第28話「テメー、ずるいぞ! 一人で楽しみやがって!」
オレたちは、カクリアス、お銀さん(銀姫様)、スケさん(王国勇者のスケルディア様らしい)と合流すると、GMルームという場所に移動した。
なんとここ、ミトの私界らしい。
信じられねぇけど、こいつは私界を4つも同時に作成できるとぬかしやがった。
しかも、それらすべてが【固有私界】というものではないかと、銀姫が説明してくれた。
通常の私界は、この世界に壁を作り別の空間として切りとると言われている。
確かにオレが初めて経験した、あのメチャクチャ速く動ける転移勇者の作った私界の中は、こちらの世界と同じエイチー・ゴーヤンの館があった。
しかし、領解覚醒をした一部の高レベル勇者のみが作りだすことができる固有私界は、まったく別の空間に存在するらしいのだ。
確かにここも、王族も驚くような豪勢な部屋の中ときている。
真っ白な壁に、金装飾の柱。
それになんなんだよ、あの金銀宝石で飾られた照明は。
直視できないぐらい明るいし。
真昼の外にいるようじゃないか。
とても、ほんの少し前まで、人通りが少ない裏道にいたとは思えない。
オレたちは、フワフワのソファに腰かけた。
目の前のきれいな装飾を施されたテーブルには、湯気を立てる紅茶が注がれた高級そうなカップが並べられている。
まるで夢の中にでもいるようで、まったく落ちつかねえ。
そんな中でオレたちは、室内でも鎧を着たままのミトから今回の作戦を聞いた。
おかげで、ミトがなぜ助けるタイミングにこだわったのかと、銀姫様を連れてきたのかがわかった。
オレを「浅はか」と言った理由も納得できた。
こいつはバカだと思ったけど、本当はものを考えているのかもしれねぇな。
そしてそれが終わったと思ったら、今度はGMの心得みたいなのをさんざん聞かされた。
困っている人は助けるが、勢力争いにはかかわらないとか、私利私欲で動かないとか。
細かいことは大したことじゃないとか言いながら、これに関してはいろいろと細かいことを説明された。
「少し、わたくしからもよろしいでしょうか」
長いGM講義がおわったと確認すると、今度は銀姫様が開口した。
全員の視線が、彼女へ集まる。
「ミト様のご協力で、裏切り者の元近衛騎士勇者であるドライを取り調べたところ、とある人物の影がうかがえました。実は第一王子である弟のバックにいる妃に、入れ知恵している者がいる、ということはわたくしの方でもつかんでおりました。今回のドライの反逆も、その者が絡んでいるようなのです。ドライいわく、『あの方』と呼ばれる謎の人物が」
「ほほう。しかし、GMとして勢力争いには関われませんよ。それとも今回のことと関係があると?」
「はい。王位継承権問題の方は、瑣末なことなのでどうでもよいのです。正直、わたくしの方で、いかようにもコントロールできるよう手筈を整えております」
しれっと、すごいことを言ったぞ、この姫様。
ちょっと……いや、かなり怖いな。
「しかし、不確定要素として気にしているのは、そのいろいろと裏で動いている『あの方』と呼ばれる謎の人物なのです。なぜなら、その者はこのあたりの権力者にも手を伸ばしているという情報がありました。たぶん、先の街【タンレイ】にも、そしてこの街【モルツ】にも、『あの方』の手が伸びていると思われるのです」
「……もしや、お銀の監査の旅は、それを調べるためですか?」
「はい。真の目的はそこにこざいます。タンレイでは証拠を得る前に、ドライに邪魔されてしまいましたが、どうやら権力者たちを操り、さらなる力を得るようにうながしているようなのです」
「なんのためにですか?」
「わかりません。ただ、別の情報網から転移勇者を多く手駒にしているらしいという話も聞いています」
「ほほう。では、もしやカクちゃんたちを襲った転移勇者も……」
「おそらくは。町長レベルが転移勇者を雇うのは無理があります。転移勇者は、いわば国家戦力に数えられるほどですから、もっと上の権力が動いたと考える方が自然なのです。それから最近、モンスターの変異種が現れたり、出現地域等に異常が見られます。わたくしは、これも『あの方』という人物が関わっているのではないかと睨んでおります」
それは確かに聞いたことがある話だ。
事実、カクリアスも近くの森で、そこに生息しないはずのモンスターに襲われた。
「近衛騎士団を失ったわたくしがGMになったのは、これらの調査をする力が欲しかったからでございます」
「なるほど。納得しました。どちらにしても転移勇者が関わっているなら、GMの仕事になる可能性が大でしょう。では、さっそくそのための力をあなた方にもわけ与えましょう」
そう言うとミトは、武器や防具などのアイテムをどこからともなくとりだした。
ミト曰く、【アイテム・ストレージ】という魔法(?)らしい。
ちなみに空間を操り私界を作れる勇者だと、同じく空間魔法の【ストレージ・スペース】というのが使えるようになる。
ミトのアイテム・ストレージと同じような効果だが、何が違うのかオレにはわからない。
「さあ、それぞれ受けとってください」
ミトは各人に、それらのアイテムを配り始めた。
まあ、オレは先に受けとってたんだけどな。
まず、カクリアスは黒い金属の篭手を受けとっていた。
拳の部分までガードされていて、殴ったときに拳を痛めないし、そこらの剣ならば簡単に防ぐことができるぐらい丈夫らしい。
加えて、似たデザインの脛当ても受けとっていた。
なんでも、【ダマスクス・モンクアームズ】とかいうらしい。
ダメージ軽減効果やその他の効果があると、ミトは説明していた。
次にスケさんこと、スケルディア様は片刃で細身のワンハンド・ソードを受けとっていた。
なんでもスケルディア様が授かった国宝の剣【勇者の威光】をミトの奴は壊しちまったらしい。
とんでもねーことしやがるな、こいつは。
普通なら、重罪だぞ。
で、その代わりとして、ワンハンド・ソードを渡したらしい。
名前は、【エンハンス・ブレード】。
魔法攻撃を斬ると、その属性魔力を刃にまとえるのだとか。
スケルディア様いわく、【勇者の威光】を凌駕しているという武器だ。
王国勇者が目を丸くして驚くぐらいなんだから、すごいものなんだろう。
そして銀姫様には、魔法の杖と服が渡された……のだが、姫曰く「魔法を上手く使えないから」と服だけ受けとっていた。
服は、すべての認識を阻害し姿を隠すことができる【クノイチ装束・隠者】。
かなり布地が少なく、肌が多く露出しそうな服装だ。
見た瞬間、スケルディア様が「姫様にこのようなものを!」と怒りだすぐらいだった。
ちょっぴり脳内で着たところを想像したが……これ、下乳でるんじゃねーか?
うひょっ……って思っていたら、後頭部をカクリアスに叩かれた。
なんでこいつ、オレがエロいこと考えてると気がついたんだ?
でもまあ、銀姫様がこれを実際に着てくれるなら、想像する必要もないんだけどな。
楽しみ、楽しみ。
って思って、隣の部屋に着替えに行った銀姫様を待っていたんだが、その期待は大きく外れた。
戻ってきた銀姫様をオレもスケルディア様もカクリアスも、見つけることができなかったんだ。
すぐそばで声も聞こえ、同じ部屋にいるはずなのにだ。
しかも、たとえば銀姫様がスプーンを持つと、そのとたんにオレたちはスプーンを認識できなくなってしまうのだ。
なんでも着用者が触ったり、攻撃したりした相手にしか認識されないらしい。
誰にも見られないし見つからないならと、スケルディア様も納得した。
ただし、どうやらミトには見えるらしい。
「なんで見えるんだよ?」
「GMがプレイヤーを見失うなどということは業務上ありえないので」
「テメー、ずるいぞ! 一人で楽しみやがって!」
「楽しむ? 失敬ですね。GMの鎧をまとっている時に、そのようなやましい意識はもちません!」
相変わらず意味がよくわからないことを言う奴だ。
話にならねぇ。
しかし、見られていると気がついた銀姫様の方はたまらなかったようだ。
「ミ、ミト様……わ、わたくしの姿、本当にみ、見えていますの!?」
「ええ、もちろん」
そう言ったミトは、ある空間をジッと見つめている。
もちろん、オレたちにはそこになにも見えない。
「こ、この破廉恥な姿を……ミ、ミト様に見られている……」
「はい。しっかりくっきり見えています。ご安心ください、かなり似合っていますよ」
「に、似合っている……破廉恥な姿が……ああ、そんなこと言われて……わたくし、わたくし……」
「こら、貴様!」
スケルディア様が席を立って、ミトの前に立ちふさがる。
「姫様を見るな!」
「い、いやですわ……なんでしょう。ミト様の視線を感じると……ゾワゾワとした感覚が……」
「このような男に柔肌を見られては虫酸が走るというのも当たり前! すぐに着替えを――」
「い、いえ……むしろ、恍惚としてきて気持ちいいような……この破廉恥な姿をもっと見て欲しいような……」
「――ひっ、姫様!?」
「あははは。よきかな、よきかな」
「いいわけあるか! 一国の王女を変な性癖に目覚めさせるな!」
「いえいえ。私の世界では、わりと有名な性癖です。それに性癖差別はよくないですよ。性癖は人様に迷惑をかけない限り平等です」
「知るか、そんなこと! 見えるのは、その鎧の力なのか!? ならばその鎧を脱げ!」
「いえ、見えるのは私自身の完全サーチ能力のためです。それに今、鎧を脱いだら大変なことになりますよ」
「な、なんだと?」
「GM姿の時は絶対的完全理性が働きますが、脱いだらそうはいきません。もちろん普段からGMとして恥ずかしくないよう理性的にふるまっていますが、私も基本は普通の男性です。しかも目の前には、女神のような玉顔の下に、メッシュ生地に透ける吸いこまれるような胸の谷間、美しいラインを描く下乳、思わず悪戯したくなるおへそ、横のスリットから伸びる真っ白な
「こっこっこっ、細かく描写するな!」
「そのような興奮する姿を見せられているのに鎧を脱いだら、いくら私でも凄いことになりますよ?」
「すっ、すごいことだと?」
「ええ。鼻血が出ます」
「純情か!?」
オレは、ミトの描写だけで想像力がウッカリ暴走して鼻血を出していた。
カクリアスの冷たい視線が痛かった。
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