃない」
「そんなこと言わねえで、一枚でいいから俺にもステーキくれよ…」
「どうしよっかな…、まあこれが最後の機会かもしれないし1枚ぐらいならいっか」
「ん? 最後ってどういうことだ?」
「あぁ、ギルマスに街を出て行けって言われたのよ」
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