OL、またまた絡まれる…
(はぁ、どうしよう。悪いのはこの街? この国? この世界? なんでこんなに絡まれるんだろう?)
ミヤビは宿に戻ると部屋に引きこもりこれからのことを考える。
(これからもこんな風に絡まれるんだったら、別の街なりに行ってもいいんだけど、どこがいい所かはわからないのよね…
他の国の情報はギルドならわかるかもしれないけど、もう行きたくないしなあ…
職人ギルドはそういう情報はなさそうだし、冒険者ギルドなんて絶対絡まれるのが目に見えてる…はぁ、どうしようかな? )
(とりあえずお金はあるし、魔法でいろいろしてるのが楽しそうかな?
外に出ると絡まれる気がするし、しばらく引きこもって魔法で遊んでようか。
やっぱり最初はいっぱい入る鞄よね? この手の定番だし魔法で何とかできそうな気もするわ)
(でも何で鞄なんだろう? 別の空間と繋ぐんだったら鞄なんかいらないと思うんだけどな? 同じ鞄だと服に合わせてみたりとかってあきらめるのかな? )
ミヤビは部屋の中でブツブツと独り言をつぶやきながら空間魔法を使って専用の亜空間を作り、任意に接続できるように試行錯誤していく。
(なるほど、こっちの座標を固定するのに何か必要でそれがたまたま鞄だったてことね)
(それなら別にアクセサリーとかでもできそうよね。指輪とかなら無くす心配も少なそうだし…)
右手に嵌めていたファッションリング、以前ボーナスで自分へのご褒美に買ったもの、に座標固定の術式を埋め込んでいく。
(なるほど、座標が固定されているから亜空間と結び付けられて見失わないってことなのか…)
(結構簡単に出来ちゃったかも…これじゃあ引きこもりのネタにならないわ…)
(収納も出来ちゃったし、面倒だけど色々買い物しておいた方がいいわね。お金も身分証じゃなくてこっちに入れておいた方が安全かも。もし預金口座の停止とかされると大変だからね)
(あ、そういえば私って剣が使えるみたいよね? 何かスキルがあったはずだし一応剣も買っておこうかな)
(たぶん冒険者になってレベル上げとかした方がいいんだろうけど、冒険者ってなんか野蛮で臭そうなイメージなのよねぇ。とはいえ一度は冒険者ギルドに顔出してみようかな。お金の払い出しと剣の購入はやっときたいからね)
引きこもると決心したはずが、ものの数時間で再び外に向かうことにしたミヤビは、何とも思うようにいかないこの世界にストレスを感じていた。
(好きに生きればいいていわれても、なかなか思うようにいかないわね…)
時刻は昼を回ったころ、朝の早い時間から商業ギルドに行ったのが昨日のことのように感じる。
(うん! 気分一新で出かけますか! )
商業ギルドよりも大分手前に冒険者ギルドはあった。
敷地は同じぐらいの広さで、馬車置き場の代わりに運動場のようなグランドが壁に囲まれて建物の横にあった。
こちらも入り口は解放されているが、商業ギルドよりも人の出入りが多くまた、その服装もいかにも冒険者といった鎧やローブを着たものばかりだった。
(うわぁ、絶対汗臭いよここ…男臭そうだし…酒臭そうだし、帰ろっかな…)
入り口から中をのぞくと、男たちがたむろしているのが目に入る。
ミヤビから見れば、風呂にも入っていない不潔な男の集団にしか見えない。
そんな腰の引けているミヤビに背後から声がかかる。
「どうした姉ちゃん? ギルドになんか用でもあるのか?」
「え、ええ。でもちょっと入るのはどうしようかなって考えてたとこなので、お気になさらず」
親切心で声をかけてくれたのだろうことはミヤビも分かったので、心の準備ができるまではまだ入れないと適当に返事をする。
「なるほどなお姉ちゃんみたいな別嬪だと、こんなむさい中には入りたくないよな。
用事はなんだい? 問題なければ教えてくれ。窓口までなら護衛してやるぞ」
「え? ありがとうございます。預金の引き出しと装備を買うのにオススメなところを聞こうかと思ってます」
「預金の引き出しなら、入って左手の奥に居るあのちょっと髪の薄いオヤジに言えばやってくれるよ。装備っていうのは、お姉ちゃんが使うのかい?」
「ええ、剣のスキルがあるので護身用に少しいいものをと考えてます」
「なるほどな、それならギルドの裏にある武器屋に行くといい。
少し高いがものは良いのがそろってるよ」
「ありがとうございます、助かりました」
「いいってことよ、別嬪さんには親切にするもんだ。
俺はステファン、こう見えてもAランクの冒険者だ。また何かあれば気軽に声をかけてくれ」
「私はクレイシ ミヤビです、今日はありがとうございました」
ミヤビはステファンと名乗った男に頭を下げると、説明された窓口にまっすぐ歩いていく。
ミヤビが冒険者ギルドに入ると、たむろしていた冒険者たちが口々に声をかける。
「よう姉ちゃん、一緒に一杯やらないか?」
「おいおい、こっちの方が若くて男前がそろってるぞ」
「うるせぇよ、俺らみたいな渋い大人の方が好みに間違いない」
ミヤビはすべて無視して教えられたオヤジの前に向かう。
「おいおい、まさかハゲオヤジがタイプなのか?」
「姉ちゃんそれは趣味が悪すぎるぞ!」
相変わらずうるさい男たちを無視し、オヤジに声をかける。
「すみませんが、預金の引き出しをお願いできますか?」
「ん? 見ない顔だな? まあいい、身分証を出せ」
オヤジは愛想もなくミヤビの相手を淡々とこなす。
「ちょっと大金だな、ここだと面倒ごとになる。奥までついて来い」
「ええ、わかったわ」
ミヤビがオヤジについていくと、また男たちから声が飛ぶ。
「うひゃぁ、オヤジに連れ込まれてるぜあの姉ちゃん」
「さすがに趣味が悪すぎだよな」
もはや聞こえてないことにして連れられた部屋に入ると、オヤジは奥から大きな革袋をいくつか持ってきた。
「一袋に100枚金貨が入っている、数が多いからちょっと待ってな」
「すみません、お手数おかけします」
「気にするな、これも仕事だ」
そしてミヤビの目の前に30袋の金貨が置かれた。
「気になるなら枚数を確認してくれて構わん」
「いいえ、そこは信用しておきますわ」
そういって出来立ての亜空間収納に次々と金貨袋を収納する。
「おい、あんた! それはアイテムバックなのか?」
オヤジはミヤビの手に吸い込まれるように消えていく金貨袋を見て呆気に取られている。
「いいえ、でも詳細は秘密よ」
ミヤビはオヤジに微笑みすべての袋を収納し終わる。
(ふうん、収納内容もわかるのね、自分で作ってなんだけど便利なものね)
きっちり3000枚あることを確認したミヤビは礼を言って部屋を出る。
「おいおい、オヤジ早すぎだろ!」
「はははっ、ちげぇねぇや」
下品な男たちを無視してギルドを出ようとするミヤビの前に、むさ苦しい男たちが3人立ちふさがった。
「姉ちゃんよぉ、俺達が声かけてやってんだ。もっと愛想よくしたらどうだ?」
「とりあえず、許してほしかったらこっちに来て酌でもしろ」
(はぁ、やっぱり絡まれた。なんか呪われてるんじゃないかな私って…)
手を伸ばしてきた男から後ろに飛んで距離を取る。
(うわぁ、なんかこいつらすごく臭い…絶対に触られたくないな…)
「おっ、いい動きするじゃないか姉ちゃん。夜の方もいい動きで喜ばせてくれよ」
「俺達が朝まで楽しませてやるぜ!」
「いい加減にして! これ以上の侮辱は敵対行為とみなすわよ」
「みなすわよ! ってねえちゃんかっこいいなぁ」
「どんなお仕置きしてくれるのかなぁ」
「ギルド職員! いるんでしょ?
この状況で私がこいつらを殺したら罪になるの?」
ミヤビが大声を上げると、さっきのオヤジが後ろから現れた。
「冒険者同士の私闘はギルドの管轄外だ。死んだら運が悪かったってだけだな。
だがあんたは冒険者じゃないんだろ? その場合はこの馬鹿どもが一方的に悪いことになる。
もしあんたがこいつらに何かしても一切の罪には問われんから安心しろ」
「ありがとう、じゃあ遠慮なく見せしめになってもらうわ
こんな馬鹿にいつも絡まれてたら溜まったもんじゃないからね」
「へっへっへっ、お姉ちゃんはどうやって俺達を懲らしめるってんだ?
朝まで搾り取るってんなら大歓迎だぜ」
「それは俺もやって欲しいなぁ」
「さっそく宿の手配に行くか?」
(燃え上れ、屑ども! )
ミヤビは男たちに魔法を使う。
その瞬間、男たちの体内から青白い炎が噴き出す。
肉の焼ける臭いが周りに漂い始める事には、男たちは燃え尽きて灰だけが残っていた。
「なんだ、あの女何をしたんだ!」
「あいつらはこの一瞬で灰になったってのか!」
「おいおい、あの姉ちゃんとんでもないぞ!」
ミヤビはオヤジに向かって一礼すると、そのまま無言でギルドを後にした。
「お前たち、馬鹿な事を言ってる暇があるならそこの灰を片付けておけ!」
オヤジ、ギルドマスターである男が、たむろして騒いでいる冒険者に指示すると、冒険者たちは素直に片づけ始めた。
「ったく、相手の強さぐらいわかるようになれ。
あの嬢ちゃんはとんでもなく強いぞ、お前たちが全員で束になっても傷一つ付ける事はできないだろうな」
「マジっすか、オヤジさん…」
「どうせお前らには口で言ってもわからんからな、さっきの馬鹿どもに見せしめになってもらったんだよ」
「オヤジさんヒデェ…」
「俺が間に入らなかったら、今頃お前たちもそこで灰になってただろうが、そっちの方が良かったのか?」
「い、いや、それは勘弁してほしいです…」
「それに思ってた以上に気が強いし容赦がないな、お前ら絶対にあの嬢ちゃんに手を出すなよ。
死にたいってんなら止めはしないがな」
「ああ、今日ここに居ないやつにもちゃんと伝えておくようにするよ」
冒険者ギルドを後にしたミヤビは、教わった通り裏にある武器屋に顔を出していた。
「うちにあるのは実用的なものだけだ。派手なのや飾りに使うなら他を当たってくれ」
ミヤビの姿を見ると店主は冷やかしか、お飾りを探しに来たと思ったのか不愛想に追い払おうとする。
「なるべく丈夫なのがいいんだけど、簡単に折れるようなのは困るのよね」
「ふん、姉ちゃんの細腕で折れるような剣はうちにはおいてないさ。
なんなら店の裏で試しに振ってみても構わんぞ」
店主は冷やかしでないと判断したのか、それなりの対応に変わる。
ミヤビは店に並んだ剣をじっくりと見てまわるが、なかなかしっくりくるものがない。
おそらくミヤビの身体能力に耐えうる剣かどうかが、感覚的にわかってしまうのだろう。
「うーん、どれもしっくりこないなぁ。もっと他にはないの?」
「おいおい、そこらのやつも十分業物だぞ。Bランク程度なら十分な品だ。
それ以上となると奥にあるが、姉ちゃんに使えるとは思えないぞ」
「まあ、いいから見るだけ見せてよ」
「しかしなぁ、使いこなせないやつには売りたくねぇんだよ。
そこまでいうなら、しっくりこないやつでいいから裏で振って見せてくれ」
「別にいいけど、壊してもお金は払わないわよ」
「ははは、大きく出たな姉ちゃん。構わん、壊せるなら壊して見せてくれ」
ミヤビは適当に剣を取ると、店主に続いて店の裏の空き地のような場所に行く。
そこには的となる使い古された鎧などが杭に刺さって並べられていた。
「そこらの鎧を切って見せてくれるか?」
「いいけど、知らないわよ」
ミヤビは今1つなじまない剣を振りかぶり、思い切り鎧を切り裂く。
だが、ミヤビの剣速に剣の方が耐えられず振りぬいた剣は途中からぽきりと折れていた。
しかし鎧は真っ2つに切り裂かれ、後方まで剣圧により地面が裂けていた。
「こりゃあたまげたな…姉ちゃん儂が悪かった、見る目がなかったのは儂の方だったようだ。
うちの自信作をぜひ見て行ってくれるか」
「ええ、こちらからもお願いするわ」
店主は見た目と違い、恐ろしいまでの剣を操るミヤビを自信作の並ぶ奥の部屋に連れてきた。
「ここのが、儂の自信作だ。表にあるのは失敗とはいわんが、数打ちの剣だな」
「ふうん、こっちの方がしっくりきそうな気がするわ」
そこには、大ぶりな両刃の剣、標準的な両刃の剣、そして片刃の剣が並んでいた。
(なんとなく刀っぽくていいかも。私の剣のイメージって時代劇で見るような日本刀だもんね)
ミヤビは片刃の剣を手に取り軽く振ってみる。
(うん、これが手になじむ感じがするわ)
「この剣をもらうわ」
「ほう目が高いな、そいつがいちばんの自信作だよ。片刃なので売れないかと心配していたがいい持ち手が見つかったようだな
よし、さっきのわびも込みで金貨150枚のところを100枚でいい」
「そんなに負けて大丈夫なの?」
「ああ、人は見た目で分からんというのを改めて教えてもらった礼だ、気にするな」
「それじゃあこの剣の鞘と腰につるすのも一緒に貰える?」
「ああ、それぐらいサービスしといてやるよ。ちょっと待ってろすぐに持ってくる」
店主は奥の棚をごそごそと漁り、目当てのものを見つけると持ってきた。
「じゃあこれで100枚入ってるはずだから確認してくれる?」
「姉ちゃんはそんなことでだますようなことはせんだろ? 信用しておくよ。
それと、ときどきでいいからその剣を持ってきてくれ。状態を確認しておかないといざって時に使いもんにならないからな」
「ふふふ、ありがとう。
じゃあいい買い物をさせてもらったわ。また何かあれば寄らせてもらうわね」
「ああ、姉ちゃんならいつでも歓迎するぞ」
店主に笑顔で手を振り武器屋を出る。
そして冒険者ギルドの前を通り過ぎようとしたときに、ギルドの入り口で声をかけてきた男、ステファンと出会う。
「お、さっそく武器屋に行ってきたのか?」
「ええ、おかげでよい買い物ができたわ、ありがとうね」
「ふふ、そういってもらえると教えた甲斐もあるってもんだ。
そういやさっきのギルドのどたばた見させてもらったぞ、ミヤビは凄腕なんだな?」
「ああさっきのあれね、ほんとああいう馬鹿って死ななきゃわかんないのよね」
「ははは、さすがにあそこまできれいに死ねたら絡んでくることはないよな」
「中途半端より、後片付けが楽でしょ?」
「違いない。あの後ギルマスが説教をくれてたから、ミヤビにちょっかい掛ける奴はもういないだろう。
いたらただの自殺志願者だな。」
「ほんと、馬鹿に絡まれるのはもううんざりなの。まだいるならもう手加減はできなくなりそうよね」
「おいおい、あれで手加減してたのか?」
「当然でしょ? 全力でやったら街ごと消えちゃうわよ」
「それは大げさだろ…ってマジでかっ…、俺からももう一度いっておくよ、ミヤビにちょっかい掛けるなって。
さすがにこの街ごと一緒に消されたくはないからな」
「それが賢明だと思うわ。こっちから手を出すことはないと思うから、私をイライラさせなければ大丈夫よ」
「了解した。ミヤビが来たら礼儀正しくしとけってのも付け加えておくよ」
「なんかそれって、人をやばい人扱いしてない?」
「うーん、ある意味アンタッチャブルな点では同じかもな」
「ふふ、どうでもいいわ。あなたに任せたわ」
そしてミヤビはステファンを残し歩き出す、まだまだ色々と買い物に回るつもりなのだ。
「やばいってよりクレイジーだな。クレイジーミヤビってところか…」
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