OL、ゴブリンと戦う!

 (やばいな魔法って、もうこれだけで働かずに暮らしていけそうな気がする…)

 足元には固体魔法で創造した宝石がゴロゴロと転がっている。

 大きさもまちまちだが、大きいもので大人の顔ぐらいのサイズはある。

 元の世界に持っていけば、これだけで一生働かずに贅沢ができるだろう。


 (ちょっと調子に乗りすぎたかな…こんなにたくさん持って歩けないよねぇ)

 いつでも作れるのと、このまま放置して人目に付くリスクを考えてすべて焼却してしまった。ちょっともったいない気がするが、身動きが取れなくなる方が危険だし、誰かに見つかってもいろいろ面倒になりそうだ。



 さすがに小腹が減ってきたので、森の奥に進むことにする。

 途中で目についたものを手当たりしだいに鑑定していくのも忘れない。

 1回り大きくしたようなリンゴのような果実を見つけたときは、小躍りしそうになった。鑑定結果も食用とあるので、躊躇うことなくかぶりつく。


「美味しいっ!」

 ほのかな酸味と、口いっぱいに広がる果汁の甘さで幸せな気持ちになる。

 腰を落ち着け、3つほど食べ終わるとお腹も良い感じに膨れてきた。

 あと3つほどもいで鞄に入れると、さらに奥に向かって進んでいく。


 目的は、少し前に感じた何かの気配の確認だ。

 敵対する生物がいるかどうかは、今後の為にも確認は必須である。

 それに生き物を実際に殺せるかどうかも確認しておく必要がある。

 元の世界では、冷酷や冷淡など結構ひどいことも言われたが、さすがに生き物を殺した経験はない。


 生き物を殺すという生理的な嫌悪感に耐えられるかは、今後の生活においても確認しておくに越したことはない。


 何となく感じる気配に向かってどんどん森の奥に進んでいく。

 やがて、木々の隙間からこちらを覗き見る人型の生物を見つけた。

 すぐに鑑定をかけると、"ゴブリン"とでた。

 ステータスは私の10分の1もない程度の貧弱なものだった。


 薄汚い緑っぽい肌で、小学生ぐらいの身長。

 絶対に洗濯したことなどないであろう汚れ切った腰巻を巻いて、棍棒のような棒切れを持っている。

 (あれに触るなんて絶対に嫌! そばによるのも臭そうだし…魔法でやっちゃおうか)


 切れば色々飛び散って大変なことになりそうだから、そっと息の根を止めちゃいましょう。

 ゴブリンを指さし、その周りの酸素濃度を0に近づける。


 すぐにその場に倒れ込み痙攣しだすゴブリン。

 やがてその動きを止めて静寂が訪れる。どうやら無事に退治できたようだ。

 心配していた嫌悪感も感じない、ゴブリンが不潔過ぎたからかもしれないが…。


 鑑定によると魔石があるらしいが、あれに触れるなんて絶対に無理!

 多分はした金にしかならないだろうし、放置することに決めた。


『おめでとうございます、レベルアップしました!』


 無詠唱スキルを得たときと同じような声が頭の中に響く。

 どうやらゴブリンを倒したことでレベルが上がったらしい。


 こんなに簡単に上がるものなのかという疑問も残るが、強くなる分には問題ないと割り切ることにする。

 まずは、どの程度成長したのかを確認すべきだ。


「ステータス」

 ----------

 クレイシ ミヤビ

 転移者

 人間


 職業:勇者


 LV:1 → 2

 HP:2000 → 3000

 MP:3500 → 5000


 体力:320 → 400

 知力:690 → 750

 精神力:580 → 620

 耐久力:410 → 500

 俊敏性:570 → 620

 幸運:100


 スキル:

 言語理解

 剣術LV8

 槍術LV7

 魔力操作LV10

 全属性魔法LV10

 肉体強化LV9

 気配察知LV10

 隠蔽LV10

 毒耐性LV10

 精神耐性LV10

 空間操作LV9

 鑑定:LV10

 無詠唱


 女神の加護

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 (…なんか上昇率がおかしい気がする…)

 あのサイトの説明だと確か兵士の応募平均が50とか書いてたわよね、すでに10倍以上はあるんだけど大丈夫よね…


 (自由に生きていいらしいけど、このステータスだと一般人に紛れ込むのは無理があるわよね…。でもお風呂には入りたいし美味しいものも食べたい、このまま森でアウトドアな生活って私には絶対無理。

 よし、いっぱい手加減しておけば大丈夫…なはず、それでいこう!)


 気を取り直して、周りを確認する。

 あのゴブリンは一匹だけだったのか、他にもいる前提で考えておく方が安全と思い周囲の気配を確認する。


 (…いた…結構数がいるみたいね…)

 さらに森の奥の方で、それなりの数の気配を感じとる。

 似たような気配なのでゴブリンが集団で暮らしていたりするのだろうか?

 想像しただけで不潔そうね…近づいて臭いが服に移ったりしたら最悪よね。


 放っておくのもひとつの手だが、あんな不潔な生き物が同じ森に居ると考えただけで鳥肌が立つ。結構な数がいるから、さっきみたいに不潔な奴なら臭いが大変なことになってるかも…うわぁ想像したら鳥肌が立ってきた。


 多分大量の不潔なゴブリン、絶対に触るどころか近づくのも嫌、でもそのままにしておくのも気持ち悪い、ってところね。


 あんなのでも倒せば経験が入ってもっと強くなれる…あんまりうれしくないわね…でも強くなって損はないはずだし、手加減しておけば大丈夫なはず。


 今の私には戦闘経験が足らないのは間違いないから、それを補うためにということでやっちゃいましょうか。長距離から狙って当てる練習と思えば退屈もし無さそうだし。


 じゃあ、まずは石でもぶつけてみましょか。硬めの石を生成して…森の中だと射線がきれいに通らないのよね…好きなコースで飛ばせるのかしら?

 まずはお試しね、行っちゃえ!

 ミヤビの目の前に生成された小石が通常ではありえない曲がり方をしながら木々をすり抜けて飛んでいく。的となったゴブリンの頭部に着弾すると、ゴブリンの頭部は爆散しその場に倒れ込んだ。


 突然仲間が頭部を破裂させ倒れたことで、ゴブリンたちは敵襲を察知し騒ぎ始める。しかしゴブリンの視界には何もおらず、敵の気配さえ見つけることが出来ないため、その場で騒ぐ以外の何もできずにいる。


 (ふふふ、やっぱり頭は良くないのね。その場で伏せることもせずに騒いでるだけなんて良い的だわ…)

 ミヤビは数十の石を生成し、それぞれを別のラインでゴブリンに向って放ってみる。それぞれの石は別々の生き物のように木々をかいくぐり、別のゴブリンを確実に仕留めていく。

 50を超えるゴブリンを仕留めると、残ったゴブリンたちはパニックになったようにミヤビの方に向かって走り出した。


 (さすがに方向ぐらいは気が付いたようね。でも逃げずに向かってくるなんて、やっぱりおバカさんよね)

 再び石を生成し、もはや作業のように石を放っていく。やがてゴブリンは全て地に伏し、あたりから魔物の気配が消えうせた。


『『おめでとうございます、レベルアップしました!』』・・・・

 ミヤビの頭の中に例の声が連続して鳴り響くが、ステータスを見るとへこみそうなのでなかったことにしておく。


 ひとまず敵対しそうなものは排除したが、ゴブリンの死体の方には歩きたくない。絶対に臭いだろうし、スプラッターな現場を直視したいとも思わない。

少し大回りになるが臭いを避けて進むことにする。


 森の中心を向けさらに歩くと森の反対側に建造物らしきものが見えた。その方向を探ると大勢の人のいる気配を察知できたため、恐らく間違いなく街であろう。

 (なるほどね、あのままゴブリンの方に向かっていれば、あの建物に気が付けたってことね。なんか作為的よね、軽く戦闘させて、大規模戦闘、その後街を見つけるって…)

 少なくとも、こっちの世界に連れてきたものは、放り出して後は放置という無責任な事はしないようだ。

 今後もなにか仕掛けがあるかもしれないが、衣食住が確保できれば大概のことはこの身体能力と魔法でなんとかなるだろう。


 日が暮れる前には街に入りたかったので、不審にみられない程度の速度で駆け出す。しかし、この世界では珍しいブラウスにタイトスカートで走る姿はかなり目立ったようだ。街に近づくにつれ人を見かけるようになったが、その全員が此方をびっくりしたような顔で見てくる。


 (結構見られてるわね…服装からしてこの世界とはずいぶん違うみたいだから仕方ないか)

 街の入り口には大きな門があり、今は大きく開かれて人々が往来している。

 門の脇には番人のように2人の槍を持った男が立っていた。そちらに近づきつつ様子を見ていると、新規に町に入る場合は手続きが必要なようだ。一度手続きをすれば以降はフリーパスに見える。


 (そういえばこちらの世界の言葉がわかるわね。スキルのおかげかしら? でも言葉が通じるようで助かったわ)

 門番らしい男に近づき話かけてみる。


 「こんにちは、街に入りたいのだけど手続きをお願いできるかしら?」

 「珍しい格好だな、どこから来たんだ? 手続きには身分証明が必要だから出してくれるか」


 「身分証明は持ってないのよ、どうすればいい?」

 「怪しい奴だな、その年で身分証明がないなどどうやって暮らしてきたんだ?

  ひとまずこちらの建物までついてこい」


 「ついて行けば街に入れるのね?」

 「怪しい奴じゃなければな、俺達は街の治安を守る義務がある。

  不審者は追放するか投獄するかのどちらかだがな」


 「ふーん、どうやって怪しいかどうか確認するつもり?」

 「簡単だ、建物にあるオーブに触れればわかるのさ。

  犯罪者や悪人を判別するための魔道具だから、誤魔化しは聞かないぞ」


 「なるほど、判断基準が明確なのは良いことね、じゃあお願いするわ」

 「こっちだ、ついて来い」


 建物は門番たちの詰め所の様だった。質素なテーブルと椅子がおかれただけの殺風景な部屋であった。


 「ちょっと待ってろ」

 門番は椅子をすすめると、部屋の奥に向かう。例の魔道具とやらを取りに行くのだろう。はじめて見る魔道具にワクワクしながら待っていると、門番はすぐに戻って来た。


 「これに直接触れてみろ」

 まるで占いの水晶玉のような透明な玉を机の上に置きながら指示してくる。


 「どっちの手でもいいのよね?」

 「ああ、問題ない」

 念のため利き手と逆の左手で玉に触れてみる。

 ひんやりとしたガラスのような触感を感じるだけで何もおこらない。


 「ふむ、ここまで反応がないのは珍しいな。だが問題ないようだな」

 「これって普通は何か反応するものなの?」


 「そうだなちょっと見てみるか?」

 そういって門番が玉に触れると、酷くうっすらと玉が光った。


 「犯罪者でなくても大抵この程度は光るものなんだが、あんたはまったく反応がなかったからな。

  聖女のような清く正しい人ってことになるんだよ」

 「私が聖女? おもしろい冗談ね」


 「まあ、悪人でない事がわかれば俺の仕事的には充分だ。

  身分証がないなら作成する必要があるが、金は持ってるのか?」

 「そうね、ちょっと待ってて」

 当然この世界の通貨など持っているわけがない。

 森で訓練したときに宝石も作ったのを思い出し、スカートのポケットに手を突っ込み見えないようにして宝石を作り出す。


 「これって換金できない?」

 出来立てほやほやの宝石、適当に作った親指大のサファイヤを門番に見せる。


 「これは…ちょっとここでは買い取れんな、そんな大金はここに置いてないからな」

 「そうなんだ、じゃあこっちはどう?」

 慌ててもっと小ぶりの宝石をさもポケットから取り出したように作り出す。


 「これなら、なんとか大丈夫かもしれんが、もっとちゃんとした店で鑑定すればもっと高価になるかもしれんぞ?」

 「いいのいいの、親切な門番さんにお釣りはあげるわ。だから身分証明を作ってもらえる?」

 「釣りはいらないって。仕事柄そんな大金を受け取るわけにはいかん」

 「じゃあ、その分で色々街のことを教えて頂戴。こんな大きな街ははじめてだから色々教えてもらえると助かるわ」

 「その程度なら金など貰わんでも普通に説明するぞ」

 「ふふ、わかったわ。別に賄賂ってつもりもないし無理やり渡すのも違うと思うから、お釣りは任せるわ。

  それに、それがいくらぐらいのモノなのかあんまりわからないから」

 「どういうことだ? 自分の持ち物の価値がわからないなんて意味が解らんぞ」

 「自分で買った訳じゃないから知らないだけよ」

 「ああ、プレゼントされたってことか」

 「ええ、そんな感じよ」


 そして名前を告げ、身分書を発行してもらう。

 この街はドルアーノというらしい、身分証には発行した街の名前と本人の氏名しか書かれていない。

 これが身分書として通用することに驚く。


 「これが身分証だ、無くすなよ。

  それとこれが釣りだ。ここにある金全部だが、正直少しもらい過ぎな気がする」

 「お金を全部渡して大丈夫なの? 少し返しても構わないわよ」

 「いや、だから今でももらい過ぎなのに返してもらったりできない。

  それに後で換金に行くから、一時的に金がなくても問題ないだろう」

 「ふうん、それでいいなら構わないわ。

  それからちょっと教えてほしんだけど、オススメの宿とか食事のできるところとか、あと買い物する場所とか」

 「ああ、それぐらいなら構わんよ」


 門番は親切に色々とオススメの場所を教えてくれた。

 宿はピンキリらしく、酷いところは雑魚寝で食事もないらしい。屋根があるだけましというレベルだそうだ。

 高級なところは貴族が利用するらしく、揉め事を避けるなら利用しない方が良いとのこと。

 この街の貴族はあまり評判が良くないらしく、極力近づかない方がいいらしい。

 そしてオススメとして教えてもらったのが「金木犀の宿」と呼ばれている宿屋で、値段はそれなりだが女一人でも安全で料理も美味しいらしい。

 その宿の周辺は食事ができる店が集まっているらしく、詳しいことは宿で聞く方が確実とのこと。

 門から真っ直ぐに伸びた道路の左側が基本的に商業地域となっていて、右側が住宅街らしい。

 手前から奥に向かうほどに高級なものになっていくそうだ。

 そして道路の突き当りにこの街の領主の貴族の屋敷があるらしいが、そこにはなるべく近寄らない方がいいとくぎを刺された。

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