砂瑠璃とシュウシュウの想い

 カジタはぽかんとした。


 顔に赤黒い刀傷が真横にある、そして片腕のない男。滅多に屋敷で見かけなかったが、負傷者も養うシュウシュウの懐の深さは下男や侍女から聞いていた。が、まさか、この男が心に秘めた男だという。


 侍女達もポカンと口を開けた。そして、やっと口を開いたのはカジタだった。



「私の妻になるのを断る為ですか?」


「ああ、なるほど」と小さく誰かが呟き皆がつぶやいたものを睨む。

 砂瑠璃もそっちを見た。そうか、なるほどと心で思った。



 シュウシュウはカッとした。元来カッとしやすいのだ。



「なぜ、そんなことを言うのですか。私はこの方を敬い、ずっと」


 砂瑠璃がシュウシュウを見た。シュウシュウは続きを言うことができなくなり、俯いた。


 カジタはそれを見て、これは本当の話かもしれないとも思ったが、断る口実まで作りたいのだとも思い、男らしく頭を下げて屋敷を出ていった。



 美しい庭先に取り残された見送りの者達と砂瑠璃とシュウシュウ達は誰一人口を開かなかった。


 多英が「お見送りはすみましたか?」と、この頃には朝早く起きなくなっていたのでゆっくりやってきてシュウシュウに訪ねた。



 すると、砂瑠璃がどすんと小さな多英の前に座り込みそしてガバっと頭を下げた。



「多英殿。わたくしとシュウ様を妻にしたいと思っております。許してくださらないか」


 低い声で言う。侍女の一人は、シュウシュウの冗談に砂瑠璃がのっかっていると半分笑おうとしたときだった。呆然とする皆であったが、シュウシュウは目はみるみる涙で溢れ、砂瑠璃の隣にしゃがみこみ、同じように多英に頭を下げた。



「お願い、多英。お願いです。砂瑠璃殿が本気なら、私はずっとこのお方を好いておりました。わたくしはもう歳です。この、わたくしが、結婚など、できないと頭でわかってます。でも許されるのなら夫婦として砂瑠璃殿と暮らしたい、砂瑠璃殿、砂瑠璃、それはあなたの心からの言葉ですか?!」



 シュウシュウが泣きながら砂瑠璃に聞く。砂瑠璃まで泣いていた。


「わたくしは身分も違い、貴女を好きになるのは、罪だと思っていた。だが、もう無理です。貴女がもしも、身分を捨て去ってくれるのなら二人で暮らしませぬか?わたくしは、あの男ような幸せはあなたにやれない。貧しくもなるでしょう、それでもよいと言ってくださるのなら…」



 シュウシュウの顔は涙に濡れていたが喜びに満ちた顔になった。多英が「なりませんっ!」と叫んだところで二人の耳には届かない。


「多英、お願い」


 シュウシュウは何度も頭を床につけた。


「貴方はわたしに頭を下げる身分じゃない!お忘れですか!!?


 何もかもこの男のせいで、そんな、馬鹿げた真似を」



「わたしはもう身分なんてない、ないはずです。わたしは義務感だけで生きてきました。砂瑠璃殿がそう言ってくださるのなら、わたしは、わたしは、砂瑠璃殿にふさわしい妻となりたいのです」



 震える声で頭を下げるシュウシュウに、周りのものはこれは夢でなく、世迷言でもなく、現実だと思ってわっとなった。「どういうこと?片腕の将軍とシュウ様が想い合っていたということ?」


 多英は歳の割に怒りに満ちて力強く拳を振り上げた。砂瑠璃が思わず頭を下げてるシュウシュウの前に移動する。



「シュウシュウ様!!なりません!!あなたの運命は決まってるのです!」



「私の運命は、この方です。この方です!」


 シュウシュウが顔をあげて叫ぶ。



「あなたは何もわかってない!死罪ですよ! この男と結ばれれば、死罪ですよ!」


 ハクが王になる。その王が目をつけてるシュウシュウが勝手に夫を作ったらもう皆殺しだ。



 多英は髪も逆立ってる。侍女や下男達は死罪という言葉に震え上がった。


 砂瑠璃はというと、死んだこととして隠れてるシュウシュウは眞の王の第三婦人と常に頭にあったので、多英はそういう意味で「死罪」と叫んでると思っていた。


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