第13話「懲らしめてやりなさい!」

 ターエさんが使用人らしき女性から、なにか手紙を受けとっていた。

 それを見たとたんに、ターエさんは顔を青ざめさせて倒れそうになる。


「ターエ!」


 ジンが走りよって、彼女をささえた。

 そして手紙をターエから受けとって、彼も驚倒する。


「ちょっと見せてもらっても?」


 俺がそう言うと、ジンが震える手で手紙を此方に渡してくれる。

 手紙と言っても、B4ぐらいの紙を半分に折ってあるだけのものだ。

 そして中には、おなじみの知らないけど読める字で脅迫文が書いてある。


――子供は預かった。すぐに御用達の看板を下ろせ。そうすれば娘は返してやる。もし、警備隊に知らせたりしたら娘の命はないものと思え。


 なんと美しいテンプレ文だろうか。

 文字の形と、書かれている内容は汚いが。


「十中八九、町長……いや、ライバル会社ゼーニの手の者ということでしょうね」


「はい……」


 俺の問いに、ジンは下唇を噛みながらも答えた。


「ところで、娘さんの正式な本名を教えていただけますか?」


「え? あ、はい……【スズ・ゴーヤン】と申します」


「ふむ、なるほど。どれどれ……」


 俺は思念操作で完全サーチ機能を呼びだす。

 これは、違反者を捜すときの機能のため、世界のどこにいようと、どんな隠蔽行為をしようと、存在するならば絶対に検索することができる機能だ。

 この世界では試していないが、サーチを実行すると結果が表示される。


「えーっと……【スズ・ゴーヤン】……たぶんこれだな。状態は睡眠中、HPも減っていない。どうやら今のところ元気なようだ」


「――なっ!? ほ、本当ですか!? いったいどうやって!?」


「まあ、それは聞くな」


 説明が面倒だから。


「それはともかく、南西に動いているようだが……参ったな、地図がないと強制召集が使えないのか」


「南西……場所がわかるのですか!? でしたら、その場所にわたくしを案内して――」


「いや、俺が連れ帰ってこよう。その方が早い」


「しっ、しかし……。それでしたら、馬のご用意を……」


「いらないな。それでは遅すぎる」


 俺は近くの窓を思いっきり開け放つと、そこから庭に躍りでた。

 そして方向を確認する。


「すまんが、少し庭を荒らしてしまうかもしれない。許してくれ」


 そう言ってから俺は、脚を曲げて思いっきりそこから跳びはねた。

 たぶん、感触的に庭の土は大きくへこんだだろう。

 しかし、やはり人命救助が最優先である。


「チェーンジーエム!」


 俺は全員の視界から見えなくなったあたりでGMの姿に戻った・・・

 そう、戻ったのだ。

 これが真なる俺の姿。

 この姿になると、調子がよくなる気がする。


「さて――」


 俺はもう一回、先ほどの高さよりもさらに高く跳びあがって標的に向かった。

 あまりに高すぎて逆に探しにくいかと思ったが、わりと下の様子は視認できた。

 同時に未踏だったために存在しなかった地図が更新されて現れる。

 これでもう強制召集機能が使えるのだが、ここはやはり犯人の確保もおこなっておきたい。

 どうやらまだ彼らは走っている最中だ。

 街の外れを目指しているようで、そのあたりに隠れ家でもあるのかもしれない。


「人気がないなら、私にとっても都合がいいな……」


 落下していく途中で、目視でも犯人たちの姿が見える。

 街を守る巨大な壁の横道を走っていた。


 俺は風を体で受けたり、空を蹴ってその風圧で方向調整をおこなう。

 そして犯人たちの進行方向に落下する。


 激震する音と、激しい粉塵を巻きあげ、俺はその場に立ちふさがる。


「こんにちは。GMです。なぜ私がここに来たか、おわかりになられますね?」


「……なっ!? 貴様は!!」


 どこかで見たことあるなと思ったら、確か町長と一緒にカクちゃんを拐かしに来た3人衆である。

 その1人が、赤児と思わしき布に巻かれた何かを抱きかかえていた。

 まあ、座標も合っているので、あれが赤児でまちがいないだろう。


「あなた方がおこなっていることは犯罪です。なにか申し開きはございますか?」


「くそっ……」


 犯人のうち2人が剣を握りしめる。

 そして、1人がその剣先を赤児へと向けた。


「うっ、動くなよ!」


 犯人たちが背後を見やる。

 隣は巨大な壁、反対側は木の板の塀が走っている一本道だ。

 逃げるなら、反対側しかないわけである。


 ところが、俺にも予想外のことが起きる。


「ミ……GM様! ど、どうなさったのです!?」


 その反対側に、息を弾ませたカクちゃんが現れたのだ。

 これにはさすがの俺も驚いた。


「カクちゃん、どうしてここに?」


「GM様が跳んでいるのを見かけたもので……なにかあったのかなと」


 なるほど。

 気にしてきてくれたわけか。

 本当に優しい子だ。


「やいっ! てめーら、そこをどきやがれ!」


 そんな俺とカクちゃんのほんわかした会話を犯人の1人が無粋な台詞で邪魔をする。

 スキンヘッドが輝くリーダー格の奴だ。


「赤ん坊の命はないぞ」


「確かに、あなた方の手に赤ん坊の命はないですね」


 俺は思念操作で強制召還を【スズ・ゴーヤン】に対しておこなう。


「――なっ!?」


 それは一瞬の出来事だ。

 犯人が抱いていた赤児の姿が消えて、俺の眼前に転移してきたのだ。

 それを俺は、そおっと抱きかかえる。


 ……うん。無事なようだ。

 というか、これほどの騒ぎの中でもまだ熟睡している。

 大物になれる度胸の持ち主かもしれないな。


「ど、どうやって……」


「そういう細かい事は、事件の本質に関係ないので気にしなくていいのです。あなた方が気にするのは、これからの身の振り方。ルール違反者には厳しい処罰が下されます」


 そう脅すと、3人がそろってビクンッと体を震わせた。

 かなり怯えているようだ。


「や、やべーよ、アニキ……」


「……ちっ! 女の方だ!」


 スキンヘッドがカクちゃんに向かって走りだした。

 他の2名もそれに続く。


「――えっ!?」


 カクちゃんが慌てた様子を見せる。

 だが、きっと彼女ならできるはずだ。


 彼女のレベルは150。

 この犯人たちが逆立ちしても勝てないレベルのはずである。


 今、考えれば、森でモンスターに襲われていた時も、驚いていただけで助けなくても倒せたのだろう。

 そして彼女の家の前で、この3人組に拐かされそうにななった時も、権力の影響を考えて抵抗しなかっただけなのだ。


「彼らは赤児を誘拐する悪党です! 遠慮はいりません! カクちゃん、懲らしめてやりなさい!」


「――はっ、はい!」


 必要なのは正義という大義名分。

 それによる思いっきり。


 はたして、その差は圧倒的だった。


 武器を持つ悪党相手に、素手のカクちゃんはまさに千切っては投げ、千切っては投げの一方的な展開。

 あっという間に、3人を伸してしまう。

 しかも、漫画でよくある3人を山積み状態でフィニッシュと来ている。


 俺がやるよりは、よかっただろう。

 彼らには生きていてもらわないと困るのに、俺では下手すると殺してしまうかもしれない。


 しかし、彼女の強さも正義感もすばらしい。

 彼女はきっといいGMになれる。

 うーん。ちょっとスカウトしたくなってきたぞ。


「ジ、GM様、これはいったい……」


「いろいろありましてね。あとで説明しますよ」


「は、はぁ……。あっ! というか、冒険者登録は無事に済んだんですか?」


「ええ、無事に……って、やはり私がミトだとばれています?」


「あっ! す、すいません! バレてません! バレてませんよ!」


「い、いえ。もういいですよ。さすがに気がつきました……」


「ご、ごめんなさい……気がついちゃって……」


「謝らないでください。優しさが痛いです。……それよりバレてしまっているんでしたら、話が早い。この際ですから、カクちゃんにも一枚噛んでもらいましょうかね」


「あ、あたしで力になれるんでしたら、なんでもお手伝いします!」


「ありがとう」


 前のめりに真摯な目を向けてくる。

 本当にいい子である。


「あ、あのぉ……ところで、この人たちはどうするんですか?」


「ああ、こうします」


 俺はパチンッと指を鳴らす。

 すると3人の姿はスパッとその場から消えてしまう。


「こ、これは……」


「ある所に閉じこめておきました。絶対に出られない場所にです。それはともかく今は、この子の親を安心させてあげなければね。ちょっとつきあってください」


「は、はい! お供します!」


 俺はカクちゃんとともに、ゴーヤン家に空間転移をおこなった。

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