第12話「天より与えられた職務がある」
なんだかんだと、もめたり、バトルしたりしたが、俺は無事に冒険者登録ができることになった。
最後にステータスが異常すぎるからと、勇者の印たる勇力因子とかいうのがないか調べられたが、因子はなしと診断された。
そして勇力因子がないと、レベル100以上の勇者用測定は行えないそうだ。
まあ、勇者じゃなくGMだからな。
本来、俺は世界の
ちなみに冒険者証とかもらえるのかと期待していたら、なんかよくわからない魔法をかけられて終わりだった。
なんでも魂に刻印が刻まれるらしい。
自分の意志で体の好きなところに、冒険者の紋章とかいうのを表示できるそうだ。
試しに掌に出ろと念じてみたら、冒険者である証明とレベル99という表示が俺の知らない文字で現れた。
これもやはり勇者と違う仕様で、99までしか出ないらしい。
まあ俺からしたら、99だろうが100だろうが999だろうが、些細な違いだ。
俺は冒険者ギルドを出ると、その足で
さすがに一本道のおかげで店は簡単に見つかった……が、俺が想像していた見た目と違っていた。
木造の長屋で間口の中心にのれんでも垂れさがっているのかと思ったが、ごく普通の煉瓦とモルタル作りの4階建ての建物だ。
1階は店舗を兼ねているのか、中に入ると俺にはよくわからないが織物がたくさん飾ってあった。
店の人に話をして若旦那を呼びだしてもらうと、ほとんど待たずに【ジン・ゴーヤン】が中から現れた。
挨拶をして、「1級冒険者になった」と告げたら、そのことについても非常に驚かれた。
勇者以外でいきなり1級になった冒険者はいないという。
一応、冒険者のルールや心得はギルドで教えてもらったが、級によって受けられる仕事に制限があるらしい。
この制限がなくなるのが、1級ということなので、俺は受けられない仕事はないということになる。
これは働くのに便利だろう。
「ミト様、ぜひわたくしにお祝いをさせてください。先ほどのお礼もかねて。さあさあ、奥に」
そこからは本当に大歓迎だった。
中に入って少し遅い昼飯を用意され、酒をふるまわれた。
給仕とかが立っていてもおかしくないお屋敷の部屋だが、人払いをしていたせいで主たるジンさんが直接、酌をしてくれた。
「ミト様に依頼したい旨がございます」
期待していた和風家屋でも、和食でもなかったが、出てきた料理を楽しんでいるとジンがそう切りだしてきた。
ちなみに飯は、シチューやらステーキやらサラダやら魚の焼き物やらと出てきたが、わりと普通だった。
いや、正しく言えば知らない名前の野菜もあったし、肉もなんの肉なのかよくわからなかったし、魚も見たことのない形だったが……細かい事はいいだろう。
うまかった。
その事実があればいい。
「依頼か。まだ冒険者初心者だから難しいことは……」
「内容は簡単でございます。我が家の用心棒をやって頂きたいのです」
「用心棒……。もしや、町長からのですか?」
「はい。しばらくの間で良いのです。姫様がこの街に来るまでの間で」
「姫様が来るまで?」
「はい。各街を監査している姫様が来れば、わたくしどもは姫様に訴えようかと思っております」
「証拠とかは?」
「あいにく証拠は……。ただ、町長の脅しに屈せず証言してくださる方はいらっしゃいますから、それでなんとかならないかと……」
「状況証拠だけか……それは難しいかもしれないな。それに……」
俺は依頼の返事に窮する。
困っている人を助ける事はわりと得意だ。
俺が力になれるなら、それは袖振り合うも多生の縁というやつだ。
しかし、だ。
俺にはGMとしての使命、いや宿命がある。
【GM Call】が鳴り響くとき、俺は本能的に駆けつけてしまう。
もちろん、仕事にプライオリティはつけるべきだ。
目の前のピンチを見捨てて、次の仕事に移動することはしないだろう。
逆に言えば、目の前にピンチがなければ呼びだしに応じてしまう。
しかし、それでは用心棒として成り立たない。
用心棒なら、ひとときも守る者の側を離れるわけにはいかないからだ。
「俺には、ある天職……天より与えられた職務がある」
「天より……それはまさか、一部の勇者様方のように、女神様からの啓示を受けていらっしゃると言うことでしょうか?」
「お、おう。そんな感じ……だな」
まあ、勇者たちがどんな啓示を受けているのか知らんのだが、大雑把に言えばそういうことだろう。
こういう時は、
「これはここだけの話にして欲しいのだが、俺はたまに助けを求める人の声が頭に響くことがあってな。これはたぶん、神から与えられた使命で『その声に応じよ』と言われているんだと思っている」
「なっ、なんと……。では、ミト様はもしや運命の女神【アスリンク】様の使徒でもあられると。つまり、アスリンク様が回す
前世から考えると、「運
まあいいか。
「ざっくりと言うとだいたい正しい。というわけで、俺はつきっきりというわけにはいかない。だから、仕事は受けられない」
「そ、そうですか……」
「ただ、しばらく身を置いておく部屋が欲しい。たとえば、この家の寝泊まりできる場所……物置などを借りられぬだろうか。その間、俺が目の届く範囲でなにかあれば、宿代として手助けさせてもらおう。姫とやらがくるまでの間ぐらいでいいのだが、俺の頼みを聞いてもらえないか?」
「そ、それは願ってもない……。しかし、それで依頼料は……」
「いや、用心棒として役割を約束できない以上、金などもらえない。寝場所さえあれば、俺としても助かる。それにその間、暇があれば町長の尻尾をつかむ努力もしてみよう」
「ミ、ミト様……。ありがとうございます。それでも結構です。それではさっそくご用意を――」
20畳ほどはありそうなダイニングに、ノック音が響いた。
「なんだ?」
「デザートをお持ちしました」
「おお、ターエか。ちょうど良い。入れ」
ジンさんの言葉で、ドアが開く。
そこに現れたのは、黒髪を結い上げたなかなかの美人。
少し垂れ目気味だが、そのおかげで優しそうなイメージがある。
年齢はたぶん、ジンさんと同じぐらいだろう。
「わたくしの妻で、ターエといいます。ほら、ターエ。こちらが、ミト様だ」
「夫をお助け頂きありがとうございます。ターエと申します」
非常に慇懃な挨拶でしっかり頭をさげられる。
丁寧な挨拶には、やはりこちらも礼をもって返さなければならない。
昔、ゲームプロデューサーの阿久津も言っていたっけ。
そう言えば、あの社畜推進をしていた悪の権化は、たまにいいことを言って人を誑かすのが上手かったな。
口が達者で、人のコントロールが非常に長けていたのだ。
うーん。思いだしたら腹が立った。
どうせ死ぬなら、その前に一発殴っておけば良かった。
そんなことを頭の隅で考えながらも、席を立って頭をさげる。
むかつく奴の言葉だったが、挨拶が大切なことは同意だ。
「初めてお目にかかります。私はミトと申します。本日、冒険者になったばかりのかけだしですが、以後お見知りおきを」
「お聞きしております。冒険者登録おめでとうございます。本日の料理はいかがでしたでしょうか」
「ええ。大変おいしく――」
「――奥様! 旦那様!」
突然、廊下から女性の者らしき大声が響いてくる。
「これっ! お客様の前ではしたないですよ」
「も、もうしわけございません! しかし、大変なのでございます!」
扉の向こうでよく見えないが、ターエの横まで誰かが走りよってきた。
その者はかなり慌てていたのか、ものすごく呼吸を乱している。
「申し訳ございません……」
ターエが頭をさげながら扉を閉めようとする。
「どうしたというのです?」
だが、その手が途中で止まった。
「お嬢様が……お嬢様がベッドから消えて……誘拐されてしまったようなのです!」
「――なんですって!?」
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