OL、また絡まれる…
思っていた以上の額が付いて焦るミヤビだったが、そんなことは顔には出さずに答える。
「そうね、じゃあその金額でお願いするわ」
「お支払いはどのように致しましょうか?
さすがに金貨では持ち運びに不便ですので、いくらかは現金でお支払いし残りは預金という形でよろしいでしょうか?」
「預金の仕組みについて、教えてくれる? さっきギルドに登録したばかりだから確認しておきたいの」
「畏まりました。まず身分証をご確認ください。
そちらに商業ギルド会員の方は預金残高が表示できます。
これは本人のみ可能な機能ですので、人目の多い場所での確認は避けた方が良いでしょう。
ギルドに預金すると、その金額が身分証に表示されるようになります。
利用する際は本人が支払う意思を持って支払い装置にかざすことで、必要な金額がそこから引き落とされます。
支払い装置は一般的に普及しておりますので、店舗型の店であれば利用は可能です」
「ふうん、良くできてるわねぇ…じゃあ全部預金しておいてくれる?」
「わかりました、では金貨3000枚を入金処理いたしますので身分証を提示ください」
奇麗な係員が窓口の横にある、最近よく見る半球状の装置を指し示す。
そこに身分証をかざすと、半球が薄く光った。
「これで入金処理は完了ですので、ご確認ください」
ミヤビが身分証を確認すると、名前の下に金貨3000枚の表示があった。
「うん、ちゃんと表示されたわ」
「今後ですが、宝石はどの程度の頻度でお売りいただけますか?」
奇麗な係員が、今後の売買について確認してくる。
「そうね、大体月いちぐらいでどうかしら? あまり頻繁だと値崩れするでしょうし」
「そうですね、このサイズの宝石は貴重ですから大量に出回るのは避けたいですね」
「宝石以外で高く買い取ってくれそうな素材はない?」
「宝石以外も取り扱っておられるのですね、素晴らしいですわ。
輝石、宝石はサイズにもよりますが、高値で取引されています。
他には、鉱石の中でも貴重なものはものにもよりますが天井知らずの価値があります。
あと、魔物の素材でランクの高い貴重なものであれば、高値が付きます」
「ふうん、魔物はちょっと難しいかな? 鉱石って具体的にどんなのがいいの?
出来ればサンプルを見せてもらえると助かるわ」
「少々お待ちいただけますか。上の許可が下りればギルドに保管しているものをお見せできると思いますので」
そういって奇麗な係員は奥に向かっていく。
また手持無沙汰になったミヤビは、周りを見渡してみる。
すると、何人かがミヤビの方を向いていたのに目が合うと急に顔を逸らす。
ミヤビは気が付いていないが、さっきのもめ事を目にした者が興味本位でミヤビの後をついてきて様子を伺っていたのだ。
(なんか感じ悪いのよね…昨日といい今日といい、ここって治安が悪いのかしら? )
ミヤビは昨日門番が貴族には近づくなと助言してくれたのを思い出し、何とも言えない気分になる。
「お待たせしました、上司がお客様にお会いしたいそうなので奥までおいで頂けますか?」
奇麗な係員がそういって奥の壁に並んだ扉の方を指し示す。
「いいわよ、そっちの部屋ね」
奇麗な係員に先導されて扉を開けると、そこは高級な家具が置かれた応接室のような部屋であった、
すでに部屋のソファに妖艶な女性が座っていたが、ミヤビを見ると立ち上がり微笑みかける。
「わざわざおいで頂きありがとうございます。
私はこのギルドのマスターのカテリーナと申します。
今回は貴重な宝石をお売りいただいたとのこと、ありがとうございました」
「これは、ご丁寧なあいさつありがとうございます。
私はミヤビ、クレイシ ミヤビです」
簡単なあいさつを終えると、カテリーナの前のソファーを勧められる。
いつの間にか奇麗な係員がお茶を入れて退出していた。
「それで、鉱石のサンプルを見たいという事でしたわね」
「ええ、どうせならなるべく高く買い取ってもらえるものを用意できればと思ったので」
「貴重な鉱石を入手できるルートをお持ちなのね? うらやましいわ。
そのルートに我々も参加させていただくことはできないかしら? もちろんそれなりの額はお支払いさせていただくわ」
「それはお断りさせて頂きます」
「あら、あっさりと断るのね? そのルートを引き渡してくれれば、一生贅沢に過ごせるだけの金額は提示させていただくわよ」
「お断りしますわ」
「そういえばさっき下でもめ事があったらしいけど、貴女がその関係者よね?」
「ええ、入り口に居たコンシュルジュのような方に聞いて貰えれば分かりますが、私は依頼を受けて履行しただけですわ」
「そうなの? 相手は手足がなくなってもうまともな生活は過ごせなくなったらしいわよ。
貴方がそれをやったというの?」
「ご想像にお任せします。それで、鉱石のサンプルは見せてもらえるのですか?」
「せっかちね、そんなに焦らなくても用意させているわ」
カトリーナがそういうと、部屋の奥からトレイを持った男たちが現れた。
トレイには布がかけられ、中身を見ることはできない。
男たちは無言でテーブルの上にトレイごと並べていき、そのまま退出する。
「これらが、ここにある貴重なものから順に持ってこさせたものよ」
「見せてもらってもいいの?」
「ええ、でも条件があるわ。入手ルートにかませろとはいわない代わりに、そのルートは教えて頂戴」
「はぁ、じゃあ結構です。見せてもらえないならもう帰ります」
ミヤビは挨拶もそこそこに部屋を出ようとする。
「無事に返すと思って?」
カトリーナはそれまでの妖艶なほほえみではなく、獲物をいたぶるような笑みを浮かべる。
「はあ、黙って帰らせてくれた方がお互いの為だよ。
悪いけど敵には一切容赦しないからね」
「ふふふ、たかが小娘一人。粋がってみてもどうしようもないことがあることを教えてあげるわ」
「人の話を聞かないと後悔することになるよ、おばさん」
「そんな口をいつまで利いてられるかしら? お前たち、この小娘を捕まえなさい! 殺したらダメよ」
カトリーナの呼び声に、さっき下がっていった男たちがミヤビを取り囲むように現れる。
「このおばさんのいう事を聞いて酷い目に合うか、何もせずにどこかに行くか選ばせてあげる」
ミヤビが男たちに声をかけるが、にやにやとした嫌らしい目つきでミヤビの身体を嘗め回すように見るだけで、立ち去る様子はない。
「なあギルマス、この女を捕まえたらちょっと味見させてもらっても構わないよな?」
「こんないきのいい別嬪さんなら楽しめるってもんだな」
男たちは小娘となめ切って、すでに捕まえた後のことを考えている様だ。
「殺さなければ好きにしていいわよ。酷い目にあった方が口も割りやすくなるでしょう」
カトリーナももはや悪人
(はあ、なにこれまた絡まれるの? さっきの情報も知ってるはずなのに完全になめられてるみたいよね…)
(もうあったま来た! 酷い目に合わせてやるんだから! )
(男たちは全員焼き切っちゃえ! おばさんは人目に出られないようにしてやる! )
男たちとカトリーナに向かい魔法を使う。
その瞬間男たちは四肢を焼き切られだるまのような状態でそのまま崩れ落ちる。
カトリーナは首から上が強酸をかぶったように焼けただれ、髪を失い喉も焼けたのか声も満足に出せない状態になる。
「どうする? まだやるの?」
男たちとカトリーナは自分に何が起きたかもわからず、ただ茫然としている。
ミヤビは近くにいた男の頭を軽く蹴ると、そいつに向かって改めて尋ねる。
「どうするって聞いてるの? 口はまだ利けるはずよね?」
男はやっと状況を理解できたのか慌てて答える。
「か、勘弁してくれ! 殺さないでくれ!」
「そう? 先に手を出したのはあんたたちだってことをきっちり残しておいてもらうわよ。
それに最初に警告はしたよね、こうなったのは自業自得とあきらめなさい。
先にちょっかいを掛けたのはそっち、私を悪者にしようとするのなら生まれてきたことを後悔するような目に合わせるから覚悟しなさい!」
そういうとミヤビは近くにあった紙に、こうなったのは自業自得でありミヤビに責任はないことを書いて、カトリーナに署名させようとする。
「おdじゃうrしhさっ!」
何かカトリーナが叫ぶが、声帯と舌が焼け溶けているため何を言っているのか理解できない。
ミヤビが署名するか、このまま死ぬかの2択を迫るとやっとサインした。
「あっ、慰謝料としてこれは貰っていくわね」
ミヤビはテーブルに並べたままであった鉱石をそれぞれのトレイから摘まみ上げ、ポケットに突っ込みながら部屋を出た。
(こんな紙切れで何とかなるとは思わないけど、まあ保険みたいなものね。
それにしても、街について1日も経ってないのに3度も絡まれるなんて、よっぽど治安が悪いのね)
さすがに商業ギルドのマスターに絡まれるとは想像もしていなかったので、ミヤビはうんざりして街の散策を諦めて宿に戻ることにした。
ミヤビが商業をギルドを出た少し後。
窓口に居た奇麗な係員は、ミヤビが出て行ったあとしばらくしても誰も出てこないのが気になり、カトリーナ達の転がる部屋に入り悲鳴を上げた。
すぐにサブマスターが呼ばれ口のきけないカトリーナの代わりに、四肢を失った男たちに事情徴収する。
「つまりそのミヤビという女が犯人という訳だな」
「ああ、奴がどうやったかはわからないが間違いない」
「だがそもそもなんでそんなことになったんだ?」
「あぁ、それはギルマスがあの女の宝石の入手ルートを無理やり聞き出そうとしたのがきっかけだ」
男はミヤビに脅されたのがよほど怖かったのか、正直にギルマスの罪を証言する。
ギルマスがもはや使い物にならないというのも、男の後押しになったのかもしれないが。
「また無茶なやり方をしたのか、この人は…」
「小娘と侮っていたのは俺達も同じだが、返り討ちにあったという訳だ。
あと、今回の件は自業自得だと証文を作らされてギルマスがサインしていた」
「なんてことだ、そんなものがあればこっちに非があるのを認めたようなもんだ。
ここまで馬鹿な人とは思わなかったよ。
この被害を盾にその女に譲歩させるのはその証文がある限り無理だろうな」
「それより早く俺達を治療してくれないか?
このままでは身動きがとれん」
「なんで俺がお前たちの治療をすることになるんだ?
そもそもそんな状態から元に戻るのにどれぐらいの金がかかるかわかってるのか?」
「そんなのはギルマスから払ってもらってくれ、俺達はギルマスの指示で動いただけだぞ」
「ギルマスは、今回の件で商業ギルドの評判を大きく落とした罪に問われることになる。
当然ギルマスの地位は解任だ、全財産をギルドに慰謝料として支払ってもらうことになるだろうから一文無しだぞ」
「そ、そんな。じゃあ俺達はどうなるんだ?」
「そんなこと知らないよ、新しい働き口でもみつけて頑張るんだな。
ギルマスとの雇用契約は解任にともなって無効だ、ひとりじゃ帰れないだろうし正面に転がられても邪魔だから、スラムにでも連れて行ってあげるよ」
サブマスターはそういって男たちを外に運ばせると、カトリーナの正面に座る。
「しかし、あんたも馬鹿な事をしたもんだ。その直前にあった揉め事の情報は聞いてたんだろ?
もっと相手の力量を警戒しないと、ってもうそんな警戒は不要か? ただのおばさんになったあんたにはな」
「ふいぢあlgw!!」
カトリーナの意味をなすことのない叫びにサブマスターはにっこりと笑う。
「もはやまともに話すこともできないうえに、その醜く焼けただれた顔、もうあんたを恐れるような奴はいなくなるだろう。
まあ夜中に会えば別の意味で怖そうだがな、はっはっは!」
「うrhhらえks!!」
「すまないが何を言っているのかわからない。残念だよもうあんたと普通に話が出来ないとはな。
あんたが自滅してくれたおかげで、次のギルマスの座は十中八九俺の所に転がり込むだろう。
ありがとうな元ギルマスさん、はっはっは!」
サブマスター、カルロはカトリーナの没落を思い笑いが止まらないのだった。
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