第27話「まるで道化のようだ」
「ジーエムになる……だと?」
「そうです。いくら私が“GM of GM”でも、一人でやれることは限界があります」
ジーエムオブジーエムというのがなにかわからないが、限界の話はわかる。
どんなに強かろうが、同時に何ヶ所かで起こる問題にはどうしても対応できない。
「そこで私は、部下を増やすべきだと考えかした。ダメ元でお銀……銀姫に声をかけたら、条件をだされましたが快諾いただけましてね」
「ちょっ、ちょっと待て! 王女を部下にしちゃったのか!?」
「まあ、そういうこともあるでしょう」
「ねーよ!」
「私は一般プレイヤー……もとい、一般人に力を与えることはできません。しかし、私のGMとしての仕事を手伝う、GM代理となるならば話は別です。GMとして生きる契約をしていただきますが、あなたにそこらの勇者となら渡り合える力を貸し与えましょう」
そう言うと、ミトは唐突に俺に向かって手を前にさしだした。
すると、その手の上に短い棒状の物が現れた。
まっすぐのびた丸棒の下部に、鍵状に丸棒がまるで枝のように生えている。
その下には、片手で持つのにちょうどの柄。
滑り止めなのか、柄は紫の紐のような物で巻かれていた。
そして柄の先端には短く紐が伸び、穴の空いた硬貨が縛られている。
硬貨は見たこともないデザインだったが、10数枚ぶらさがりかなりずっしりとしているようだった。
「そ、それはなんだよ?」
「これは、負の遺産」
「負の遺産だと?」
「そう。レベルキャップ時代に飽きてしまったプレイヤーを逃がさないため、当時の仕様でなんとか延命処理ができないかという苦悩の中で生まれたシステム……それが【アイテムレベル制】!」
「……はい?」
「某有名ハンティングゲームでは、キャラクター自体の強さはすべて装備で決まるというシンプル設計だったが、アクション系MMORPG【デーモンビースト・ハンターズ】ではレベル制で999で頭打ちとなった。その対策としてアイテムレベル制が導入されたわけだが――」
「――まてーい! まてまてまて!」
オレは、ミトの暴走気味な説明を大声で遮った。
ゲームってなんのゲームだ?
アクション?
デーモンなんとか?
なに言ってんのか、まったく理解できねえよ。
「おっと失礼。私の中のゲーマーの血が騒いでしまった。兜を脱ぐと素がでやすくなってしまうな。とにかくこれを装備してみてください」
「装備って……持てばいいのか?」
オレはミトの手から短い武器らしいアイテムを受けとった。
ずっしりと重いが、すぐに大した重さを感じなくなる。
それどころか、むしろ重さをものともしない力がわいてくるのがわかる。
「おっ……おおっ!?」
「それは【ゼニガタ十手】。アイテムレベル+20。自分のレベルを確認してみてください」
オレは握った武器を持つ手の甲を自分の方に向け、冒険者紋章を表示させてみた。
するとそこに表示された数字は……レベル71だと!?
オレのレベルは、51のはずなのに。
「レベルが上がってやがる……」
「そして他にも……」
今度はミトの前の床に、ガラゴロといくつもの防具らしき物が転がった。
指を通す紐が付いた革の篭手。
見たことのないデザインをした前あわせの蒼と白の格子模様の服。
革の膝上ぐらいまでのズボン。
真っ黒で親指だけわかれたシンプルな靴。
そして、服と同じもようのバンダナがあった。
「なんだ、これ?」
「同じく負の遺産の【オカヒキシリーズ】。これを1つ身につけるごとに、レベルが+20されます」
「まっ……まじか!? じゃ、じゃあ……」
「全部装備すれば、レベルが+120されます」
「……オレが……レベル171に……」
信じられなかった。
ありえなかった。
しかし、オレはすべてを装備してみて、それが真実だと実感した。
今までとは違う速度、力、そういったものが体にみなぎっていることを感じたのだ。
ちなみにバンダナは、髪を包んでまとめるように着けるらしい。
「すげぇ……これでオレも勇者と同じ……」
「いえ、根本的に違います」
興奮するオレに、ミトが妙に冷たい声で水を差す。
「まず、装備が外れれば、当然ながらレベルが下がります。そしてレベルが上がりましたから、あなた自身のポテンシャルは上がったことになりますが、強くなったとは言いがたいのです」
「あん? なんでだよ?」
「試しに思いっきり、ぴょーんと跳んでみてください」
「跳ぶ? 別にいいが……」
オレは脚を曲げて思いっきり跳ね上がった。
――って、跳んだというより飛んだ!?
たぶん、上に10メートル以上は飛んでいる気がする。
えっ!?
高い!
高くない!?
ちょっ、バランスがとれない!
なんか、前のめりになって……床が!
「――と、いうわけです」
オレは迫ってくる床にビビって、思わず目を瞑っていた。
だが、訪れたのは衝撃ではなく、ふわりと受けとめられる感覚だった。
はたして、オレはミトにまるでお姫様が寝室に運ばれるかのように優しく抱きかかえられていたのである。
「うわあああっ!」
オレは慌てて、ミトの腕から転がり落ちるように逃げてしまう。
なんて小っ恥ずかしいことしやがる。
……まあ、助かったけどよ。
下手すれば、頭から着地するとこだったからな。
「アイテムレベル制は、そもそもレベルキャップした高レベル者のために用意されたシステム。あなたが高レベル者の感覚に慣れるには、かなーり時間がかかるでしょう」
「な、なるほど。でもよぉ、これを着てレベル上げすれば簡単じゃんか」
「そんな甘いわけがないでしょう。さっきも言ったとおり、それはレベルキャップを迎えた者のためのアイテム。つまり、経験値を稼ぐ必要性がない者向けです。そのこともあり、そのアイテムレベルシステムが採用されているアイテムを1つでも身につけていると、経験値ははいりません」
「なっ……」
「それを身につけている限り、あなた自身はいつまでも51のままです。本当に強くなりたいなら、普段はそれに頼らずにレベル上げをしなくてはいけません」
「そ、そうか」
「さらに言えば、アイテムレベルでレベルが上がっただけなので、高レベルの魔法や技を使えるわけでもない。もちろん、勇者のようにスキルもない」
「……確かに甘くねーな」
「しかし今までよりは、かなりましでしょう」
「…………」
確かにそうだ。
なにしろレベルだけなら、カクリアスを超えることができる。
扱いきれなくても、多少はカクリアスの役には立てるじゃないか。
だけど、これは……この力は……。
「借り物の力、装備をはずせば情けない、ただの男……。まるで道化のようだ」
「ほほう。ここにも道化とかいるのですか」
「西の方にいるらしいぜ。この街にはいないけどな。……いや、今からオレがこの街で初めての道化になるな」
「ならば、もう一度、聞きましょう」
「…………」
「力が欲しいか?」
「ああ……」
「ならば、今までの生活を捨てて、私のもとでGMとして新たに生きるか、ハチベー……ではなくハーチスくん」
「ハチベーでいいぜ。今までの生活も、いじけて周りに八つ当たりしていたハーチスともお別れだ。今日からオレは、GMハチベーだ!」
オレの中に、わけのわからない存在である「ジーエム」ではなく、ミトが言う「GM」という言葉が焼きついた瞬間だった。
「……君もまた、いいGMになれそうだな。さて、戻って準備をするぞ」
「準備? なんの?」
「GMとなる彼女たちにも渡しておきたいアイテムがあるし、夜までに教えておかなければならないこともあるしな」
「ああ、作戦か?」
「いや、GMとしての心得とルールだ」
「それ、ジンさんたちを助けたあとでよくないか?」
戻った後、オレたちはみっちりとミトのGM講座につきあわされた……。
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