第四章 成長
「いやぁ、楽しかったぁ。あんだけうめぇ団子を食ったのははじめてだぁ。ほんっとにありがてぇ。」
長助はすっかり元気になり、桃太郎とおばあさんへ深々と、決して上手とは言えないお辞儀をした。
「いえいえ、長助さんが元気になってよかったです。最初、目の前で倒れたときはどうなるかと思いましたよ。」
「オラは桃太郎のことを勘違いしてた。いや、オラだけじゃねぇ。村のみんなも桃太郎を変なやつだと思っとる。こりゃあ、正さないといけねぇな。」
「いいですよ、そんな。恩義なんて感じず、ぜひ友達になりましょうよ。」
「なに言ってるだべ!オラは悔しいんだ。こんなにも優しい桃太郎が悪く言われてることが。なにより、オラもそう思ってた。これはオラの罪滅ぼしだ、伝えるだけ伝えさせてくれねぇか。」
「そこまで言ってくれるのなら、甘えますね。」
「まかせとけぇ!オラはこう見えて村じゃ人気もんなんだ。」
そう言って長助は、大股で桃太郎の家を後にした。途中、何度も何度も振り返り、シワシワの笑顔を振りまいて。
「ほんと、よかったよ。桃太郎、あんたでかしたよ。さすが私の子だね。」
「おじいさんとおばあさんに育てられましたから、当然ですよ。それにしても心配ですね。今は赤鬼が来て村はめちゃくちゃだけど、もしかしたら来年また鬼が来るかもしれない。そしたら次は緑鬼。なんとか、力になれないものか。」
桃太郎が考え込んでいると、おじいさんがきょとんとした顔で帰ってきた。
「ただいま。桃太郎、あの村人は大丈夫じゃったかの。」
「おじいさん、すいません、ほったらかして。長助さんは大丈夫です。元気に帰っていきましたから。それはそうと、緑鬼をどうにかしないと。」
「緑鬼?鬼に色があるのか。で、その緑鬼がどうした?」
桃太郎は隣村で起こった惨事を細かく伝え、おじいさんと一緒に討伐計画を立てた。
「桃太郎、考えついたか?」
「はい。やはり総力戦がいいかと。相手は小さいので、いくら素早いとは言え大人数人で囲めば倒せるのではないでしょうか。」
「ん〜、ダメじゃ。10人で襲いかかったとしても、3人でも倒されたら戦力も気力も半分以下になるじゃろう。それに、この作戦だと確実に何人かが犠牲になる。そうなってはダメじゃ。」
「確かにそうですね。犠牲者は出したくない。だとすると、どうすれば…。」
「素早い奴なら、動けなくなれば怖くないな。」
「と、いいますと?」
「確か隣の村は餅米がよく採れるじゃろ。その餅を使って動きを封じるんじゃ。ただの餅だと表面が乾いてすぐダメになっちまうから、水を混ぜて緩くするんだ。そしたら、鬼は足をとられて動きづらくなるじゃろ。」
「なるほど、足元から攻めるんですね。でも、もしも失敗したら?」
「本番で失敗せんために、練習があるんじゃよ。ワシは隣村に古い友人がいるから、特徴を聞いてくる。その上で、仮説を立てて練習じゃ。」
翌日、おじいさんは隣村から戻り、さっそく餅罠の製作に取り掛かった。
餅罠を完成させた後、聞いてきた情報を桃太郎に伝え、芝刈りが終わってからひたすら練習に励んだ。
丸太を緑鬼に見たて、何度も何度も失敗を繰り返して、ようやく突破口が見えてきた。
「おじいさん、これならいけそうです。確かに動きは素早いですが、本当に厄介なのは予測不能な変則的な動線ですね。この動きさえ読めれば、速度に目が慣れてきたので倒せそうです。」
「そうじゃな。確かに動きは見切れてきておる。だが、油断は禁物じゃ。いいか、桃太郎。一発でも当たれば終わりじゃ。まだ緑鬼が来るまで時間があるから、空いてる時間でもっと練習して、間違いのない戦い方を体に染み込ませるんじゃ。」
「はい、おじいさん。来年までには必ず仕上げます。やってみます。」
桃太郎は、芝刈りの前と後、くたくたになるまでひたすら練習した。
隣には毎日欠かさずおじいさんがいて、二人三脚で取り組んだ。
約1年後。
驚異的な成長スピードも相まって、桃太郎の体は見違えるほどたくましく、自信に満ち満ちた表情に仕上がっていた。
「じゃあ、おじいさん。行ってくるよ。」
そして、おじいさんが書き上げた討伐計画書ときびだんごを懐に入れ、隣村へと歩き出した。
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