OL、勇者になる?魔法は楽しい!

謎の光が遥か遠くから流れてき、草原に舞い落ちてくる。

日中であったため、その輝きに気付くものもなく何事もなく時は過ぎていく。



~~~~~~~~~~



「あれ? ここどこ?」

 私は、見晴らしのいい草原を見渡す。

 右を見れば森が少し遠くに広がって見える。

 左を見ればはるか先に山脈らしきものがかすかに霞んで見えるが、見渡す限り草原が広がる。

 正面も後ろも同じく草原が広がっている。


「たしか終電に乗っていたわよね…」

 寝起きの頭で、眠る前のことを思い出そうと頭をひねる。

 服装は記憶の通りブラウスにタイトスカート、ジャケットを羽織っている。

 靴も記憶通りかかとのないローファーを吐いているし、鞄も記憶のままのショルダーバックだ。


 残業で終電に乗ったのは思い出した、電車の中でスマホを弄っていて…そうだ怪しいサイトをクリックしたところまで、そこからは意識が途切れてる。

 何の気なしに最後の記憶で弄っていたサイトを見ようとスマホを取り出すが、電波は届いていないようだ。

 サイトだけでも確認しとこうとブラウザを開くと、見覚えのない画面が表示されていた。


『ご応募ありがとうございました!

 説明通りここは新しい世界! 貴女がいた世界とは異なる異世界です。

 これからは何のしがらみも無く自由な人生を謳歌してくださいね。

 ちなみに、元の世界には戻れませんのでご了承ください。


 "ステータス"というキーワードで貴女の今の状態が確認できますので参考にしてくださいね。知力が低いと確認できないのですが、貴女ならきっと大丈夫なはず!


 魔法もある世界ですから、大暴れするもよし引きこもるもよし、貴女のやりたいようにやっちゃってくださいね。

 

 そうそう、ステータスの参考値としてこの国の兵士の応募基準を乗せておきますね。

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 LV20

 HP:500

 MP:200


 体力/知力/精神力/耐久力/精神力/耐久力/俊敏性

 上記ステータス値平均50


 スキル:2つ以上

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 一般人はこの半分ぐらいが目安ですので、参考にしてくださいね。

 

 魔法はスキルがあれば使い方は感覚でわかるはずです、わからなければ頑張って調べてくださいね。


 それでは、良い異世界ライフを!!』



「なにこれ? ふざけてるの?」

 あまりの記載内容に呆気にとられてしまう。

 この内容を信じるならここは異世界で、元の世界には戻れないらしい。


 鵜呑みにするには常識を忘れ去る必要がありそうだが、この内容をもとに考えることにデメリットはなさそうだ。

 逆に完全に無視してしまうと、今後の対応の指針が定まらないし身を守る術もない状況では命の危険さえあり得る。


 とりあえずわかりやすいところで"ステータス"とやらを確認することにしてみる。

「ステータス…」


 こんな姿元の会社の人間には見せられないな、と恥ずかしさをごまかしながら呟いてみる。


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 クレイシ ミヤビ

 転移者

 人間


 職業:勇者


 LV:1

 HP:2000

 MP:3500


 体力:320

 知力:690

 精神力:580

 耐久力:410

 俊敏性:570

 幸運:100


 スキル:

 言語理解

 剣術LV8

 槍術LV7

 魔力操作LV10

 全属性魔法LV10

 肉体強化LV9

 気配察知LV10

 隠蔽LV10

 毒耐性LV10

 精神耐性LV10

 空間操作LV9

 鑑定:LV10

 

 女神の加護

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「なんか出た…さっきのと比較すればいいのか…

 なんかおかしくない? 兵士よりもLVが低いのにステータスが高すぎない?」

 一応現代に生きる若者として、ゲームはそれなりにやってきたことがここにきて役に立つ。しかしゲームをやっていてよかったと思う日が来るなど想像もしなかったが。


 あとは、魔法か…。

 感覚でわかるって、あまりにも適当な説明だがステータスを見る限り使えるはずだと思う。


 しかし、日差しが強いのか影もないせいでやたらと暑い。

 ちょっと森まで行って木陰でゆっくり確認作業としましょうかと。


 軽く駆け出したら、思った以上にスピードが出そうになって慌てて止まる。

「なにこれ…私の身体どうなっちゃったの?」

 兵士を遥かに超えるステータスのせいか、イメージと実際の動きに大きな差が出ている様だ。

 このあたりもいろいろ確認が必要だなと、改めて森に向かって駆けだす。


 軽く1キロ以上は離れていたと思ったが1分もかからずに森にに到着した。

 まったく息も乱れず、疲労もない。

 まるで別人のような感覚、見た目は同じでもスペックが別物、普通車にF1のエンジンを積んだかのようなものだ。どこかに問題はないか、まじめに確認作業を行うことにする。


 木陰で日差しはさえぎられるようになったが、まずは水と食料の確保が最優先だ。

 残念ながら周りに川や池などは見当たらない。

 鞄には半分ほど残った水のペットボトルがあるが、とても足りないだろう。

 いくらでも水の湧き出る魔法の水筒でもあれば…とどうでもいいことを考えているとひらめいた。

 魔法で水が作れんるんじゃないかと。


 水を出す感覚というのが今ひとつわからないが、蛇口をひねって水を出すようなイメージで手を前に伸ばしてみる。

「ウォーター」

 何となく頭に浮かんだ言葉をつぶやくと、手のひらから水が流れ出す。


「おぉ~!」

 思わず声が漏れ出る。生まれてはじめて魔法を使ったのだ、何とも言えない感覚である。

 そして、この世界が異世界であることがこれで確定してしまった。

 元の世界で魔法などといえば、夢見がちなのか精神を病んでいると思われる。


 戻れないらしいし、くよくよ悩んでも仕方がないので頭を切り替える。

 思考の切り替えも、社会人としては必要なスキルだと訓練した成果がここで生きる。


 いまだ手のひらから垂れ流されている水をペットボトルに注ぎ、その後直接飲んでみる。

 人肌の温かさだが、飲料水としては十分なものだ。

 生水ではお腹を壊すというから、少しだけにして様子を見ることにする。


「次は食料だな…」

 食糧については森に入れば木の実などが手に入るかと当てにしている。

 問題は食用かどうかだが、それについても鑑定スキルが使えるのではと期待している。

 (そっか、さっきの水も鑑定すればいいんだ)


 ペットボトルをもって「鑑定」と呟いてみる。

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 ペットボトル

 異世界の入れ物、主に飲料水を入れるために利用する。

 容量は500ミリリットル

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 (いやいや、そうじゃないでしょ)

 思わず心の中で突っ込む。

 もう一度、今度は中の水に向かって鑑定する。


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 飲料水

 異世界の飲料水と、魔法によって生成された飲料水の混合物

 飲用可

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 (おぉー、すごいな鑑定)

 元々入っていた水との混合物って、かなり精度も高そうだ。

 飲用可って出たのも助かる。これで毒は避けられそうだ。


 (あれ? 毒耐性ってのもあったわよね? )

 ひょっとしてこのスキルがあれば、気にせず飲み食いできるってことかも。

 わざわざ好き好んで毒を食べる必要もないし、身を守る保険程度に考えておきましょう。



 その時、森の奥の方で何かが動いた気がした。

 何この感覚? これが気配察知ってやつなのかな?

 襲ってこなければいいけど、今は何も武器を持ってないし襲われたらやばい。


 食糧よりも先に身を守る手段の確認の方が優先順位は高そうね。

 (こんなことならもっとまじめにゲームしとけばよかったわ)

 話のタネ程度にしかやってこなかったことを反省するが、今更なのでどうしようもない。


 たしかこういうのって人型のしょぼいモンスターかスライムが最初に出てくるのがセオリーだったわよね。食用になりそうな獣だったら、なんとかしたいし。

 多分このステータスなら素手でもそこそこはやれると思うけど、素手で触るのには非常に抵抗がある。


 武器もないし、魔法で何とかするしかないか。

 火を森の中で使うなんて自殺行為よね。後は、水と風、土、光、闇…ってなんなのこの属性ってやつは?頭に浮かぶ魔法の説明が抽象的過ぎていらいらする。


 少し集中して魔法の詳細を理解しようと意識すると、属性の内容が理解できてくる。

 (これってどういう仕組みなんだろう? 思考インターフェイスなんて元の世界でもなかったわよね)


 関係ないことが頭に浮かぶのを振りはらい、魔法の知識に集中する。


 10分程経過しただろうか、大体魔法については理解できた。

 この学習方法は恐ろしく効率がいい、わからない点がすぐにフォローされるし、覚えようとしなくても記憶に焼き付いたように忘れることがない。

 (ああ、これがもとの世界で実現できたら億万長者だったわね…)

 (でも大体は理解できた、温度操作、液体操作、気体操作、固体操作っていうほうが本質的なのに、火水風土って名前は混乱させる元よね)


 (さっきはウォーターっていったけど、名前は何でもいいみたいね。

 歴史的なものと、学術的な整理のために便宜的に付けた名前がそのまま使われているだけで、本来は何でもいいと。

 でもこれって、わざわざ何か言わないとだめなのかしら? 単なるタイミング程度の言葉なら意識するだけと変わらない気がするんだけど? わからない事は試してみた方が早いか)


 さっき水を出したウォーターを無言で試してみる。

 手を伸ばし手のひらを外に向けて、心の中で水出ろって考える。

 すると手のひらからさっきと同じように水が出てきた。


『無詠唱スキルを習得しました!』


 なにか頭の中に声が響く。どうやら無詠唱スキルとやらを覚えたらしい。

 ステータスを確認すると"無詠唱"がスキル欄に増えていた。

 どうやらスキルは増えていくものらしい。


 (正直ちょっと恥ずかしかったんだよね、いい大人が「ウォーター!」とか叫んでるのは痛いと思ってしまうのは、元の世界の感覚なのかな? こっちでやってる人がいたら間違いなく笑っちゃうわよね…)


 これで恥ずかしい思いもせずに魔法が使えることが分かったので、思いつくままいろいろと試していく。


 温度変化で、絶対零度の実現や、石が融ける程度の局所的な高温の発生、ウォータージェットだったかの研磨剤入りの高圧水による切断、

 気体操作で濃度の変更や、別の気体の生成。固体操作では、石の創造と変形、金属や輝石の創造など、出来そうなことを思いつくままにすべて魔法で実現させていった。


 とにかく楽しい! 考えたことが簡単に実現できるのだ、魔法で遊ぶのなら1日中遊んでいられる気がする。

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