第5話 夏のプールと望まぬ再開

夏休みとは天国と地獄が合わさったものだと徹馬は言った。休みが多い天国と課題という名の地獄が合わさったものだと。

僕はそうは思わなかったが・・・。

そんな夏休みの最初の土曜日、僕たちは、プールに来ていた。

「お待たせー。」

「お待たせしました。」

美菜は、黄色のビキニスタイルだった。思っていたより大人っぽい。

蛍は白のフリルがいっぱいついた水着だった。

おどおどしているからか、小動物感が増した気がする。

「まずはなにしようか?」

「まずはスライダーでしょ。」

そういう美菜の言葉にしたがって僕たちはスライダーに行くことにした。

「こちらのスライダーは2名ずつでお願いします。」

スタッフに言われて 組み合わせを決めることになった。

「わたし 徹馬と乗る!」

美菜は徹馬の腕に絡み付きながら言う。

クソー、言いづらくなってしまった。

「おぉーいいぜ、じゃあ俺ら先に行ってるな。」

そういうと、二人はスライダーに乗って行ってしまう。

「じ じゃあ僕たちも行くか。」

「そうですね。」

「それでは、お二人さん 行ってらっしゃい。」

背中を押されて滑り始める。

スライダーというのは初めて乗るが、スライダーはとても早かった。

体感的にジェットコースターくらいに早い。

人気だったため 結構並んだが滑るのは一瞬で僕たちはプールにダイブした。

「「あーあ びっくりしたぁーー。」」

プールから顔を出した第一声が完全にダブり思わず二人で吹き出してしまった。

あぁ、楽しいな。そう思えた。

しかし、楽しいことだけでは終われないらしい。

それはお昼時に起こった。

お昼を買いに行くジャンケンが行われて僕と徹馬が行くことになった。

まぁそこまではいい。

順調に買い物を済ませて戻ろうかとなった。

「わり ちょっとトイレ。」

「先に戻ってるぞ!」

この時僕は待っておくべきだった。

「やめてください!」

戻ろうとしたとき、聞き覚えのある声が聞こえた。

「いいじゃん。俺たちと遊ぼうよ。」

・・・あーあ めんどくさ!

助けに行かないとなぁー。

僕は、彼女たちの所に行く。

「あのー この子たち僕の連れなんで、ここは引いてもらえませんかね?」

「アァーン、はっ。」

イラって来た!

勝手にキレて 笑って来やがって。

「こんなもやしっこより俺たちの方が君たちを楽しませれると思うけど。」

「こんなもやしっこが来るくらい嫌がってんのが見えねぇーのかよ。」

「アァー!」

あぁーこれはヤバイやつだ。

「てめぇー!」

ナンパ男が手を振り上げる。

ねぇーなんでこんなに短気かな。

僕は目を瞑る。

ただその拳は僕に届くことはなかった。

「私の弟なんだ。手出し無用で頼むよ。」

どこかの火の拳使いの台詞を吐く声。

僕はその言葉に震えた。

「誰だてめぇ。」

「おや、わたしを知らないのかい?」

そういうとその人は携帯を取り出した。

「私は美菜川華絵 今話題のアイドル声優さ。」

美菜川華絵 本名 川美華菜絵 現在20歳

17歳のときにデビュー

その容姿からアイドル声優なんて言われている 。

そして、僕の実の姉でもある。

「で、君だ。人前で暴力は行けないな。それに女の子に嫌われる行為をするのも感心しないな。」

男は周りを見る。さすがに自分自身の現状を理解したらしく

「くっ。」

どこかに行ってしまった。

「さてさてお嬢さん方、怪我はないかね?」

「はい、大丈夫です。」

美菜が答える。

「水雅君?」

僕はというと、蛍の後ろに隠れブルブル震えていた。

「水雅 ちょっとこっちに来な。」

「は はい!」

僕は恐る恐る近づく。

「何をしているのかな。」

「いや あの その。」

怖い

「これは矯正が必要だね。」

「あの、勘弁してください。ゆ 許してください。」

あれはもう一種のトラウマとも呼べるものだ。

僕は姉の川見華菜絵からずっといじめに近しいいじりを受けていたのだ。

一人暮らしのために家を出て安心していたのに、なんでこんなところにいるんだよ。

助けて

「水雅君が困ってます!」

救いの手が差し伸べられた。

「おや、君 名前はなんだい?」

「初めまして、私は水瀬蛍と言います。」

正直驚いた。だってあんなにおどおどしていて人見知りの激しい彼女があんなに堂々としているのだから。

「これは家族の話さ。君には関係ない。」

「それはそうかもしれません。でも、水雅君が困っている、それだけでも私は助けたいと思います。」

嬉しかった。そんなことをいうひとなんか普通いないだろ。

「ふーん。」

姉さんは一瞬何かを探るような目をして、

「君は一体水雅のなんなんだい。」

「えーとその。」

蛍はその質問から途端に口ごもる。

「答えてくれよ。」

「私は 私は。」

助けないと。

僕はそう思った。そしてそのまま。

「こらー、華絵!またどっかに行って。」

「げっ!佳代ちゃん。」

再び救いの手がやってきた。

それは、美菜川華絵のマネージャーの千石佳代さんだった。

「佳代さん、お久しぶりです。」

「あら、久しぶりね。水雅君。ごめんねー、お姉さんすぐに連れて帰るから。ほら!行くよ!」

「許してくれよ。佳代ちゃん。」

「いいえ!許しません。」

そういうと、姉さんを連れていってくれた。

「た 助かったぁー。」

ホッと一息つくことが出来た。

「あの、その ありがとう 蛍。」

「い いえ 私は全然で。」

いつもの蛍に戻ったようだ。

「お待たせーーってどうしたんだ?」

本当に、間の良いと言うか悪いと言うかのタイミングで徹馬が戻ってきた。

ただ、ひとつ気になった。

姉のあの質問

「君は一体水雅のなんなんだい?」

蛍はすぐに答えを出さなかったけれど、なんて言うつもりだったのだろうか?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る