第9話「俺は孤独な彷徨い人……」
俺は仕事を探すために、冒険者ギルドに向かってみた。
まあ、手っ取り早く仕事に就くならやはりこれだろう。
なんというか、ちょっと懐かしい気分だ。
もともと俺もゲーマーだった。
だから、当初は自分もゲーム自体を楽しんではいたが、途中からGMの仕事が忙しくなり、GM管理者になってからはゲームどころか日常生活さえ危うくなっていた。
そのためだろう。
これからまた冒険者になるという事実に、今の俺は妙にウキウキとしていた。
「ここは……かなり違うな……」
街の様子は、やはり中世ヨーロッパ……という感じではない。
もう少しスチームパンク感があると言ったらわかるだろうか。
木造もあれば、煉瓦の家のようなのもある。
はたまた、コンクリートかモルタルの家まである。
そして蒸気機関車みたいなのが走っていたり、なんかの工房ではなんかの機械らしき物が稼働していた。
本当にここはどこなんだろうな……。
改めて周りを見ると、忘れていたことを思いだす。
よくわからない、俺の知らない世界。
そんな世界でこれから先の道もわからず、俺はひとりぼっちで歩いている。
「俺はこの世界で、孤独な
少し不安になって、思わず独り言ちた。
「ふっ。本当に
世界レベルと言うより、街レベルで彷徨い人だった。
カクちゃんから道を聞いていたのだが、よくわからなくなっていた。
どうやら自分が行った場所から100メートル範囲はマップが作られるのだが、まだギルドがでてこない。
それに【GM Call】時と違い、AR型ナビも働かないときている。
まあ、確か北の方に行けばいいと言っていたはずだ。
ってか北とかあるんだな……と思ったが、そういう細かい話はおいておこう。
まずは、ギルドにたどりつかないと、このままでは明日の食事にさえ困る始末だ。
誰かに道を聞いてみるか。
と思っていたら、いきなり【GM Call】が表示される。
しかも、すぐ目の前だ。
俺がいるのは、露天がいくつか並ぶ大通り。
けっこう人通りがあるのだが、そのど真ん中で争いごとが起きていた。
「――ぐはっ!」
20代後半ぐらいの男性が、殴られて地面に転がった。
着ている服は、ちょっと刺繍のこった、腰ぐらいまでの白い貫頭衣だ。
しかし、今はすっかり汚れてしまっている。
「ふざけんなよ、こら!」
怒声をあげたのは、その彼を囲んでいた5人の男の1人だった。
そして仰向けに倒れた男の茶色いズボンに、蹴りを入れる。
どうみても1対5で、しかも5人の方は見るからに柄が悪い。
もちろん、見た目だけで判断はしない。
なにしろキャラクター作成は個人の好みがでるので、たまに変態的なカッコをしている者もいる。
たとえば、上半身裸で下半身にスプリガルと呼ばれる金属パンツだけで集会をする者たちなどだ。
確かに彼らは変態っぽかったが、困っている冒険者を助けるというすばらしい行いもしていた。
もしかしたら、あの5人も悪人を退治しているのかもしれない。
ただ、さすがに一方的すぎる。
それに気になるのは、周りの者たちが見て見ぬフリをしているところだ。
本当にあの5人が正義の味方であれば、周囲の反応は違うはずである。
「あいや、待たれよ」
俺は思わず歩みよって声をかけた。
本当はGMとして割りこみたかったが、あまり目立つのも良くないと学習したので素のままの自分で行くことにした。
レベルを見るからに、素のままでもまったく問題ないだろう。
「なんですかぁ~、ちみはぁ~?」
5人のうちの1人が、背中を丸めて下から舐るように見上げてきた。
「こんにちは。ジー……ではなく、ミトと申す者。君たち、なにをやっているのかね?」
俺が割りこんだとたん、周りの人たちがざわめいて距離を取り始める。
蜘蛛の子を散らすように、大通りから人影が消えていく。
「見ない顔だな。オレたちに口出しするとは、とんだ世間知らずだぜ」
「世間知らずかもしれんな。だから、とりあえず教えてくれ。この倒れている人はなにをやったんだ?」
「あ~ん? こいつはオレ様にぶつかって来たんだよ! おかげで肩の骨がいかれちまったぜ!」
丸坊主の男が左肩を押さえながら、そう言った。
しかし、それは嘘だろう。
だって、さっき動かしていたのを見たしな。
つまり、そういうことだ。
「ふむ。左肩の骨がいかれたか……どれどれ」
オレは無造作に丸坊主に近寄った。
「あ~ん? なんだてめ……」
すると丸坊主が右手でオレの襟首を握り、締めあげる。
しかし俺はそれを無視して、デコピンの要領で彼の左肩に指を撃ちこんだ。
「――うぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
左肩から背後に飛びながら地面で悶え始める。
指先に骨が砕けた感触が伝わった。
「なるほど。確かに左肩の骨がいかれているな」
「きっ、貴様ああぁぁぁ!」
別の男が殴りかかってきたので、小指の先で受けとめた。
そのせいで拳を作っていた男の指が折れて血しぶきが上がる。
「あひいぃぃぃぃっ!」
痛そうな悲鳴をあげて、2人目も倒れる。
「てっ、てめら、やっちまえ!」
1人が剣を振りおろしてきたので、正面から殴ってへし折ってやった。
1人が大盾を正面に構えて突っこんできたので、拳で盾を突き破ってふっとばしてやった。
1人が単発銃を撃ってきたので、飛んできた弾を言葉通り爪弾きにしてやった。
「おっ、おっ、おっ……覚えてろよ!!」
まさに赤子の手をひねるよう。
俺が一通りあしらうと、5人は一目散に逃げ去っていったのである。
しかし、素敵な捨て台詞だ。
実際に聞くことになるとは思わなかった。
覚えていろよ……か。
ふっ。
すまん。
自信がない。
でも、あれだ。
ログレコーダーに記録が残っているから、いざとなればそれで思い出せるはずだ。
それで許してくれ。
「大丈夫ですか?」
俺は倒れている優男に手を伸ばした。
その手をとりながら、彼は少し弱々しい声で礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
金髪碧眼のなかなかな二枚目だ。
しかし今は、顔に大きなアザができている。
「このままでは、どんどん腫れてきてしまうな。ちょっと待っていなさい」
俺はアイテム・ストレージから、掌サイズの白いボールのようなものをとりだした。
それを彼の近くで握り潰す。
すると、きらめく緑と青の粉が舞い上がり、彼の体の傷を一瞬で癒していく。
見る見るうちに、彼の顔の痣も消えていった。
よかった、よかった。
ここでもちゃんと使えたようだ。
「こ、これは!?」
「ああ。これは【ヒール・パウダー】という一般的な回復薬だ」
「一般的!? こんな凄いアイテム、見たことありませんよ!? 魔法の回復薬と言えば、液体の飲み薬しか……。これはいったい、どこで手にいれたのですか!?」
どこでと言われても困る。
俺がGMをしていたゲームでは誰でも手にいれることができるアイテムだ。
GMは必要に応じて使えるようにアイテム・ストレージに常備しているし、使っても消えない仕様になっている。
実際、今もヒール・パウダーの数は減っていない。
ちなみに俺がGMをしていたゲームにも、液体タイプはある。
だが、飲むのに時間がかかるため、高レベルになるほど使わなくなる。
高レベルになれば、少し高級だが1粒だけ呑みこめば全快する丸薬タイプのアイテムをよく使うようになってくるのだ。
「まあまあ、そんなことより今は貴方の体の心配です」
でも、そんなことを説明するのは、ぶっちゃけ面倒なので話をそらすことにした。
「あっ、す、すいません。お礼もまだでした。本当に助かりました」
狙い通り話がそれて、彼が深々と頭をさげる。
「わたくしは、ちりめん問屋を始め、鮮魚や石炭なども取り扱う総合商社【エイチー・ゴーヤン】の【ジン・ゴーヤン】と申します。あの、よろしければ貴方様のお名前をお聞かせください」
「私はミト。通りすがりの冒険者(予定)です」
「かっこよてい? ああ、予定ですか。もしかしてこれから登録に?」
「ええ、まあ。それよりさっきの彼らは?」
「ああ……。彼らは【ドラゴンタイガー】というグループのメンバーです。アウトローな冒険者集団ですよ」
「アウトロー……。いつもあんな感じなのですか?」
「というより最近は、わたくしどもが狙われていまして……」
「狙われている? わたくし
俺の質問に、ジンと名のった男は周囲を気にしてから顔を寄せて小声で話す。
「ドラゴンタイガーは、我が社とライバルの廻船問屋を主な生業にした総合商社【ゼーニ】とつながり、我が社に嫌がらせをしているので御座います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます