その七
もう一人のブルース・ブラザースは流石に彼女の言葉にびびったのか、それ以上何も出来ずに固まってしまったようだ。
だが、革ジャンとTシャツ男は違った。
彼らは物も言わずにナイフを抜き、突っかかって来た。
こっちの相手はお任せあれとばかりに、俺は腰から特殊警棒を引き抜くと、革ジャンの手首を思い切り打ち、続けざまに顔面へ裏拳を叩き込む。
俺がそうしている間に、ジョージはお決まりのハーフフィンガーのグローブで、Tシャツ男の顎に右ストレートをヒットさせていた。
二人とも、何のことはない。簡単に伸びてしまった。
従業員(いや、女学生さんというべきか?)達は隅の方に固まって、俺たちの騒動を見守っていたが、事件が片付くと、何故だかみんなで俺たちに拍手を送った。
『ここは警察に連絡するべきだと思うが、どうだね?』俺が環嬢に声をかけると、
『いえ、この場は私に任せてください』
そういうと、彼女は袴の間に挟んでいた携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛けた。
その時の会話は、徹頭徹尾ドイツ語・・・・いや、そうではない。ドイツ語訛りの
”あの国の言葉”だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一時間も経たずに、店の中にはブルース・ブラザースが溢れた。革ジャンとTシャツ男は、その中でも一番屈強な四人に両脇を抱えられて店から連行されていった。
残った中には、何と”彼女”つまり、切れ者女史こと五十嵐真理警視の姿まであった。
『驚いた?』彼女は涼しい顔をしながら、そういって”店内禁煙”の札をものともせずに、シガリロを口に咥えて火を点けた。
『いや、別に、まあ、あんたが俺に忠告してきた時点で、なんとなく想像がついていたがね』
俺はそう言ったものの、腹の中では少しばかり驚いていたのは事実である。
彼女はシガリロを半分まで喫って、携帯灰皿に放り込むと、あの”環お姉様”に声をかける。
すると向こうでもにこやかに微笑みながら、彼女と抱き合い、キスを交わした。
『分かる?彼女とは”オトモダチ”なのよ。』
”オトモダチ”が、何を指しているか・・・・まあそれはご想像に任せるとして・・・・マリーの説明によれば、彼女はマリア姫の祖国の特殊工作隊の隊員。つまりは訓練を受けたスパイだというのだ。
環は日本人女性と向こうの男性の間に生まれた。つまりはハーフってやつだ。
日本語に母国語、そして英語にドイツ語と、最低でも三か国語に通じ、しかも武術の達人と来ている。
そんな彼女に父の母国が目をつけ、特殊潜入工作員となって、日本に潜入していたという訳だ。
彼女はマリアの父君の大公殿下よりの密命を受けて、密かに彼女を陰から守護していたってわけだ。
なるほど、この店に来るってことも前から分かっていたんだな。
革ジャンとTシャツ男は、叔父の伯爵側、要するに彼女の形ばかりの婚約者が雇った殺し屋だったらしい(曖昧な言い方をするなよ。だって?仕方ないだろ?そっちはそっち、こっちはこっちだからな)
『貴方たちにはご迷惑をおかけしました』環嬢はそう言って優雅に頭を下げて見せた。
『姫様をお守りくださいまして・・・・』
『待ちな!』その時健がまたドスを効かせる。
『こっちの契約はまだ凡そ六時間ほど残っているんだ。契約が満了するまで彼女は渡さない。そうだろ。探偵?』
『勿論』
俺は答え、口に咥えたシナモンスティックを揺らして見せた。
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