OL、解体を依頼する

「なあ、一応俺達はこのダンジョンの最深到達記録を更新してるんだけど報告しておくか?」

「報告すると何かいいことあるの?」


「まずは名誉だな、このダンジョンに挑んだ中で最強であることの証明だからな。

 他には、名が売れて仕官に有利だとかだな」

「なあんだ、そんなのいらないからいいや。

 せめて美味しいもの食べ放題とか、豪華海鮮詰め合わせでもあれば別なんだけどね」


「まあ、それもミヤビらしいか。じゃあ帰るとするか」



 馬車泊まりに向かうとすでに御者は準備していたようで、そのままドルアーノの街に向かうことにした。

「なあ、結局魔物はどうやって持ち帰ってるんだ?」

「内緒よ、しつこい男は嫌われるわよ」


「まあ、そこまで聞きたいって訳じゃないけど気になるからな」

「それより、この死体ってどこで買い取ってくれるの?

 あと解体とかしてくれるのかな? それにお肉は売らずに持っておきたい!」


「ミヤビってそんな食いしん坊キャラだっけ?」

「だって、色々食べたけどお肉が今一つなのよね…もし美味しいお肉なら自分で食べたいじゃない」


「ミヤビっていいとこのお嬢様か何かか? なかなかそんなうまい肉を食べる機会なんかないぞ」

「べつにお嬢様って訳じゃないわよ。こないだまで独り暮らしだったし」


「女の独り暮らしなんて珍しいな。よく無事で暮らせたもんだな…まあミヤビなら大丈夫なのか?」

「相変わらず失礼ね! 私だって可憐な美少女の時もあったんだからね!」


「ごめん、何言ってるか理解できない…」

「ほんと失礼ね!」


 帰りの馬車は行きと違ってステファンとずっと喋っているうちにドルアーノの街に戻って来た。

 最後の日は徹夜で行動したが、それ程疲れていなかったため先に冒険者ギルドによることになった。

 セルジオは先に宿にもどり、2人の帰りを待つことにするようだ。


「大丈夫か? べつに明日でもいいんだぞ?」

「ありがとう、でも大丈夫よ。ちょっと歩き回っただけじゃない」

「はあ、まあミヤビが大丈夫ならいいか」



 冒険者ギルドの入り口をミヤビがくぐると、それまでの喧騒が嘘のように静まり返る。

 (おい、姐さんが来たぞ、お前ら静かにしておけよ)

 (あれが噂の姐さんか…凄い美人だよな)

 (ばか、見た目に騙されるな! 一瞬で消し炭にされるぞ)

 ・・・


 なにかひそひそとミヤビのことを話しているのがわかると、不機嫌そうな声で怒鳴り散らす。

「あんたたち! いいたいことがあるなら大きな声でおっしゃい!

 人の顔見てひそひそって、私に喧嘩売ってんの!?」


 ミヤビが怒鳴り終わるや否やギルド内に居た冒険者たちがそろって土下座してミヤビに謝る。

「姐さん、申し訳ございません!」

「命だけは! 姐さん」

 口々にミヤビに詫びを入れる冒険者たち、その様子に笑いが止まらないステファン。

「くっくっくっ…ミヤビが姐さんか…やばい…似合い過ぎだろ…」

「ステファン…」

 笑いをこらえるステファンをミヤビは絶対零度の視線で睨みつける。


「い、いや、そうじゃなくてだな…」

「なにが、どう違うのか、ゆっくりきっちり納得いくまで説明してもらいましょうか」


「おいおい嬢ちゃん、来るたびに揉め事は勘弁してくれ」

 そこにギルドマスターが声をかけてくる。


「あら、こないだはありがとう。やっとまともな人に会えたわ」

「おいミヤビ、それじゃあ俺がまともじゃないみたいに聞こえるじゃないか」


「ええ、そのつもりで言ったから間違ってないわよ」

 ミヤビの返事にステファンは口を開けて固まる。



「いちゃつくのは一旦おいといて、今日は何の用だ嬢ちゃん」

「そうそう、ここで魔物の買取りをしてくれるって聞いたからお願いに来たの」


「量があるなら裏手に回ってもらうがどうする?」

「そうしてもらうわ、結構な量があるものね」

 そしてギルマスに続いて裏にある解体倉庫にミヤビも付いて行く。



「で、どれぐらいあるんだ?」

「そうね多いのはミノタウロスね、150体ぐらいかしら?

 あとは結構色々いるのよね、全部で2000はないぐらい?」


「はあ? 冗談じゃないんだよな。ちょっとまてその量じゃここにも入りきらん。

 横の訓練場を一時的に閉鎖して解体用に回すしかないか…それでも足らんだろうな…」

「べつに今日ぜんぶじゃなくてもいいわよ、お肉の美味しそうな奴だけでもいいわよ」


「そんな量放っといたら腐って大変なことになるぞ」

「そこらへんは多分大丈夫よ」


「まあ嬢ちゃんがそういうならそうしておこうか。

 肉が美味いと言えばミノタウロス、上位種になればさらに美味いな。

 後は竜種も美味いというが俺も食ったことがないからどの程度かはわからん」

「やっぱりミノは美味しいのね、じゃあその辺の魔物を1体ずつ解体をお願いできる?

 肉は全部持って帰るけど他の素材は買取りでお願い」


「ああ、わかった。それぐらいならここでも大丈夫だろう」

「じゃあ出していくね」

 ミヤビはそういうと収納から次々に魔物の死体を取り出していくが、

 ミノタウロス自体が巨大なため最初の10体程で解体部屋の1割ほどが埋まってしまう。


「あら、ダンジョンで見るのとここで見るんじゃ大きさが違って見えるわね。

 これだとドラゴンは無理かな…」

「おい! 今ドラゴンっていったか?」


「ええ、ダンジョンの底に居たドラゴンよ。高さは20メートルぐらいはあったと思うわ」

「嬢ちゃん一体どこに行ってたんだ? ここらじゃ北のダンジョンぐらいしかないはずだぞ?」


「ええそこよ、馬車で数時間ぐらいのとこ」

「あそこはまだ76階層までしか到達されてないはずだが?」


「そうだったの? 普通に100階まで行けたわよ」

「じゃあ、記録更新ってことか…嬢ちゃんすげぇな」


「でも面倒だから申告はしなかったわよ」

「おいおい、そりゃ困る。未到達の階層のはずがすでに踏破されてたなんて夢が無くなるだろうが」


「知らないわよ。報告しても名誉だけとか誰が欲しがるのよ」

「多分嬢ちゃん以外の冒険者は全員欲しがると思うぞ。

 まあしなかったもんはしょうがないか。それよりドラゴンだ、ぜひこの目で見たい! 横の訓練場に出してもらってもいいか?」


「それは構わないけど、騒ぎとか勘弁よ。

 私は目立たずにひっそり暮らしたいんだからね」

「ああ、すまない。何を言っているのか理解できないんだが…

 ギルドで3人ほど消滅させた上にダンジョンを踏破して、ドラゴンを持ち帰ったんだろ?

 これで目立ちたくないっていわれてもなぁ」


「べつに大した事したわけじゃないし、なんで目立つの?」

「嬢ちゃんよく聞け。普通の冒険者はダンジョンに行ってもせいぜい魔石と討伐部位しか持ち帰らない。

 それにドラゴンなんか見たら絶対に逃げる。あと魔法で人を消すようなことはできない」


「そうなの? 何でやらないの?」

「やらないんじゃなくて出来ないんだ。嬢ちゃんの能力は他の奴らよりもはるかに高いってことだ」


「そうなんだ、ずいぶん手加減したから一般人並みと思ってたけど、まだまだなのね…」

「…これで手加減してるのか…嬢ちゃん頼むから本気は出さないでくれよ」




 ギルマスのたっての願いで、ドラゴンは訓練場に出すことになった。

 ただミヤビの希望通り訓練場はその間、一切立ち入り禁止にされた。

 ミヤビは気配察知で、ギルマス以外のものがいないことを確認すると、訓練場の真ん中にドラゴンを取り出す。


「こ、これは古代竜、エンシェントドラゴンじゃないか…」

 ギルマスはそのまま固まったようにドラゴンを見つめたまま動かない。


「でどの部位が美味しいの?」

 全く空気を読まない食いしん坊キャラと化したミヤビはギルマスに詰め寄る。


「姿も完全に保たれ、傷一つない。これは解体せずにこのままオークションにかければとんでもない金額になるぞ」

「ああ、お金は別にいいからね。それよりどこが美味しいの?」


「はあ、仕方がないか…。肉が取れれば良いんだな、ではなるべく傷つけないように解体したいから明日まで待ってもらえるか?

 美味いとされる部位を切り出すにもこの巨体だ、時間がかかるのは解って欲しい」

「じゃあ、ミノだけでもすぐ解体できる? 上位種らしいのを出すからそれをお願い」


「ああ、それぐらいならすぐに出来るだろう。久々に儂が自ら解体してやるからここに出すといい」

「じゃあこれがミノの上位種と思う」


 ミヤビが取り出した上位種を手慣れた手つきで解体していくギルマス。

 30分も経つときれいな肉塊に切り分けられたものが並べられていた。


「凄い! これがプロの技ってやつね! じゃあ明日また来るからそれまでにドラゴンもよろしくね!」

 ミヤビは切りたての肉塊を収納すると笑顔で訓練場を後にする。


 そしてギルド内でまだ呆けていたステファンを拾うと宿に戻ることにした。

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