第14話「これ、お姫様じゃないか!」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます、ミト様。私どもにできるお礼なら、なんでもさせていただきます!」
娘を抱きかかえる母親のターエは涙とともに嗚咽をもらしている。
そして父親のジンは、俺に向かって深々と頭をさげていた。
「気にするな。食事の礼だ」
「そんな……。そもそも食事はわたくしからのお礼でしたのに、それでは意味が……」
そう言えばそうだった。
しかし、ぶっちゃけ俺は大したことはしていない。
サーチして、跳んで、取り返しただけである。
むしろ、活躍したのは……。
「礼なら彼女に。違反者を倒してくれたのは、彼女だ」
そう言って、後ろにつきそっていたカクちゃんを紹介する。
すると今度は夫婦そろって、カクちゃんの前に行って深々と頭をさげた。
「勇者カクリアス様、本当にありがとうございます」
「い、いいえ。あた、あたしはなにも……」
「まさか、ミト様とお知り合いとは思いませんでしたが……」
なんでジンがカクちゃんを知っているのだろうと思ったが、考えてみれば彼女は数少ない勇者因子をもった有名人だった。
きっと街で彼女を知らない者はいないのだろう。
やっぱり勇者は人々に愛されているのだなぁ……。
よきよき。
「今まで申し訳ございませんでした!」
と思ったら、いきなりジンが謝りだした。
って、申し訳ないってどういうことだ?
「わたくしどもは、てっきり勇者カクリアス様は村長派になったものだとばかり……」
「……へっ?」
カクちゃんもビックリだ。
「どういうことだ?」
思わず俺は横から口をだす。
「はい。実は街の噂で、カクリアス様は村長様と契約をなさったと広まっておりまして……」
「そっ、そそそそ、そんなことはありませんですます!」
慌ててカクちゃんが否定する。
そりゃそうだろう。
あれだけ嫌がっていたのに、俺が冒険者試験を受けている間に村長と仲良くなって契約していたなんてことは考えられない。
これはあれだな。
外堀から埋めてきたってやつだろう。
なかなかやることが小ずるい。
小ずるさで言えば、レアアイテムを独占してRMTで稼ぐ輩のようではないか。
「ところで誘拐犯を捕まえてあるんだが、警察に突きだすか?」
「ケイサツ? そ、それはなんでございましょうか?」
おや?
どうやら「警察」という言葉はないらしいな。
翻訳されなかったようだ。
「なら警備隊みたいなのは?」
「ああ、
「あ、あのミトさん。守護隊の責任者は町長なんです……」
口ごもったジンの代わりに、カクちゃんが教えてくれる。
なるほど。
それは確かに無意味だ。
「やはり国家監査官を自ら率先して行ってくださっている姫にでもお伝えしない限りは……」
そう言って、ジンは俺の背後を見やっている。
なんだろうと俺も振りむくと、そこには大きな絵画があった。
ここは、店とは別の玄関につながる吹き抜けのあるロビーのような場所。
俺が戻ってくると、ここで夫婦2人が待っていたのだが、絵画が飾ってある事には気がついていなかった。
「あれは?」
俺は絵画を見ながら尋ねた。
絵画にはきれいなドレスをまとった、美しい銀髪の少女が描かれていた。
「あの絵は、我が国が誇る姫であられる【カゲロナリア・ド・クガワース・エドパニア】様……通称【銀姫】様でございます」
「ほう。カゲロ……要するに銀姫様か。なるほど、姫様か……姫様……」
俺の記憶になにか引っかかる。
あれ?
うん?
どこかで見たぞ。
どこかで……どこ……あっ!
「あああっ! これ、お姫様じゃないか!」
「えっ? いや、ですから姫様ですと……」
「そうか。そういえばお姫様だったな!」
「???」
めっちゃジンとターエ、そしてカクちゃんの頭の上にクエッションマークが浮きまくっている。
まあ、そうだろうな。
この3人に事情がわかるわけがない。
彼女は、俺がこの世界に来て、初めて【GM Call】を受けとった相手だ。
しかし、しくじったな。
こんなことなら、あの時に
そうすればアポを取れたかもしれないのに。
まあ、GM業としてやっているのだから、そんなことはできないけどな。
「この銀姫様、今はどこにいるのか知っているか?」
「たぶん、隣町をまだ監査なさっていると思いますが……」
「ふむ。隣町か。……って、それはどこ?」
「馬で2~3日のところでございます。ああ、地図をお持ちしましょう。しかし、いったいどうなさるつもりで?」
「まあ、あれだ。コンプライアンスを守ってもらうためには、直属の上司に言ってもダメだってことだ。上層部が法令遵守してくれそうなら、やはり上にねじ込むか、専門部門に訴えかける」
「えっ、えーっと……?」
俺は前世で学んだのだ。
ダメなプロデューサーのために、新型インフルエンザが蔓延して無敵のGMチームは全滅してしまったのだ。
あのプロデューサーの阿久津のコンプライアンス違反を早く訴えてなんとかすれば良かったのだが……まあ、会社もそこそこブラックだったから無理だったかな。
「ともかく、俺に考えがある。ちょっと動いてみよう。で、カクちゃんにお願いがあるんだけど」
「な、なんでしょうか?」
ちょっと身構えるカクちゃん。
あんなに強いのだから、気持ちも強くなればいいのだけど、こればかりは仕方ないか。
「今は何かクエストとか受けている?」
「いえ、受けてませんが……」
「なら、悪いけど俺からのクエストだ。俺が留守の間、ジンさんたちをできるだけ守ってくれないか」
「――えっ!?」
と、驚きの声をだしたのは、なぜかジンだった。
横でターエも目をパチクリしている。
「ん? どうかした?」
「い、いやあの……勇者であるカクリアス様にクエストを依頼するということは――」
「――わかりました!」
珍しく強気の声で、カクちゃんがジンの説明にかぶせて返事をしてくる。
振りむくと、彼女は強い決意を秘めた瞳で俺を見つめていた。
「あたし、そのクエストを謹んでお受けします!」
「うっ、受けられるのですか!?」
そしてまた、なぜか驚くジン。
いったい何に驚いているのかまったく見当がつかない。
確かに命がけになるかもしれないが、驚き方がおかしい気がする。
「はい、受けます! あたし、決めました!」
「そうですか。ミト様は確かにすごい方とはいえ、今は冒険者成り立て。そのミト様からのクエストを勇者であるカクリアス様が頂くとは……前代未聞ですね」
だから、何が前代未聞だというのだろうか。
ただ、
こんなの普通におこなわれていることでは……あっ!
わかった……わかってしまったぞ!
クエストといえば、クリア後の報酬だ。
そして、彼女は勇者。
きっとその報酬額は、普通の冒険者に比べて各段に高いに決まっているではないか。
それなのに、俺は冒険者になったばかりの無一文である。
つまり……。
「カクちゃん、クエストなんだけど……」
「も、もう受けちゃいましたからね! 今さらなしはなしですよ!」
「そ、そうか……なら、悪いんだが……」
「はい?」
「クエスト報酬は出世払いとかじゃだめか?」
「……は……初めから期待していませんでしたから……」
「す、すまん……」
横であまりに見かねたジンが「わたくしどもをお守り頂けるのですから、わたくしがださせていただきますよ」と助け船をだしてくれた。
報酬も用意せずに働かせようなんてブラック企業みたいなことをしてしまった。
阿久津さんとこれでは変わらないではないか。
大いに反省することにしよう。
それはそれとして。
カクちゃん以外にもジンさんには
今度は、姫と会うために。
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