OL、召喚する
「ねえ、召喚魔法ってないの?」
その日ステファンを宿で見つけるなり、聞いてみた。
「はあ?いきなり何の話だ?」
「だから、召喚魔法よ!動物とか魔物とかを呼び出して使役するやつのこと」
「そんなの呼び出してどうするんだ?戦闘ならミヤビひとりでも過剰戦力だろ?」
「暇つぶしよ!ペットでも飼おうかと思ったんだけど毎日世話も大変そうだから、必要な時だけ呼び出せる召喚魔法がいいかと思ったのよ」
「ひでぇ理由だな…世話がめんどくさいならペットなんか飼うなよ…」
「うるさいわね、騎乗できるなら移動範囲も広がるから散歩がてら彼方此方いけるじゃない」
「ああ、移動手段の確保ってことか?それなら別に馬車でよくねえか?」
「いやよ。この間の高速馬車なんかお尻が痛くて大変だったし、乗り心地のよさそうな乗り物ってないでしょ」
「そういや俺も腰にきたもんなぁ、それでなんか乗り物代わりになる生き物が欲しいってことなんだな」
「そういうこと、あと可愛くて空も飛べるといいわね」
「はあ、相変わらず自由だよなミヤビって…」
「だって、何にもすることないもん!街の人はなんか距離感あるし、ダンジョンも飽きたし、お肉はいっぱいあるし、くっさい冒険者もやってこないし、美味しいものばっかりもちょっと飽きてきたから別の趣味を探しているのよ」
「まあそりゃそうか、ドラゴンゴンの素材で金には困ることはないだろうしな。友達のいないミヤビはペットにはしるしかないってことだな」
「なんか失礼な事言われてない?友達はいないんじゃなくて、あんな距離感で友達になって欲しくないだけよ」
「そうだな…たしかセルジオがそのあたりの話なら多少は知ってたと思うから、ちょっと聞いてみるか?」
「さすがね、困った時のセルジオさん!仕事も出来て頭もいいなんて。ね、ステファン?」
「うっせぇ、どうせ召喚魔法なんて知らないよ。役立たずですみませんね」
「どうしたの?突然拗ねられても困るんだけど?」
「お呼びですかな?ミヤビ様」
「あらっ、いいタイミングで来てくれたわね。さっすがセルジオさんだわ」
「どうせ、俺は役立たずだよ…」
「お坊ちゃま?」
「ステファンはいつものことだから放っておいて大丈夫。それより召喚魔法について教えてくれない?」
「召喚魔法でございますか?大きくふたつに分ける事が出来まして、ひとつ目は別世界や別次元からの召喚、例えば悪魔召喚がこれに該当します。もうひとつが魔物などを従属させ必要に応じて呼び出すものでございますね」
「必要に応じてってことは普段はどこか別の場所で暮らしてるってこと?」
「はい、ですのでその間に別の魔物などに倒される危険性はございますな」
「なるほどね、今のところ可愛くて空が飛べて、騎乗できるのがいいかなって思ってるんだけど、何かいい案はない?」
「ミヤビ様の騎獣という事ですか…、見た目も重視されるのであればダンジョンなどで魔物を手なずけるのがよろしいかと。別世界からの召喚では何が現れるかは召喚するまで分かりませんからな」
「そっか、なにかお勧めの魔物とかっている?」
「騎乗したまま空が飛べる魔物でございますか…、グリフォンのような大型の魔物であれば騎乗は可能かと、あとはドラゴンなどが候補ですかな。ミヤビ様ですしあまり弱小な魔物はふさわしくないかと思いますな」
「グリフォンにドラゴンか…、こんなことならエンシェントドラゴンを残しとけばよかったかな?あー、でもあいつ可愛くないからやっぱりいいや」
「さらに可愛らしいという条件ですと、毛皮や羽毛で覆われたものがよろしいのでしょうか?」
「そうね、手触りは大事よね。ドラゴンの鱗なんか硬くて肌に傷が付きそうだもんね」
「であれば、グリフォンがおすすめということになりますかな」
「こないだのダンジョンにも確かグリフォンっていたよね?」
「ええ、80階層前後に出現したと記憶しております」
「そっか、じゃあちょっと行ってみようかな? あっ、そうだ。従属ってどうやるの?」
「魔物が相手に対して完全に服従すれば可能といわれております。つまり圧倒的な力の差を見せつければよろしいかと」
「なんだ、そんなのでいいんだ。殺さない程度まで痛め続ければ従属してくれるってことね? 最悪回復すれば死なないでしょうし」
「はい、方法としてはそれで問題ないかと。ただ必ず従属するわけではございませんので、そこはある程度の見切りも必要かと思います」
「なるほど、頑固な奴もいるって感じね。了解、ちょっと行ってくるかな」
「よろしければ馬車の手配などさせて頂きますが」
「今回はいいや、馬車だとお尻が痛いし走っていく方が早いと思うから」
「走って、でございますか…」
「やっぱ、ミヤビだなぁ…」
「あれ?ステファンいたの?」
「いたわ!そもそも最初は俺と話してただろうが。邪魔したら悪いと思って話を聞いていたんだよ!」
「そう? じゃあ行ってくるね!」
「いってらっしゃいませ、お気をつけて」
「なあ、俺は放置なんだな…」
すでに数度訪れているダンジョンであるため、道は把握している。前回の高速馬車に乗っているときに走った方が早いかも?と思っていたので今回は馬車は使わずに向かう事にした。
結果、高速馬車でも2時間程度かかったのが30分も掛からずにダンジョンに到着してしまった。ただ走った跡の道が若干えぐれていたのは気づかなかったことにしようと思う。
目的の80階層に向け転移陣を使い転移する。すでに最下層まで攻略済みであり任意の階層に転移可能である。
前回はステファンとセルジオがいたため、安全確保のためにも魔法で瞬殺していったが今回はひとりなので自由に動き回れる。それに表向きはこのダンジョンの最深到達階は76階であり、80階層以降に居る限り他の冒険者に会う心配もない。誰にはばかることなく歩き回れることにミヤビは少しワクワクしていた。
(まずはグリフォンを探さなきゃね…魔物の気配はわかるけどどれがグリフォンかわかんないなぁ…。とりあえず近くのから順番に狩っていけばいっか)
グリフォンの気配の特定がまだできないため、近くの魔物から狩っていく。今回は素材回収は考えていないので、出合頭に焼き尽くしていく。
(なかなかいないわね…魔法で狩ると他の魔物が逃げて行ってるみたいなのは、こっちの魔力に気付いてるからなのかな?)
ミヤビの規格外の魔法により周囲の魔物が逃げ出していることに気が付き、剣での狩りに変更する。エンシェントドラゴンの素材により強化された片刃の剣、刀のようなフォルムに作り替えられた不壊と再生が付与されたミヤビ専用の剣を取り出して装備する。
剣術のスキルが最大値のLV10となったミヤビが、この剣を振ればどのような事が起こるかも考えずに、手ならしに軽く素振りをするとダンジョンの壁が両断され崩れ去る。本来ダンジョンの壁は迷宮をショートカットできないようにするためにも破壊不能であり、多少の傷がついてもすぐに再生してしまう。
しかし、文字通り桁違いのステータスを持つミヤビが規格外の剣を振るうことで、軽い素振りとはいえ常識を覆す一撃がダンジョンの壁を破壊してしまったのだ。
(あー、これは使わない方がいいかもね…。手加減できそうにないし従属させる前に跡形も残らないことになりかねないわ…)
結局剣による狩りは諦め収納に戻すと改めて近くの魔物に向かいだす。そして狩りを続けていくと、前回と同様に逃げた魔物が奥に集中していった。
(なんか、前に見た気がする光景よね…)
ダンジョンの奥にある広大は広間に大量の魔物が集まっていた。だが魔物はミヤビに攻撃する様子もなく反対側の壁に張り付くように密集している。
目当てのグリフォンもその一角に密集していたが、やはりミヤビから距離を取るように壁に張り付いている。
(魔物に怯えられるって、思ったよりショックよね…。でもこのまま帰るのも癪だし、目的は達成しないとね)
グリフォン以外の魔物をまずは片づけることにする。
(凍りなさい!)
ミヤビが腕を振ると、グリフォン以外の魔物たちは一瞬で氷像と化す。その様子を見ていたグリフォンたちはパニックになりその場で騒ぎ始める。
「うるさい!黙りなさい!」
グリフォンたちに向かい一喝するミヤビ。言葉が通じたのか、単にミヤビの怒りの怯えたのかすぐにグリフォンたちは黙りその場に座り込む。その姿は敵意がないことを示そうとしているかのようである。グリフォンたちが座り込んだことで、灰色の鷲の上半身を持つグリフォンたちの中に一匹だけ上位種であろうか、黄金の羽を持つ一回り大きな固体を見つけた。
そのグリフォンは鷲の部分が黄金の羽で覆われ、獅子の部分が漆黒の毛皮に覆われていた。どうやらこの階層のグリフォンのボスにあたる固体のようで、金色のグリフォンに対して他のグリフォンたちの見つめる目に敬意や畏怖が感じられる。
「あら、奇麗な子がいるじゃない!貴方こっちに来なさい」
金色の個体に対してミヤビが声をかけると、まるで言葉がわかったかのように金色のグリフォンはミヤビに向かって歩いてきた。そしてミヤビのそばまで来るとその場に蹲りミヤビに対して頭を下げる。
「ふふ、いい子ね。貴方が私の従魔になるなら他の子たちは見逃してあげるわ」
ミヤビは金色のグリフォンの頭を撫で、従属するように求めるがその言葉はまるで悪役のようだ。金色のグリフォンは怯えながらも従属の意思を示したのか周りが輝きだし、ミヤビは身体から魔力が吸い出されていく感覚に襲われる。
かなり大量の魔力が吸われたはずだが、桁違いの魔力を持つミヤビからすれば誤差の範囲に収まるものだ、輝きが収まると金色のグリフォンは立ち上がり改めてミヤビに頭を下げてきた。
『主よ、我は主に従う。だが仲間たちは見逃して欲しい』
「あれ、貴方しゃべれるんだ? いいわよ見逃す約束だしね。代わりに私の従魔としていつでも呼び出しに応えるのよ」
『もちろんだ、主との約は違えることはない』
「冒険者もここまでは来れないみたいだし、ここに居れば安全なのよね?」
『ああ、もともと我に勝てるものは少ない。主からもらった魔力でさらに強化された以上、我に勝てるものはここには存在しないだろう』
「じゃあ、普段はここに居ればいいわ。仲間たちもいるみたいだしその方が安心でしょ?必要な時に召喚するからその時はお願いね」
『お願いなどと言わず、命令すればよい。主に逆らうなど考える事すら困難だ』
「そう?じゃあ目的も達成したし、街まで乗せて行ってもらおうかな。外に出たら召喚するから用意しといてね、仲間に話もあるだろうし」
『わかった、心遣い感謝する』
「じゃあ、また後でね!」
ミヤビは金色のグリフォンに告げると、転移陣に向けて戻ることにし踵を返す。
『主!この魔物の氷漬けはどうする?』
「あー忘れてたわ。置いとくと邪魔よね?持って帰るかな」
金色のグリフォンから氷漬けにした魔物の処分を問われ、片っ端から収納していく。とはいえ手を伸ばして収納をイメージするだけなので、あれだけ大量に居た魔物も5分と経たず収納された。
「じゃあ今度こそ戻るわね」
ミヤビの収納に驚き固まっているグリフォンたちにそういうと、ミヤビは駆け出して行った。
『我が主は、規格外だな…』
ミヤビに立ち向かってくる魔物もおらず、順調に転移陣まで戻るとダンジョンから脱出する。少し歩いて手頃な広さがある場所を見つけるとミヤビは召喚を行う。
(ふふふ、初めての召喚かぁなんか楽しいわね。じゃあ、召喚!)
ミヤビが召喚をイメージすると広場の中心が輝きだし、さっきの金色のグリフォンが姿を現した。
空地とはいえ周りにはそれなりの数の冒険者がいる。突然現れたグリフォン、しかもその色と大きさから明らかに上位種とわかる魔物に人々はパニックになる。
だがそんな冒険者たちの喧騒を気にすることもなくミヤビはグリフォンにまたがり、ドルアーノの街に向かって飛び立っていった。
「一体何だったんだ…俺達は助かったのか?」
「女があのグリフォンにまたがってたってことは、召喚獣なのか?」
「まさか…グリフォン、しかも明らかに上位種だぞ…」
「あれって、ミヤビ様じゃなかったか?」
「ミヤビ様ってあの噂の人物か?」
「神の使いのような魔法を使うんだ、グリフォンぐらい従えててもおかしくないな…」
「…ミヤビ様なら仕方ないか…」
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